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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
184/478

友よ、かたきはきっと・・

 投稿が大幅に遅れました。申し訳ございません。

 モフモフ陣営 探索再開から17:32


 シャドウの防衛ラインを力任せに突破したロザリオは、台座の後ろにいるシャドウマスターに斬りかかった。

 「もらった!」


 だが、しぶといシャドウマスターは、素早いバックステップでロザリオの一撃をかわすと、呪文の詠唱を始める。

 そのさらに背後から、いつの間にか移動していたワタリが、狙い澄ました攻撃を加えた。

 「これで逃げ場はないっすよ」


 「グォォォ」

 ワタリに肩口を斬られたシャドウマスターが初めて苦痛の声をあげた。

 前後から挟まれたシャドウマスターに逃げ道は無かった。


 「これでチェックメイトだ!」

 振りかぶったロザリオの剣が届く直前に、シャドウマスターのスキルが発動した。

 「くくっ・・シャドウ・フォーム(影変身)」


 すると、一瞬でシャドウマスターの姿が影のような半透明に変わり、ロザリオのミスリルソードがすり抜けてしまう。

 「ちいい、やっかいな能力を!」

 反撃で接触してこようとする影の腕をかわしながら、ロザリオは距離をとった。


 「こっちの武器も効かないっすけど、どうするっす?」

 「呪文で仕留める、足止めを頼む!」

 「そんな無茶っすよ」

 「無茶振りは芸人の華だろう」

 「トホホ」


 戦闘中にゆるい会話を始めた二人の隙をついて、シャドウマスターは元の姿に戻ると、最悪の呪文を詠唱し始める。

 「よし、かかったっす」

 シャドウ・フォームの持続時間中は本人も呪文を詠唱できなくなるので、わざと隙を見せたらしい。


 「これが肉を斬らせて骨を絶つ・・」

 「馬鹿者、能書き言ってる間に避けろ!その呪文はヤバイぞ!」


 ロザリオが詠唱キャンセルの為に斬りつけるが、想定以上の速さで詠唱を終えたシャドウマスターが、必殺の呪文をワタリに向かって放った。

 「ウケケケ・・ネガティブ・レイ!」


 シャドウマスターから放たれた暗黒のビームが、ワタリを襲う。

 咄嗟に身を捻ってかわすワタリのわき腹を、ビームが掠めた。

 「ギャアアアス」

 この世のものとは思えない叫び声をあげながら、ワタリはその場に崩れ落ちると、白骨死体になってしまった・・・


 「ワタリしゃん!」

 「オデ、届かなかった・・」

 「嘘だろ、ジャジャ・・」

 「オラがもっと上手く指揮さすれば・・」

 動揺するメンバーをロザリオが叱咤する。


 「今は悲しむ時ではない。ワタリの死を無駄にするな!」

 「キュキュ!」

 「ケロケロ!」

 「そうっすよ!」


 

 「「・・・おい!!」」


 そこには、しれっとした顔で立っているワタリの姿があった。


 「なんで生きているんだ?」

 「そんなことより、奴に止めをさすっすよ」

 ワタリ以外の全員が納得いかなかったが、正論ではあるので、戦闘を継続した。


 「この死に損ないが!」

 「土下座して謝れ、ジャジャー」

 「心配して損しただ!」

 シャドウマスターを攻撃しているはずなのに、なぜか殺意は別な誰かに向けられていた。


 「でも本当にどうやったでしゅか?」

 ヘラの素朴な疑問にワタリは答えた。


 「身代わりの術っすね。側に丸太が無かったから、骸骨戦士の骨で代用したっす」

 「なるほどでしゅ」

 「いやあ、探索中にランクがあがったらしくて、使ってみたかったんすよね」


 その能天気な声を聞いて、他のメンバーの斬撃にさらに力が篭る。

 とばっちりを受けた、シャドウマスターとお付のシャドウ達は、いつの間にか全滅していた・・・


 「正義は勝つっす」

 「「ほほう・・・」」



 オババ陣営 探索再開から17:05


 「今ここに、神の御名において裁きの炎を降臨せん。来たれ、フレイム・ストライク!(裁きの神炎)」


 ダミーコアルームの中で唱えられた第十階位の神聖呪文が、圧倒的な火力で全てを燃やし尽くした。

 だが、信者たるキャスターの立つ場所には、神の裁きの炎は効果を及ぼさなかった。

 

 死体も残さず消し炭になったバッタの大群ではあったが、熱気が冷めた部屋には、占有のコールは流れない。

 「まだどこかに潜んでいるのか・・」


 キャスターは焦っていた。

 部屋に散らばるバッタを虱潰しにメイスで叩くことに絶望した彼は、最後の手段に訴えたのだ。

 神聖呪文による広範囲攻撃、しかしキャスターの呪文リストにある範囲攻撃呪文は一つしかなかった。

 『フレイム・ストライク』

 神罰の炎とされるその強大な威力は、たかがバッタに使うには過剰すぎる。


 だが、それしか方法が残されていない以上、魔力の温存もあきらめて、狭い部屋で連射した。

 この呪文の特性上、爆風や延焼による二次被害は起こらず、信者のキャスターの立ち位置にも安全空間が発生する。

 ただし、普段なら有り難いこの効果も、この場に限っては邪魔となった。

 バッタも生き残るのだ・・


 最初の1撃は綺麗に決まり、ほぼ9割以上のバッタを焼却できた。

 しかし、それでバッタに危機感が生まれたのか、次の詠唱の間に、部屋の隅や、キャスターの真上の天井に避難するようになってしまった。

 その結果、残り5匹がどうしても倒せない。

 そして天井に張り付いたバッタにはメイスも届かない。そう考えたとき、キャスターはほとんど使わなくなった単体攻撃呪文を思い出した。

 「そうだ、スピリチュアル・ハンマーがあった・・」


 それは初期の頃にマジックウェポンの代わりとして使い、やがて忘れられていく第3階位の呪文だった。

有体に言えば、魔法で具現化したハンマーを遠距離操作して敵を叩くものだ。

 魔法の武器が手に入れば、おのずと使わなくなるのですっかり忘れていたが、今。このときにはまさしく神の御業であろう。


 キャスターは嬉々として天井のバッタを蠅叩きのようにハンマーでつぶしていった。


 「勝った・・」

 最後の1匹を叩き潰すと、一填補遅れてジャッジメントのアナウンスが流れてきた。


 『ただいまを持ちましてダンジョンバトルの終了をお知らせいたしますわ』


 「やったぞ、ランサー、セイバー、アーチャー・・」


 『今回のビルドバトル、勝者は・・モフモフチームですわ』


 「・・・なんだとーー」

 天を見上げて絶叫するキャスターの、肋骨の空洞の中に、バッタが1匹とまっていた・・・



 「むしかご?」


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