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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第8章 暗黒邪神教団編
203/478

膝枕と子守唄

 「で、連れて帰ってきちゃったんだ・・」

 僕の目の前にはユニコーンを随えたヘラ達が、恐縮しながら待機していた。


 「へー、すごいね。エルフの里でも野生のユニコーンを飼い馴らした例はないよ。まだ幼生体のようだから、群から逸れたのかな?」

 もちろんクロスさんがこんな美味しい話を聞き逃すことなく、しれっとこの場に混じっている。


 「野生の、ということは飼育されたユニコーンっているんですか?」

 一角獣といえば伝説の霊獣のはずだけど、この世界では家畜化でもされているんだろうか・・


 「テイムに特化したクランだと、群を一つ懐かせてから、生まれた幼生体を馴致して騎乗しているところもあるね。もちろん戦乙女しか乗れないけどね」

 なるほど、乙女しか乗せないのは鉄板なんだ。


 「エルフは元々、精霊や妖精とは親和度が高いけど、人族は一角獣を見れば狩りの対象にしかしないから、こんなに大森林や北の連峰から離れた場所で見かけるのはめずらしいよ。引き寄せる何かがあったのかな?」

 ヘラの歌声に釣られて付いて来たらしいけど、それ以前にこの地域にうろついているのが不自然なのか・・・誰か召喚してから放置したとか?


 「ちょっとスキャンしてみようか。ヘラは大人しくしているように言い聞かせておいてね」

 「ん」 「はい、でしゅ」


 ユニコーン・ヤング「ニコ」:一角獣 幼生

種族:霊獣 ランク5 眷属化 不可

HP35 MP30 攻撃15 防御7

技能:頭突き、体当たり、警戒、危険察知、薬草学

特技:ユニキュア(一角治癒)、精霊呪文(光LV3)

備考:一角治癒 MP5 怪我・毒・病気を治癒する。効果はランクによる。

   召喚 精霊の泉の効果中


 「「あっ」」

 すっかり忘れてた。地底湖の横穴に治癒精霊を呼ぶ為の泉を設置してたね。

 忘れた頃にやってくる、「精霊流し」怖ろしい子・・・


 「どうやら心当たりがあったのかな?」

 クロスさんが僕らの表情を覗き込んで笑っているけど、これ予想の範囲外だよね。


 「治癒の精霊を呼ぶための泉は造りましたけど、霊獣が来るとは思わないじゃないですか」

 「ああ、それでルサールカやフェアリードラゴンが住み着いていたんだね。不思議なメンバーだから、この場所に精霊王の加護でもあるのかと思っていたよ」

 ここ、元はハイランドオークの墓場なんですけどね・・・



 「というわけで新しいゲストが増えました。ユニコーンの『ニコ』君です」

 「ヒヒン」


 幼生体なので、まだ共通語も念話も使えないみたいだ。クロスさんが言うには、あと数年で「念話」が、さらに数年経つと共通語を話せるようになるらしい。

 精霊の泉(湧き水バージョン)は、再配置を使って巣穴の淵の側に移設しておいた。地底湖だと蹄では歩いたり走ったりが、しづらいだろうからね。

 ニコもケンや穴熊ファミリーと元気に走り回っている。親御さんが連れ戻しにこないかだけが心配だけど、それは来たときに考えよう。

 ニコはヘラにべったりで、彼女が困惑するぐらいいつも一緒に行動している。

 走り回って疲れると、膝枕をしてもらいながら、子守唄を歌ってもらうのが、大のお気に入りだ。


 「懐いているみたいで、良かったじゃないか。僕も子守唄で寝ているあいだに触らせてもらったから大満足さ」

 「ロザリオは横で膝枕をスタンバイしていたのに、振られて落ち込んでましたよ」

 「さすがに骨むき出しの膝枕は硬すぎるみたいだね。そもそもガーディアンは乙女の分類からは外れるんじゃないかな?」

 いやいや、クロスさん、自分の娘なのに突き放し過ぎでしょう。


 「んー、スノーホワイト家の家訓は、『折れるまで鍛えろ、むしろ折れてからが本番だ』だからねえ。これぐらいは日常茶飯事かな」

 なにげにクロスさんも、娘には厳しかった。もちろんその上にもっと厳しいヒルダさんが控えているのだけれども・・

 せめてモフモフに注ぐ愛情の半分ぐらいは、娘に注いであげて欲しいものだ。


 「大丈夫さ、あの娘はもう仕える主を見出している。親の僕らが口を出すこともないよ・・」

 クロスさんは少し寂しげに呟いた。


 「でも手は出してますよね」

 「足もでてるね」

 ヒルダの指導は、今日も絶賛稼働中だった。



 オークの丘が見える丘にて


 この場所に野営地を作って、交代で見張りをし始めてから2日がたった。

 「目標に変化なし。今日も洞窟の周囲を冬狼と一緒に走り回っていた」

 「行方不明の冒険者2名も、あそこに定住したとみて間違い無さそう。隷属している雰囲気でもないし、自由意志であそこに居るみたい」

 「目標の捕獲は難しそうだ。気絶させて運ぶにも、あの馬体では無理がある」

 「討伐して角だけ持ち帰る?」

 「それをあそこの戦力が認めてくれるならな」


 この3日間の慎重な偵察のおかげで、オークの丘に住み着いている勢力が、おぼろげに把握できた。

 アイスオーク・ドルイド、穴熊7頭、冬狼1頭、影狼3頭、そして一角獣と元冒険者が二人。それらが交代で洞窟の外に出入りしていた。

 どうやら獣達も召喚されたのではなく、テイムされているらしい。魔狼を4頭も従えているドルイドなど始めて聞いた。あのアイスオークは只者では無いということだ。


 冒険者ギルドへは、該当する冒険者を発見したことだけ伝えてある。もちろんユニコーンの情報は伏せてある。ギルドに知られれば、他の冒険者に横槍を入れられる可能性が高い。

 兄弟の為にも、あの霊獣の力が必要だ。だが、強襲するのは最終手段だ。なんとか白髪の少女に協力を得られれば、霊獣も治癒を施してくれるに違いない。

 少女にだけ話ができる機会を覗いつつ、この場所で待機する日が続いていた・・・


 「ただいま、戻ったよ」

 「速いな、ビスコ村まで往復に4日はかかるかと思ったが」

 「全速で駆け抜けたからね、危険な遭遇もなかったし、そこは運が良かったかな」

 「それで、首尾は?」

 「ギルドへの報告は済んだよ。元冒険者の二人は放置で良いってさ。本人の自由意志に任せるみたい」

 「まあ、使役されているようには見えないしな。ギルドも後から報酬を請求されても困るだろうから、任務途中放棄あつかいがいいとこだろうな」

 「それで問題が一つ・・」

 「一角獣がバレたか?」

 「ううん、実際にはもっと悪いかも・・」

 「どうした言ってみろ」

 

 「あのオークの丘、ダンジョン認定されちゃった」


 「「「なんだと!」」」



 DPの推移

現在値: 2404 DP (3013DC)

スキャン:x1 -1

再配置:精霊の泉(治癒精霊用) -500 DP

残り 1903 DP (3013DC)

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