バレなきゃ犯罪じゃ
ダンジョンバトル委員会控え室 インターバル中
「はぁ~、なんとか前半終了ってところですわね」
「お疲れ様です、部長、お茶お入れしましょうか?」
「い、いいのよ、じぶんでするから。貴女は今回の殊勲者ですからね。そこでゆっくりしていてくださいな」
「わあ、いいんですか。フカフカのソファにお菓子食べ放題とか、夢のようです~」
「まさか、私も貴女のドジに助けられるとは思いもしませんでしたわ・・」
「えへへ、褒められましたー」
あの時、彼女がデスクを間違えて、ヘッドホンをオンにしなければ、バトルが進行中であることも分からなかったし、ズッコケて後ろのロッカーを開かなければ、「ヤンデレ」の暴挙が判明するのは事が終わったあとだったろう。そうなれば委員会の責任問題で、理事の首が何人かすげ替えられていた可能性もある。
本来なら「ドジっ子」には臨時ボーナスの上に昇格さえありえたのだが、そこは以前の負債が大きく、溜まりに溜まったペナルティーを相殺することで決着がついた。
昇格が無しになるほどの累積ペナルティーというのも怖ろしいが、本人は過去の失敗で怒られなくなった事に、素直に喜んでいる。
なお、実行犯の「ヤンデレ」であるが、事情聴集という名の尋問の後で、反省房という名の独房に吊るされている。それでも本人は黙秘を貫き通し、時たま「うふふふ」と不気味に微笑んでいるという。
「それで、どちら側が勝ってるんですか?」
「現状ではイーブンですわね。両陣営の探索済み領域はお互いに6割ほど、探索チームの損耗も無し。残してあるDPの分、コアのマスターさんが有利かもしれませんわね」
「ふわあ、相手がオババ様なのに、すごいですねー」
「あら、貴女もオババ様を知っているの?」
「はい、師匠ですー」
「・・いったい何のですの?」
「家事全般ですうー」
「・・・そ、そう、大変だったわね・・(オババ様が)」
「はい、大変でしたあ(怒られっぱなしで)」
オババ陣営 インターバル中
「いったいどういうことなのじゃ!30分たっても攻略できてないとは、ワシの顔に泥を塗る気かい!」
探索チームと連絡がとれた瞬間に、オババの罵声が飛び込んできた。
「カタカタ(はっ、真に申し訳なく・・)」
「相手はぽっと出の新人で、マスターレベルもこっちの半分もありゃしないんだ。圧勝して当然のバトルで、何ちんたら遊んでるのじゃ、お前達は!!」
「カタカタ(それが、敵はガーディアンを一切配置せずに、広大なダンジョンと罠だけで時間稼ぎしていて・・)」
「言い訳は見苦しいよ!ダンジョンが広くても、聖なる道程を使えば迷うこともないじゃろう」
「カタカタ(ですが、敵もそれを想定して構築しているようで・・)」
「馬鹿言うんじゃないよ。11Lvの秘蹟呪文を想定して、防衛ダンジョンつくる新人が、居るわけないじゃろうが」
「カタカタ(で、ですが・・)」
結局、キャスター達がインターバル直前までねばっても、3枚目の扉は試すことができなかった。
1枚目の石扉を開くのに、西のプレート、2枚目の扉を開くのに東のプレートを踏む必要があった。残った二人で、南階段の2つ目の宝箱を開いて、中から銀の鍵を見つけ出したが、その先の扉をあけるには北のプレートを踏む必要があるのだろう。
導きの光は北を指したまま、持続時間が切れて、術が途切れた。
「カタカタ(プレッシャープレートを踏む役目の眷属を3体送っていただければ、すぐにダミーコアルームに到達できるものと思われます)」
「その言葉、信じて良いのじゃな」
「カタカタ(はっ、この身に代えましても)」
「いいじゃろう、スケルトン・ファイターを3体増援に送ってやろう。じゃが、失敗は許さんぞ」
「「カタカタ(ははーー)」」
モフモフ陣営 インターバル中
「しーきゅー」
「感度良好っす」
「そっちの状況はどう?」
「皆、元気っすよ。戦闘は1回しかしてないっす」
「ノーミンは?」
「いま食事休憩中っす。呼んだ方がいいっすか?」
「あ、いや、ワタリが報告してくれるなら問題ないよ。それで障害としては何が残ってるかんじ?」
「広いプールで待ち構える大蛙の集団っすね。足場悪いだろうし、飲み込まれるとやっかいっす」
「なるほど、ラスボスらしき奴は見かけた?」
「それっぽいのはマダっすね。蛙の先にいるのか、隠しルートがあるのか、わからないっす」
なるほど、大蛙を突破してから探すのかな。
「タスクライダーが突進出来そうな広さがある?」
「ああ、そうっすね・・DPけちってあるから、狭いっすよ、ここ」
そうなんだ。まあ眷属のランクが高ければ、攻撃重視になるのも仕方が無いかもね。その反動で防御が薄くなるなら、ありがたいし。
「そしたら、増援はベニジャとケン・・・は防衛にまわすかもだから、ロザリオを送るね・・」
「その微妙な間は、圧力に屈したっすね」
「ああ、わかった?」
「ここまで、プレッシャーが届いたっすよ」
いや、そっち隔離された仮想空間なんだけど・・
「コア、ベニジャとロザリオを通常装備で転送して」
「あいあい」
「主殿、汎用装備では5割の力しか出せぬ」
「アタイの三つ又矛がーー」
「大丈夫、向こうで受け取って」
「「え?」」
「コア、スケルトン・ファイターに、主武器:三つ又矛、副武器:ミスリル・ソード、鎧:ミスリルメイル、盾:黒鋼のカイトシールドを固定武装化して、転送して」
「みつゆー」
「ギャギャ(それって反則なのでは?)」
「アズサさん、バレなきゃ反則じゃないんですよ」




