すかボロ市場に
「ボロ市に出掛けることがあったなら~♪」
森の中に美しい歌声が響いていた。
「せり、なずな~、ほとけのざ~♪」
歌っているのは、美しい白髪をなびかせた少女であった。
「そこに住んでる冒険者に伝えておくれ~♪」
彼女の後ろには、大男の樵と2頭の狼と1頭の馬が付き随っていた。
「かつて確かに私もそこにいたと~♪」
つまりヘラによる薬草採集とその護衛たちであった。
ヘラの澄んだ美声に聞き惚れていたグドンが、歌が途切れたときに気になっていたことを聞いてみた。
「ヘラ、訛ってないだ」
そう、サ行の発音が訛るはずのヘラが、歌うときは綺麗な発声をするのだった。
「歌は呪文と同じでしゅ。呪文も共通語でしぇいかくに唱えないとダメなのでしゅ」
ケンとチョビはなるほどと納得したが、グドンには難しすぎて理解できなかったらしい。けれどなんとなく歌は訛らないとだけ覚えた。
「ヘラ、村さ帰りたいだか?」
次に歌の歌詞が気になって、グドンが心配をする。
「これは古い民謡でしゅ。曲が綺麗だからしゅきなだけで、帰りたいなんて思わないでしゅよ。グドンは帰りたいでしゅか?」
「オデもここが良いだ。みんな優しい、みんな笑顔」
「「バウバウ」」
グドンの言葉にケン達が同意した。
「ヘラ、あの馬なんだべ?」
グドンは最後に一番聞きたかったことを尋ねた。
いつの間にか列の後ろに並んで歩いていた、1頭の白馬のことだ。
グドンが知る馬よりも若干小ぶりで、純白の馬体に純白の鬣、そして額には1本の角が生えていた・・・
「あれは馬ではないでしゅ。たぶん、ユニコーンでしゅ・・・」
ヘラは気付かない振りをしていた現実を指摘されて、困り果ててしまった。
それを悟ったケンが踵を返してダンジョンに戻ろうとした。
「バウバウ」
「そうでしゅね、ましゅたーにしょうだんしゅるべきでしゅね・・」
項垂れながら、ヘラも家路に戻ることに決めた。すでに背負い袋一杯の薬草は摘んであったし、頼まれた生姜も植えられるように土ごと掘り出してきてある。
このまま戻っても採集という成果では胸をはれるだろう。
なぜかユニコーンも当然のようについてくるのであったが。
その姿を、かなり離れた場所から観察する一人のレンジャーが居た。
六つ子の姉妹のどっちかだ。
彼女は鷹の目の呪文の効果を切ると、静かに兄弟達の野営場所まで戻って行った。
「聞いて聞いて、ビッグニュース!」
「どうした?捜索対象が見つかったか?」
「魔女に直接出会えたとか?」
「聖堂騎士団が突入していたとか?」
「蜜蜂の巣を見つけたとか?」
「それだ!」x3
「違うって!まあ、もし蜂の巣が見つかってたらビッグニュースではあるんだけど・・」
「だよな」x4
どうやらこの地域では蜂蜜は貴重品らしい。
「じゃなくて!捜索対象が二人とも確認できたんだけど、それも違くて!」
「違うのかよ!」x4
そのためにここまで来ていたはずなのだったが・・
「あれがいたのよ、あれが!」
「あれではわからん」
「白いやつよ!」
「白鳥?」
「4つ足で!」
「白熊?」
「角が生えていて!」
「白犀?」
「乙女しか乗れないやつよ!」
「まさか白鹿?」
「そうそう美の女神の化身で・・・って、わざと間違えてるでしょ、あんた達!」
睨み付けるレンジャーを宥めながら、リーダーが言った。
「まあ、落ち着け。ユニコーンが居たというのか?」
「いやいや伝説級の霊獣でしょ。こんな所にうろうろしてるわけないよ」
「白馬を見間違えたのでは?」
「それが本当だとしたら、魔女に頼まなくても治癒することができるんじゃあ・・」
伝説の霊獣は、その角にあらゆる毒・病気を癒す力を秘めているという。それがあれば兄弟の身体も元の健康な状態に戻せるかも知れなかった。
「もし実際にユニコーンだったとしても、問題が二つある」
「一つはヒーリングの呪文で悪化した症状が、霊獣の治癒能力で治せるのか・・ね」
「そしてもう一つ・・」
「「「このパーティーにユニコーンを魅了できる乙女はいない・・」」」
「「兄さんたち、ちょっとOHANASIしましょうか・・」」
森の中の野営地に、正座で説教される3人の兄弟の姿があった・・・




