この距離で鎧を貫くのか
オークの丘が見渡せる丘を見張れる茂み
そこに身を潜める二人の人影があった。
「やっぱり居たな、騎士団の犬が」
狩人の姿をした男が、オークの丘を監視しながら忌々しそうに呟いた。
移動途中で冒険者が良く使う鳴子が仕掛けてあったのに気がつき、逃亡奴隷達と別れて行動した結果、この監視拠点を発見できたのだ。
「そこから見て、何人いる?」
その呟きを聞いた、隣の男が尋ねた。彼は一見すると何の職業か見分けが着かない服装をしていたが、腰に鞭を下げていることから、騎手か御者のようだった。
「ざっと見たところ、重装戦士が1人、軽装女弓士が1人、ローブ姿が1人・・・だな。ちょろちょろ頭を出すのでもっと沢山居る様に見えるが、同一人物が立ち位置を変えているだけだろう」
「3人か・・なら殺れるな」
「だな」
そう言って狩人は、背中に背負ったクロスボウを構えると、禍々しい色に変色した鏃を備えたボルトを慎重にセットした。
「致死毒のボルトか?」
横で見ていた御者が、自分の武器である鞭を取り出しながら、狩人に尋ねた。
「いや、麻痺毒の方だ。あっちは解毒剤が切れていて、うかつに使用できねえ」
「まあいい、相性の悪い重装戦士を無力化すれば、残りの二人はどうとでもなる」
「牽制は任せたぜ、3・2・1・あばよ」
狩人の放った必殺の一撃が、キャンプ地でオークの丘を見張っていた重装戦士の背中に突き立った。
それと同時に、御者が身を屈めながら一気にキャンプ地に接近していった。
狩人は、クロスボウを再装填しながら、御者に釣られて姿をさらす愚かな犬を待ち構えていた。
ドスッ 「ぐはっ!」
リーダーが、突然飛来したクロスボウのボルトを背中に受けて、前のめりに倒れた。
「敵襲!」
「しまった他にも居たんだ」
「リーダー!」
「身体が硬直している、毒かも知れない」
六つ子は慌てて後方を警戒した。
「敵接近中、数は1」
「射撃で奇襲を掛けたのに1人で突撃?射手が後ろにいるはずだぞ」
「麻痺毒か、これならなんとか・・」
「対狙撃手フォーメーションいくよ、3・2・1・」
狩人が見ていると、障害になっている潅木の陰から、一人の軽装女弓士が立ち上がって御者を射ろうとしていた。
「ローブの野郎は出てこないか。仕方ねえ、こいつは潰すから後は任せたぜ・・・」
御者に向かって聞えるはずのない声をかけると、再び麻痺毒のボルトを放った。
だがそのボルトは、射手の直前で見えない障壁に弾かれたように軌道を変えてしまう。
「ちいっ!矢避けの防御陣か!」
いつの間にか、射撃武器を無効化する呪文が張られていた。初弾は狙い通りに命中したということは、この結界は今張られたということだ。
さらに御者を狙っていたはずの弓士がこちらに狙いを変えていた。
「・・ツイン・シュート!・・」
放たれた2本の矢が、狩人の胸に突き立った。
「くそっがああ」
防御陣を突破する為に、取って置きの魔法のボルトを装填しようとした狩人だったが、続けざまにマジック・アローの呪文が打ち込まれてきた。
確実に後方の射手から潰しにくる戦術に、狩人は堪らず死角となる大木の裏に逃げ込んだ。
「・・畜生、今は隠れてチャンスを待つしかねえ・・」
そして牽制役になるはずだった御者にも不幸が訪れていた・・
自分を狙ってくるはずの弓士が、目標を変えて後方の狩人にスキルを使っていた。さらにはローブの男が立ち上がり、呪文で追撃をしている。
「だが、それならそれで好都合だ!」
弓士も術士も接近戦に持ち込めば、その戦闘力は激減する。しかも鞭使いの自分なら、中距離から二人を同時に制圧できる。丘の斜面を登りきれば、こちらの勝ちだ。
そう信じて全速でキャンプ地に接近した御者が見たのは、クレリックから治療を受けて麻痺から回復した重装戦士と、4人の冒険者達だった・・
「3人じゃなかったのかよ・・」
御者の呟きに、5つの同じ顔が頷いた。
木の陰でヒーリングポーションを飲み干した狩人の耳に、爆発音が響いて来た。
「すまねえな、俺の見立て違いだ・・だが、無駄死にはさせねえぜ・・奴らは必ず生け贄にしてやる・・」
狩人は気配を消すと、そっとその場を離れていった。
「あぶなっ!本気で、あぶなっ!」
絶対絶命になった御者の自爆に巻き込まれそうになったレンジャーが騒ぎまくっていた。
「思ったより効果範囲が広かったな」
「火傷した、治療を頼む・・」
「レジストファイアーをもらっておいて正解だったな」
「しかしキャンセルできないとなるとやっかいだな」
事前に自爆テロの話を聞いてきたので、前衛には火炎耐性の呪文を付与しておいた。残りは後方から援護していたが、想定よりも爆発範囲が広かったのが誤算である。
それでも距離が離れれば威力も低下するので、メイジとリーダーが軽い火傷を負った程度で済んだ。
「射手にはにげられちゃったね」
「思ったより爆発がすごかったからな」
「どうする、追う?」
「魔力は半分かな」
クレリックが活躍した分、消耗が激しいようだ。
「ここで休憩しよう。邪神教団の後続の監視も必要だ」
「ラジャー」x4
六つ子はキャンプ地に留まることにした。
それを憎しみを込めて監視する狩人の姿があった。
「・・夜襲をかけても確実に殺せるのは一人・・ならば先にいった二人に合流して・・」
狩人は、冒険者に気付かれない様に遠回りをしながらオークの丘へと近づいていった・・・




