猟師を狩る獣
ナビス湖と三日月湖の、ほぼ中間地点にある森の中で、聖堂騎士団は野営をしていた。
この場所で、10人程度の人間が先に野営していた痕跡があったので、その調査も兼ねてであった。
「隊長、やはり奴らはここで野営を行い、さらに北に向かった模様です」
「そうか、集団の人数は特定できたか?」
「はっ!先陣が7名、後から2名加わったか、追いかけていったのかが不明ですが、9名がここを使用したと思われます」
「9名か・・数が合わないな・・」
捕縛した「商人」の記憶によれば、総勢は16名・・いや15名になっているはずだ。あとの6人は別行動なのか・・
騎士団の隊長が悩んでいると、新たな報告が舞い込んできた。
「隊長!シーカーより繋ぎが来ました!」
「よし、こちらに回してくれ」
召喚された隼の足に括りつけられた羊皮紙の切れ端を持って、隊員が隊長の元へと走り寄ってくる。
「・・先行部隊が4名、本体が7名か・・残り4名は置いて行かれたようだな・・」
「奴らはすでに半日先に進んでいるようです。すぐに追いますか?」
「いや、我々の重装備では追いつくことはできないだろう。邪神教徒が足を止めるまで、追跡はシーカーに任せて、確実に追い込むぞ」
「はっ!そのように部隊に通達します」
強行軍もあるかと身構えていた騎士団員達だったが、今晩は野営とはいえ休息が取れると知って、ほっとした空気が流れた。
それぞれが野営の準備に取り掛かる中、隊長は邪神教徒の動きを頭の中で辿っていた。
シーカーの報告が正しければ、本隊7名がこの場で野営し、その後、置いて行かれた4名の内の2名が追いついた・・・だが、この2名はシーカーには確認できていない、ということは本隊には合流していない・・
つまり、我々より北に、邪神教徒4名、7名、シーカー、2名が移動中で、残り2名が行方不明ということか・・
分散されているのは、追跡するには面倒だが、敵の戦力が集中していないのは有難かった。ビスコ村を出るときには、近場の拠点を急襲して、一度は戻る予定だったので、騎士団側の戦力も十分ではなかった。
しかも邪神教徒の罠で、3人が戦線を離脱している。ここは現状を対策本部に知らせて増援を頼むべきだろう・・
隊長は、若手で体力のありそうな隊員を二人選んで、ビスコ村への伝令に送り出すことにした。
「2時間、ここで休息したら、急ぎビスコ村の本部にこの書状を届けてくれ」
「はっ!伝令でしたら、私一人でも問題ありませんが・・」
「途中で敵対的な何かと遭遇する可能性もある。未開地では常に複数行動と教えたはずだな」
「申し訳ありません!出すぎた意見でした」
「こちらの戦力が減ることを危惧したのだろうが、その書状が本部に届くことが肝心だ、頼んだぞ」
「「はっ!一命に代えましても!」」
その様子を、離れた場所から覗う二人組がいた。
一人は、料理人の格好をしていて、大きな鞄を肩から提げていた。もう一人は、学者風のいでたちで、手には分厚い本を抱えていた。
「で、騎士団様はどうするって?」
料理人が学者に尋ねた。すると遠見の呪文をかけていた学者が術を解いて答えた。
「あそこで野営だそうだ。2時間後に二人ほど伝令がビスコ村に向かうらしい」
「ほーー、そりゃあ命がけの大役だ。途中で悪い連中に襲われないといいがなあ」
料理人が他人事みたいに惚けた。
「まったくだ。しかも片方は徴がある若者みたいだぞ」
遠見で伝令の隊員を観察していた学者が、何かに気がついていたらしい。
「おいおい、それはラッキー・・・いや彼らにとっては不運なことで」
「悪者に襲われるとしたらどのあたりかな?」
「そうだなあ・・人知れず行方不明というのもよく聞く話だが・・ここは眠った仲間に悲鳴が届くぐらいの距離が、話が盛り上がりそうだよな」
「話と言っても恐怖の夜話になりそうだがな・・」
二人は頷くと、舞台を作りに移動を始めた。
オークの丘が見渡せる丘にて
「リーダー、逃げた一人が見つからないよ」
最大限に警戒しながら、逃走した邪神教徒を発見しようと奮闘していた六つ子であったが、その努力は徒労に終わっていた。
なぜならすでに「狩人」は、彼らの監視を逃れてオークの丘に潜入を果し、その後、爆死していたからである。しかしそのことは彼らは知らなかった。
「どうやら、南に逃げ戻ったようだな・・警戒態勢を少し緩めて、交代で休息をとろう」
「ふう、やっと食事ができそうだよ」
「水ある?喉がカラカラ」
「先に見張り番するから、食事を全員分用意しといてくれ」
「トイレ・・・」
交代で食事を取り、一息つけたと思った矢先に、レンジャーが何かを感知した。
「何か来る!」
「どこから?!」
慌てて武装を構える4人だったが、レンジャーは地面を指した。
「地下から?」
「えっ?」x4
レンンジャーの指差した地面が、もこもこと盛り上がったと思う間もなく、ポコっと何かが顔を出した。
「もぐら?」x5
「キュキュ?」
土竜塚から顔を出したのは、一頭のハリモグラだった。
「可愛いい!」
「いやいや、でかくないか?」
「ハリネズミかな?」
「穴掘ってきたからハリモグラじゃないか?」
「キュキュ」
「・・正解らしいぞ」
野生のハリモグラにしては少し・・いやだいぶ大きい個体が、塚から這い出してくると、さらに後から2頭の小型のハリモグラが連なって出てきた。
「また、増えた」
「家族で散歩かな?」
だが、良く見ると最後の1頭は、蔦を編んだ紐を輪にして首に引っ掛けていた。
「何か引っ張ってきたみたい」
「紐ということは誰かが飼っているのか?」
六つ子が思い浮かべたのは、枝豆をくれたドルイドだった。
「キュキュキュ」
ハリネズミは首から外した紐を、その場に残すと、まるで用事は終わったとばかりに別な穴を掘って、土の中に消えていった。
「いっちゃった・・」
「謎の紐を残してな・・」
「これを引けってことだよな?」
「枝豆の追加だと嬉しいな」
4人が一斉にリーダーの顔を覗った。
「・・無視するわけにもいかないだろう・・少し離れていろ」
そう言って、リーダー自らが紐に手をだした。
「・・何かが結んであるな。割と軽いものだ」
ゆっくりと紐を手繰り寄せるリーダーを、他の4人が固唾を飲んで見守っていた。
やがて紐の先に結ばれた何かが姿を見せた。
「矢筒?」x4
それは普通に狩人が背負う矢筒だった。なぜか少しベタベタしていたけれども・・
「ねえ、なんか嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな、俺もだ」
「予感というか、矢筒の中から禍々しい気配するよね」
「開けない方が良くないか?」
「そうもいかんだろう・・」
リーダーは恐る恐る矢筒の蓋をはずしてみた。すると中から、1本のボルトケースが姿を現した。
「うわ、やばそう」x4
4人が見守るなか、リーダーがケースに書かれた文字を読んだ。
「・・人族殺しの矢・・」
「厄介事を押し付けられた!?」x4




