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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
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猟師を狩る獣

 ナビス湖と三日月湖の、ほぼ中間地点にある森の中で、聖堂騎士団は野営をしていた。

 この場所で、10人程度の人間が先に野営していた痕跡があったので、その調査も兼ねてであった。


 「隊長、やはり奴らはここで野営を行い、さらに北に向かった模様です」

 「そうか、集団の人数は特定できたか?」

 「はっ!先陣が7名、後から2名加わったか、追いかけていったのかが不明ですが、9名がここを使用したと思われます」

 「9名か・・数が合わないな・・」


 捕縛した「商人」の記憶によれば、総勢は16名・・いや15名になっているはずだ。あとの6人は別行動なのか・・

 騎士団の隊長が悩んでいると、新たな報告が舞い込んできた。


 「隊長!シーカーより繋ぎが来ました!」

 「よし、こちらに回してくれ」

 召喚された隼の足に括りつけられた羊皮紙の切れ端を持って、隊員が隊長の元へと走り寄ってくる。


 「・・先行部隊が4名、本体が7名か・・残り4名は置いて行かれたようだな・・」

 「奴らはすでに半日先に進んでいるようです。すぐに追いますか?」

 「いや、我々の重装備では追いつくことはできないだろう。邪神教徒が足を止めるまで、追跡はシーカーに任せて、確実に追い込むぞ」

 「はっ!そのように部隊に通達します」

 

 強行軍もあるかと身構えていた騎士団員達だったが、今晩は野営とはいえ休息が取れると知って、ほっとした空気が流れた。

 それぞれが野営の準備に取り掛かる中、隊長は邪神教徒の動きを頭の中で辿っていた。


 シーカーの報告が正しければ、本隊7名がこの場で野営し、その後、置いて行かれた4名の内の2名が追いついた・・・だが、この2名はシーカーには確認できていない、ということは本隊には合流していない・・

 つまり、我々より北に、邪神教徒4名、7名、シーカー、2名が移動中で、残り2名が行方不明ということか・・

 分散されているのは、追跡するには面倒だが、敵の戦力が集中していないのは有難かった。ビスコ村を出るときには、近場の拠点を急襲して、一度は戻る予定だったので、騎士団側の戦力も十分ではなかった。

 しかも邪神教徒の罠で、3人が戦線を離脱している。ここは現状を対策本部に知らせて増援を頼むべきだろう・・


 隊長は、若手で体力のありそうな隊員を二人選んで、ビスコ村への伝令に送り出すことにした。

 「2時間、ここで休息したら、急ぎビスコ村の本部にこの書状を届けてくれ」

 「はっ!伝令でしたら、私一人でも問題ありませんが・・」

 「途中で敵対的な何かと遭遇する可能性もある。未開地では常に複数行動と教えたはずだな」

 「申し訳ありません!出すぎた意見でした」

 「こちらの戦力が減ることを危惧したのだろうが、その書状が本部に届くことが肝心だ、頼んだぞ」

 「「はっ!一命に代えましても!」」



 その様子を、離れた場所から覗う二人組がいた。

 一人は、料理人の格好をしていて、大きな鞄を肩から提げていた。もう一人は、学者風のいでたちで、手には分厚い本を抱えていた。


 「で、騎士団様はどうするって?」

 料理人が学者に尋ねた。すると遠見の呪文をかけていた学者が術を解いて答えた。


 「あそこで野営だそうだ。2時間後に二人ほど伝令がビスコ村に向かうらしい」

 「ほーー、そりゃあ命がけの大役だ。途中で悪い連中に襲われないといいがなあ」

 料理人が他人事みたいに惚けた。


 「まったくだ。しかも片方はしるしがある若者みたいだぞ」

 遠見で伝令の隊員を観察していた学者が、何かに気がついていたらしい。


 「おいおい、それはラッキー・・・いや彼らにとっては不運なことで」

 「悪者に襲われるとしたらどのあたりかな?」

 「そうだなあ・・人知れず行方不明というのもよく聞く話だが・・ここは眠った仲間に悲鳴が届くぐらいの距離が、話が盛り上がりそうだよな」

 「話と言っても恐怖の夜話になりそうだがな・・」


 二人は頷くと、舞台を作りに移動を始めた。




 オークの丘が見渡せる丘にて


 「リーダー、逃げた一人が見つからないよ」

 最大限に警戒しながら、逃走した邪神教徒を発見しようと奮闘していた六つ子であったが、その努力は徒労に終わっていた。

 なぜならすでに「狩人」は、彼らの監視を逃れてオークの丘に潜入を果し、その後、爆死していたからである。しかしそのことは彼らは知らなかった。


 「どうやら、南に逃げ戻ったようだな・・警戒態勢を少し緩めて、交代で休息をとろう」

 「ふう、やっと食事ができそうだよ」

 「水ある?喉がカラカラ」

 「先に見張り番するから、食事を全員分用意しといてくれ」

 「トイレ・・・」


 交代で食事を取り、一息つけたと思った矢先に、レンジャーが何かを感知した。


 「何か来る!」

 「どこから?!」

 慌てて武装を構える4人だったが、レンジャーは地面を指した。

 「地下から?」


 「えっ?」x4

 

 レンンジャーの指差した地面が、もこもこと盛り上がったと思う間もなく、ポコっと何かが顔を出した。

 「もぐら?」x5


 「キュキュ?」

 土竜塚から顔を出したのは、一頭のハリモグラだった。


 「可愛いい!」

 「いやいや、でかくないか?」

 「ハリネズミかな?」

 「穴掘ってきたからハリモグラじゃないか?」

 「キュキュ」

 「・・正解らしいぞ」


 野生のハリモグラにしては少し・・いやだいぶ大きい個体が、塚から這い出してくると、さらに後から2頭の小型のハリモグラが連なって出てきた。


 「また、増えた」

 「家族で散歩かな?」

 だが、良く見ると最後の1頭は、蔦を編んだ紐を輪にして首に引っ掛けていた。


 「何か引っ張ってきたみたい」

 「紐ということは誰かが飼っているのか?」

 六つ子が思い浮かべたのは、枝豆をくれたドルイドだった。


 「キュキュキュ」

 ハリネズミは首から外した紐を、その場に残すと、まるで用事は終わったとばかりに別な穴を掘って、土の中に消えていった。


 「いっちゃった・・」

 「謎の紐を残してな・・」

 「これを引けってことだよな?」

 「枝豆の追加だと嬉しいな」

 4人が一斉にリーダーの顔を覗った。


 「・・無視するわけにもいかないだろう・・少し離れていろ」

 そう言って、リーダー自らが紐に手をだした。


 「・・何かが結んであるな。割と軽いものだ」

 ゆっくりと紐を手繰り寄せるリーダーを、他の4人が固唾を飲んで見守っていた。


 やがて紐の先に結ばれた何かが姿を見せた。


 「矢筒?」x4

 それは普通に狩人が背負う矢筒だった。なぜか少しベタベタしていたけれども・・


 「ねえ、なんか嫌な予感がするんだけど」

 「奇遇だな、俺もだ」

 「予感というか、矢筒の中から禍々しい気配するよね」

 「開けない方が良くないか?」


 「そうもいかんだろう・・」

 リーダーは恐る恐る矢筒の蓋をはずしてみた。すると中から、1本のボルトケースが姿を現した。


 「うわ、やばそう」x4

 4人が見守るなか、リーダーがケースに書かれた文字を読んだ。


 「・・人族殺しの矢・・」


 「厄介事を押し付けられた!?」x4

 


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