世界で一番〇〇な
薄暗い洞窟の中で、大釜が焚かれる火だけが赤々と燃え盛っていた。窯の中では、紫色のドロドロとした液体が、沸々と泡を立てながら異臭を漂わせていた。
楡の木の杖で、紫の液体をかき混ぜていた老婆が、ぶつぶつと独り言を呟いている。
「やはり、去年の魔草じゃ反応が悪いね。あの忌々しいハ-フリングの小僧め。どうしてくれようか」
老婆は、杖を放り出して部屋の隅に移動した。そこには大きな鏡が壁に埋め込まれていた。
「鏡よ、鏡。世界で一番憎たらしい、ハーフリングのハーヴィーの居場所を教えておくれ」
すると、鏡に写っていた老婆の姿が薄れて、新たに野外の風景が映し出された。それは森の中にある、小さな丘の遠景だった。
「おかしいね、直接、中が覗けないなんて。結界の中にでもいるみたいじゃないか。どこかの神殿に逃げ込んだ様子もないが・・」
その丘は、あちこちに洞窟の出入り口がある他は、人の手が入っているようには見えなかった。
しばらく観察していると、洞窟の一つから奇妙な亜人がふらふらと歩き出てきた。
「蛙頭のハーフリングじゃと?なるほど、あれがハーヴィーかい。中途半端に術を解くから、あんな姿になったんだねえ。ひっひっひっ、いい気味だ」
すると、すぐに同じ洞窟から、見たことのある蛇娘とデカいオークが駆け出してきた。
二人はハーヴィーを両脇から抱え込むと、慌てて洞窟の中に連れ戻していった。
「おやおや、あの二人は綺麗に解呪されてるねえ。どうやら其れなりの術者が居る様じゃないか」
老婆の声に多少の苛立ちと、ほんの少しの好奇心が混ざった。
「せっかく居場所もわかったことだし、押しかけて行って、嫌がらせをしてくるのも良かろうて、ひっひっひっ」
老婆は意地悪な笑みを浮かべながら、旅支度を始めた。
「そうそう、腕にモノを言わせる展開もありじゃろうから、奴等も連れて行こうかね。たまには外の空気を吸わせるのも良いじゃろう」
そう呟いて、洞窟の奥へと足を運んでいった。
そこは鍾乳洞に囲まれた地底湖だった。
青白い光を淡く放つ鍾乳石に照らされて、地底湖の水も青白く光っている。
その湖底には数十体の白骨死体が直立したまま並んで立っていた。まるで、軍団長の閲兵を待つ兵士たちの様に・・・
「7番、13番、21番、26番、出ておいで」
老婆が声をかけると、呼ばれた4体の骸骨が、ゆっくりと湖底から歩み出てきた。
「少し遠出するよ、護衛として付いて来な」
その命令に、右手を胸に引き寄せて軍隊式の敬礼をすると、4体の骸骨は老婆を中心に四方を守るように展開した。
「さてさて、少しは歯ごたえがある奴だといいのじゃが、ひっひっひっ」
老婆の笑い声だけが鍾乳洞に木霊していった・・・
その頃、ダンジョンでは
「まずい、後をつけられたみたいだ」
「ギャギャ(そんな、あれだけ注意を払っていたのにですか?)」
「ああ、奴らの執念を甘く見てたよ」
「どうするっすか?」
「迎撃するしかないね。もうこの場所の位置はバレていると思ったほうがいい」
「主殿、キャッチャーに誘い込んだらどうだ?」
「無駄だよ、奴らは一直線にこちらに向かってきてる。ここで迎撃するしかない」
メンバー達に緊張が走る。
「せめて、分断できるように手はうっておこう。コア、触れたら鉄格子の罠を、こちらの出口に再配置して。トリガーは、入って右の扉って、なかったね。じゃあついでに青銅の扉(覗き窓付き)も設置して、扉に触れたら洞窟の出口に鉄格子降ろすかんじで」
「ふぁじー」
「有志による迎撃部隊は、リンゴの間に集合して」
「「ラジャー」」
「せっかくできた蜂蜜を守りきるぞ!」
「「おお!!」」
短期集中で花の蜜を集め廻っていた蜜蜂が、奴らの注意を惹いてしまった。
そう、森の熊である。
奴等は蜂蜜のことになると、狡猾で執念深くなる。(一部、偏見あり)
巣に帰る蜜蜂をこっそり追跡し、その場所を特定すると、蜂蜜を目当てに強奪にくるのだ。
「ギャギャ(甘味はぜったい死守します)」
「そうですねー、美容にも健康にもいいですからねー」
「私は別に無くてもいいが・・」
「ギャギャ(ロザリオさん、やる気だしてください。モフモフはみんな蜂蜜大好きですよ)」
「キュキュ」「ギュギュ」
「まかせておけ!熊の10頭や20頭、この新たな愛剣の錆にしてくれる」
どうやら女性陣の方が、戦意が高いようだ。なぜかルカまでが出張してきている。
「アタいは蜂蜜より酒の方がいいな、ジャジャ」
「ギャギャ(ベニジャさん、蜂蜜酒って飲んだことあります?)」
「なんだい、その旨そうな酒の名前は、ジャー」
「ギャギャ(蜂蜜から造れるみたいですから、杜氏さんにお願いすれば出来ますよきっと)」
「よっしゃ、モンモンチームは全速で助っ人に行くぜ!ジャー」
「「ケロケロ」」
アズサの人心掌握術が、達人級になってる気がするよね。まあ、ベニジャは間に合わないと思うけど。
「はにーぷー」
あ、もう来たのか。数は・・・3頭もきたよ。敵も本気ということだね。
最初に飛び込んできた1頭が、蜂蜜の匂いを嗅ぎつけて、青銅の扉をガリガリっと引っかいた。
ガラガラガラ ズシャーーン
洞窟の入り口を鉄格子が塞いで、後続の2頭を分断した。
「敵は罠にかかった。総員、戦闘に移れ!」
「「ウラーー!!」」
後にワタリ曹長は、この戦いを振り返ってこう語ったという。
「あれは、戦闘ではなく、殺戮だったっす。オイラは敵とはいえ、狂ったような女性士官の攻撃で次々に倒れていく彼らを見て、同情の念を覚えたほどっすから」
なお、ワタリ曹長は、戦闘のどさくさに紛れて、蜂蜜を盗み舐めしたのが発覚し、現在は独房送りになっているという。
DPの推移
現在値: 1973 DP
再配置:触れたら鉄格子 -25
設置扉:堅牢な青銅の扉(覗き窓付き) -15
撃退・吸収:ブラウンベアx3 +1080
残り 3013 DP
召喚リスト その53
ブラウンベア:茶色熊
種族:獣 召喚ランク6 召喚コスト360
HP48 MP12 攻撃15 防御8
技能:爪、牙、嗅覚、登攀、水泳、追跡
特技:ハウリング(咆哮)、ベアハッグ(抱き竦め)
備考:咆哮 使用MP3
抱き竦め 使用MP1 抱え込んで獲物の背骨を折る、ダメージ18防御無効




