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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
216/478

この距離で鎧を貫くのか

  オークの丘が見渡せる丘を見張れる茂み


 そこに身を潜める二人の人影があった。

 「やっぱり居たな、騎士団の犬が」

 狩人の姿をした男が、オークの丘を監視しながら忌々しそうに呟いた。


 移動途中で冒険者が良く使う鳴子が仕掛けてあったのに気がつき、逃亡奴隷達と別れて行動した結果、この監視拠点を発見できたのだ。

 「そこから見て、何人いる?」

 その呟きを聞いた、隣の男が尋ねた。彼は一見すると何の職業か見分けが着かない服装をしていたが、腰に鞭を下げていることから、騎手か御者のようだった。


 「ざっと見たところ、重装戦士が1人、軽装女弓士が1人、ローブ姿が1人・・・だな。ちょろちょろ頭を出すのでもっと沢山居る様に見えるが、同一人物が立ち位置を変えているだけだろう」

 「3人か・・なら殺れるな」

 「だな」

 そう言って狩人は、背中に背負ったクロスボウを構えると、禍々しい色に変色した鏃を備えたボルトを慎重にセットした。


 「致死毒のボルトか?」

 横で見ていた御者が、自分の武器である鞭を取り出しながら、狩人に尋ねた。


 「いや、麻痺毒の方だ。あっちは解毒剤が切れていて、うかつに使用できねえ」

 「まあいい、相性の悪い重装戦士を無力化すれば、残りの二人はどうとでもなる」

 「牽制は任せたぜ、3・2・1・あばよ」

 狩人の放った必殺の一撃が、キャンプ地でオークの丘を見張っていた重装戦士の背中に突き立った。

 それと同時に、御者が身を屈めながら一気にキャンプ地に接近していった。


 狩人は、クロスボウを再装填しながら、御者に釣られて姿をさらす愚かな犬を待ち構えていた。



 ドスッ  「ぐはっ!」

 リーダーが、突然飛来したクロスボウのボルトを背中に受けて、前のめりに倒れた。

 「敵襲!」

 「しまった他にも居たんだ」

 「リーダー!」

 「身体が硬直している、毒かも知れない」

 六つ子は慌てて後方を警戒した。


 「敵接近中、数は1」

 「射撃で奇襲を掛けたのに1人で突撃?射手が後ろにいるはずだぞ」

 「麻痺毒か、これならなんとか・・」

 「対狙撃手フォーメーションいくよ、3・2・1・」



 狩人が見ていると、障害になっている潅木の陰から、一人の軽装女弓士が立ち上がって御者を射ろうとしていた。

 「ローブの野郎は出てこないか。仕方ねえ、こいつは潰すから後は任せたぜ・・・」

 御者に向かって聞えるはずのない声をかけると、再び麻痺毒のボルトを放った。

 だがそのボルトは、射手の直前で見えない障壁に弾かれたように軌道を変えてしまう。


 「ちいっ!矢避けの防御陣か!」

 いつの間にか、射撃武器を無効化する呪文が張られていた。初弾は狙い通りに命中したということは、この結界は今張られたということだ。

 さらに御者を狙っていたはずの弓士がこちらに狙いを変えていた。

 「・・ツイン・シュート!・・」

 放たれた2本の矢が、狩人の胸に突き立った。


 「くそっがああ」

 防御陣を突破する為に、取って置きの魔法のボルトを装填しようとした狩人だったが、続けざまにマジック・アローの呪文が打ち込まれてきた。

 確実に後方の射手から潰しにくる戦術に、狩人は堪らず死角となる大木の裏に逃げ込んだ。

 「・・畜生、今は隠れてチャンスを待つしかねえ・・」


 そして牽制役になるはずだった御者にも不幸が訪れていた・・


 自分を狙ってくるはずの弓士が、目標を変えて後方の狩人にスキルを使っていた。さらにはローブの男が立ち上がり、呪文で追撃をしている。

 「だが、それならそれで好都合だ!」


 弓士も術士も接近戦に持ち込めば、その戦闘力は激減する。しかも鞭使いの自分なら、中距離から二人を同時に制圧できる。丘の斜面を登りきれば、こちらの勝ちだ。

 そう信じて全速でキャンプ地に接近した御者が見たのは、クレリックから治療を受けて麻痺から回復した重装戦士と、4人の冒険者達だった・・


 「3人じゃなかったのかよ・・」


 御者の呟きに、5つの同じ顔が頷いた。



 木の陰でヒーリングポーションを飲み干した狩人の耳に、爆発音が響いて来た。

 「すまねえな、俺の見立て違いだ・・だが、無駄死にはさせねえぜ・・奴らは必ず生け贄にしてやる・・」

 狩人は気配を消すと、そっとその場を離れていった。



 「あぶなっ!本気で、あぶなっ!」

 絶対絶命になった御者の自爆に巻き込まれそうになったレンジャーが騒ぎまくっていた。

 「思ったより効果範囲が広かったな」

 「火傷した、治療を頼む・・」

 「レジストファイアーをもらっておいて正解だったな」

 「しかしキャンセルできないとなるとやっかいだな」


 事前に自爆テロの話を聞いてきたので、前衛には火炎耐性の呪文を付与しておいた。残りは後方から援護していたが、想定よりも爆発範囲が広かったのが誤算である。

 それでも距離が離れれば威力も低下するので、メイジとリーダーが軽い火傷を負った程度で済んだ。


 「射手にはにげられちゃったね」

 「思ったより爆発がすごかったからな」

 「どうする、追う?」

 「魔力は半分かな」

 クレリックが活躍した分、消耗が激しいようだ。


 「ここで休憩しよう。邪神教団の後続の監視も必要だ」

 「ラジャー」x4


 六つ子はキャンプ地に留まることにした。



 それを憎しみを込めて監視する狩人の姿があった。


 「・・夜襲をかけても確実に殺せるのは一人・・ならば先にいった二人に合流して・・」

 狩人は、冒険者に気付かれない様に遠回りをしながらオークの丘へと近づいていった・・・


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