ホーリー・グレイル
オババ陣営 探索開始から00:14
召喚魔法陣が消えると、そこは9mx9mx6mのよくある石造りの部屋だった。
「全員、来ているか?」
リーダーの3番が他のメンバーに声を掛ける。
「7番、問題ない」
答えたのは、騎士風の武装をした守護者だった。少し体格が小さいので、女性なのかもしれない。
「12番、いるぜ」
次に返事をしたのは、硬革鎧を着た黒ずくめの守護者だ。武器は小剣を腰に差して弓を背負っているので、ローグかレンジャータイプに見える。
「18番、・・・」
最後に番号しか名乗らなかったのは、ローブを着込んで、フードで顔を隠した守護者だった。見た目は術者だが、骸骨守護者に囲まれていると、ネクロマンサーにしか思えなかった。
「よし、まずはセーフティールームの周辺の確認だ。12番頼むぞ」
4人の中で最も探索能力に優れているであろう、12番に頼んだが、反応は良くなかった。
「おいおいリーダー、その番号で呼ぶのやめてくれねえか。オババが名前を覚えるのが面倒で、眷属化した順にナンバーで認識してるのは、文句もつけられねえが、仲間内で番号呼びは寂しいじゃねえか」
役割分担が嫌なのではなく12番と呼ばれたのが不満らしい。
「ふむ、あまり複雑で長いのは困るが、コードネームと考えれば、良いか・・それで、なんと呼べばいい?」
「へへっ、心の広いリーダーでよかったぜ。じゃあこの探索の間は、俺のことは「アーチャー」って呼んでくれ」
「なんだ、言い出した割には普通のコードネームだな」
すると、その話を聞いていた7番が口を挟んできた。
「リーダー、「アーチャー」にも色々あるのだよ。それでいけば、私はさしずめ「セイバー」かな」
「かーー、わかってるじゃねえか。しかも女騎士、ぴったりだぜえ」
どうやら骸骨守護者の間にも、クール・ジャパンの魔の手が伸びていたらしい。
「ああ、なるほどな。それなら私は「キャスター」にするか」
「おいおい、こっちのお方はわかってないねえ。確かに神官もキャスト(詠唱)はするけどよー、リーダーが「キャスター」名乗っちゃったら、あいつはどうすんだよ・・」
アーチャーは、ローブ姿の男を指差した。
「そうか、そうだな・・私は違うのに・・」
「構わない・・」
ローブ姿の男がポツリと喋った。
「「えっ、いいのか?」」
リーダーの記憶では聖杯の騎士に術者系は1人しかいなかったはずだったが・・
「オレ、バーサーカー」
「「「なんでだよ!」」」
他の3人からダメだしをくらっていた。
結局、彼は得意な呪文が「ファイアー・ランス」だったので、「ランサー」と呼ばれるようになった。
本人は、「噛ませ犬は嫌だ」と最後まで抵抗していたけれども。
「さて、気を取り直して・・・アーチャー、周囲の索敵を頼む」
「任せろ、倒してしまってもいいのだろ?」
何をだ?あとそれは死亡フラグだ。
「四方にある下り階段には、罠の痕跡はないな。それぞれ9mほど下って両扉があるだけだ。何故か、3方向が地面むき出しの階段で、木の扉なんだが、1方向だけ石造りの階段で、扉も石だな」
普通にダンジョンを拡張すれば石造りになるはずなのに、わざわざ土をむき出しで造った意味がわからなかった。
「私がオババ様の護衛で彼らのダンジョンに入ったときも、地面がむき出しだったな」
セイバーがポツリと洩らす。
「なるほど、眷属で土を好む者がいるのか、単なる習性なのか・・・」
「キャスター、とにかく始点を決めてくれ。石階段の方角は何だ?」
「少し待ってくれ。ランサー、頼めるか?」
「・・・バーサーカー・・・」
本人はまだ納得しきれていないようだ。
「いいかげん、あきらめろよ。だいたいリーダーの身にもなってみろよ。『バーサーカー、魔力探知だ!』とか『バーサーカー、範囲攻撃魔法を頼む』とか、違和感ありまくりじゃねえか」
そう説得されて、ランサーはしぶしぶ呪文を唱えた。
「北の指示星よ、我に応えよ、ディテクト・ノース(方角探知)!」
ランサーの指先は、石階段とは反対側の土階段を指し示した。
「こっちが北だ・・」
「了解っと。なら石階段は南だな。で、どう進む?本命らしい南の石階段を降りるか、あえて他の3つのどれかを降りるのか」
ここまであからさまだと、南は罠の可能性が高い。ただし、そう思わせて南が本命かも知れない。
「せっかくだから、ダンジョン探索をじっくり楽しみたかったところだが、オババ殿には全力を出せと命じられている。故に無粋ではあるが、秘蹟を使わせてもらおう」
キャスターがそう言うと、アーチャーが顔を顰めた。
「それ使うならオレはいらねえだろ」
アーチャーの抗議を聞き流して、キャスターは高LV呪文を唱え始めた。
「我が守護神に願い奉る。我等が目指すはこの地に隠されし「ダミーコアルーム」なり。より早くより安全な道を指し示したまえ、ファインド・ザ・パス!(聖なる道標)」
キャスターの詠唱が終わると同時に、どこからか光の筋が差し込んできて、西の階段を照らした。その光の筋は、矢印のように階段の奥の木の扉を指し示していた。
「どうやら南は罠だったようだな」
キャスターはそう呟いて、メンバーに西に移動するように指示を出した。
「この光に沿って進めば、罠も回避できるし、無駄な戦闘も避けられる。必要な鍵があれば、取りこぼしもしない。ただし避けられない遭遇もあるので、セイバーが先頭だ」
「承知した、キャスター」
「あーあ、出番なくなったぜ」
「・・バーサーカー・・」
4人は西の階段を慎重に降りていった。




