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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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今、そこにいる危機

 大森林を支配領域とするツンドラエルフのクラン「静かなる冬の木立」から正式な使者がやってきた。

 とは言っても来訪したのはクルスさんだったので、会談は問題なく済み、相互不可侵条約が締結された。

 ただ一つだけ、クルスさんが申し訳なさそうに残していった言葉が、約1名に爆弾となって投下された。


 「すまない、私の力ではどうすることもできなかった。近日中に、両親がロザリオ姉さんに会いに、ここに来ると思う・・」


 「まずい、まずい、まずい」

 妹を見送りもせずに、ロザリオは頭を抱えて転がっている。


 「しょうがないよ、500年も音信不通だったんだから。心配かけたぶんは怒られるのも覚悟しないと」

 「主殿は、私の両親を知らないから、暢気にしてられるのだ。あの二人がここに来たら・・・」

 「来たら?」

 「ダンジョンが崩壊するかも知れない・・・・」

 ・・・ご両親てエルフだよね?ドラゴンとかじゃないよね?



 「しかし、あいつら完璧に染まってやがったな。あれじゃあ戻れとか言えないわな」

 眷属化した6人のエルフの様子を見せてもらったベテラン士官(俺を本名で呼ぶな)は、すっかり教育された彼らを、交渉で引き取る事をあきらめていた。

 元から、レッドベリー家は、任務に失敗して敵側に投降した者を、敗残者と見做す風潮がある。彼ら6人にしてみれば、里に戻って責任を問われるよりも、今の境遇の方がよほどマシだろう。

 それでも最近の戦闘で脆弱化したクランの戦力を回復する為に、自分の家で引抜が可能なら連れて帰りたいと思っていたのだ。

 だが、休憩時間にウィンター・ウルフの毛繕いをしてご満悦の姿を見た後では、馬鹿らしくて声をかける気もおきなかった。


 「動物好きは、スノーホワイト家の専売特許だと思ってたんだがな」

 「別に、うちだけの性癖ではあるまい。まあ極端な例は身近にいるがな」

 クルスは自分の親を思い浮かべていた。そして姉にもしっかりその遺伝子は受け継がれていたようだ。


 「ロザリオ姉さんには悪いが、しばらく両親の相手をしてもらおう。好都合なことに、あそこには動物も沢山いることだしな」

 「構いすぎて、ノイローゼにしなきゃいいけどな」

 「・・それだけが心配だ」


 本人達に悪気は無くても、条約を結んだ相手に一方的な被害を与えたら、賠償問題になるだろう。そうならないことを祈る二人であった。


 そんな弛緩した空気を、切り裂くように緊張が走った。


 「敵か!」

 「まだわからん、だが、ヤバイぞこれは」

 「全隊、気配を消せ!」

 「「はっ!」」

 クルスとベテラン士官、及び護衛兵4名は、即座に手近な木の陰に身を潜めた。


 彼らを脅かした強者の気配は、すれ違うように遠ざかっていった。


 安全な距離がひらいた事を確認してから、一斉に緊張を解く。

 「あれほどの気配を持つ者が、まだこの地域に存在したとは・・」

 「5体いたが、全部がこっちよりランクが上とかシャレにならん。しかも2体は、伝説級だったぜ」

 ベテラン士官尾の報告を聞きながら、クルスは、謎の存在が進んでいった方向を見ていた。


 「このまま進むと、オークの丘だな・・」

 「奴ら、大丈夫かね?」

 自らの領域に篭るダンジョンマスターを討伐するのは、非常に困難だ。だが、圧倒的な力の差があれば、不可能ではない。

 謎の存在が、ダンジョン討伐を目論んで、あれだけの強者を揃えたならば、下手をすると・・・


 「警告ぐらい送っても構わんだろうな」

 「そっちの関係者が、これから迷惑かけるしな」

 「クッ、正論だけに言い返し辛いな」

 クルスは、今はダンジョンの守護者となった姉に、風の囁きを送り届けた。



 「主殿、クルスから緊急通信だ」

 「ご両親もう来たの?」

 「いや、別口だ。里に戻る途中で、怪しげな一団とすれ違ったらしい。どうやら目標をここだと見当をつけて警告してくれたようだ」

 「それはすまなかったね。本当に来たら、お礼をしないと」

 「ああ、態々情報を送ってくるぐらいなので、よほどの凄腕なんだろうな」


 このタイミングでやって来るとなると、暗黒邪神教がらみで、教会から聖騎士団でも送られた?

 それにしては対応が早すぎような。もう一度ぐらい偵察部隊を送り込んできそうなものだけれど・・・


 「はにはに」

 おっと、言ってる側から蜜蜂警戒網に侵入者ありだ。

 「コア、集団の構成がわかる?」

 「ねるねるね」

 

 ・・・「ねるね」は魔女で、全部で5体いるってことは・・・

 魔女と4体の骸骨兵士であってるのかな?・・・・って、

 「ケロッピの方かよ!」



 「ひっひっひっ、どうやらここが隠れ家らしいね。見たとこ大した造りじゃないが、これは期待外れじゃったかのう」

 オークの丘にたどり着いた老婆が、独り言を呟いている。4体の護衛は、それに反応せずに、周囲の警戒を続けていた。


 「まあ、よかろうて。最悪、ハーヴィーさえ捕まえられれば良しじゃて」

 そう言って、ライ麦畑とは反対側の出入り口から洞窟に侵入してきた。


 「ほうほう、これは驚きじゃ。こんな場所に活性化しているダンジョンがあるとはのう。長生きしてみるもんじゃのう」

 侵入と同時にダンジョンと見破った老婆は、護衛の13番と26番に何やら命令して、すいすいと罠を見破って奥に進んでくる。


 「おっと、乙女の秘密を無理に暴こうとは野暮なマスターじゃな」

 コアの放ったスキャンの魔法陣を、杖の一振りでキャンセルしてしまった。これはちょっとLVが違うね。

 罠部屋まで侵入されたから、いざとなったら転送陣でルカの洞窟に逃げ込むつもりで、交渉をしてみよう。これは戦闘で勝てる相手じゃなさそうだ。

 「主殿、やってみなければわからないぞ」

 「いや、相手の目的が不明なのに、喧嘩売ってもしょうがないよ。こっちがダンジョンなのは知らなかったみたいだしね」

 「なるほど・・討伐というわけでもないのか・・」


 ただし、身の危険がありそうなメンバーに心当たりはあるんだよね・・


 「アデは、魔女だ、オデを豚に換えた!」

 「ここまで追ってきたのでしゅか?」

 「ケロケロ」

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