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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第7章 冥底湖の魔女編
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魔女が来たりて

 「先生!なんとか元の健康な身体に戻すことはできませんか?」

 患者の家族に縋り付かれて、治療術師は困った顔をした。

 

 「難しいですね・・高位の神官様に最高位の治癒呪文を掛けていただくか・・」

 最高位の治癒呪文が掛けられる神官ともなると、村や町の教会や診療所には存在しない。この近辺でいえば、領主のいる領都ぐらいだ。よほどの事情がない限り、優先して診てもらう事はできそうにない。


 「あとは、特殊な系統の術者を探すかですね」

 「と言いますと?」x2

 「古い記憶なので確かではないのですが、ウィッチ系の呪文に植物を枯らす術があったはずです」

 「それで治せるんですね?」x3

 希望が見えた家族が、列になって押し寄せてきた。


 「断言はできません。ですが、可能性は高いと思います」

 「ありがとうございます!探してみます!!」x4


 患者の家族は感謝の四重奏を残して部屋を駆け出していった。

 と思ったら、すぐに2人ほど、駆け戻ってきた。

 「全員でベッドの側を離れてどうするんだよ」

 「焦ると行動が一緒になるのが、私らの弱点だね」



 その頃、分裂した2人は、リーダーを探してギルドの窓口に来ていた。そこにはいつもの受付嬢が、夜中に飛び込みでくる冒険者の為に待機していた。


 「その様子だと、峠は越されたようですね」

 「はい、どうにか。それでギルドマスターへの報告は終わりましたでしょうか?」

 命が助かった割には、もろ手を挙げて喜んでるようには見えない2人に訝しがりながらも、受付嬢は教えてくれた。


 「もう少しかかるそうですよ。先ほどお茶をお持ちした時の様子では」

 「そうですか・・・そうだ!受付嬢さんは魔女のお知り合いいませんか?」

 「はあ?魔女の知り合いですか・・知り合いを尋ねるということは、討伐うんぬんではないのですね?」

 「はい、出来れば高位で優しくて、困ってる村人を助けてくれそうな魔女です」

 受付嬢はこめかみを揉み解しながら答えた。


 「そんな魔女はいないと思いますよ。いたら魔女でなくて聖女と呼ばれてます」

 「ああ、そうですね。えっっと、実は・・・」

 六つ子の1人が、詳しい話を受付嬢にした。


 「・・・なるほど、そういった事情でウィッチ・クラフトに熟練した人物を探していると」

 「ですです、最高位の治癒呪文でも良いらしいんですけど、わたし達だと伝手もお布施も用意できそうにないんで・・」

 教会の神官に治療をお願いするのもタダではない。

 初期の治癒呪文であれば、見習いの修行の為に無料で施してもらえることもあるが、基本は対価が必要だ。それが高位の神官しか唱えられない治癒呪文であれば、金貨500枚はかるく越えるだろう。

 一家全員の貯えを空にしても、現状では届かない。そして予想される長い順番待ちの順位を上げるには、伝手か、さらなる献金が必要になる。領都に行って治癒呪文を掛けて貰うのは事実上不可能だった。


 「なにか領主様にご褒美をもらえるような依頼ないですかね?」

 領域の安全や発展に多大な功績を果たした冒険者は、領主から直接、褒美を賜ることがある。確かにそれを辞退して代わりに治療をお願いすることは可能だろう。


 「ですが、お1人動けない状態では、それも難しいですね」

 元々、LVの割には難易度の高い依頼をこなしてきたパーティーではあったが、それは6人揃って始めて発揮される強さに依存していた。

 六つ子である事による意思疎通の速さと正確さ、お互いを補え合えるクラス構成、そして敵を欺く分身の術(仮)。それらは1人欠ける事により、人数分以上のパフォーマンスの低下を引き起こす。

 実質、5人で以前と同程度の依頼をこなそうと思ったら、各自が2LVずつ成長する必要があるかもしれない。


 「ですよね、無理して帰って来れなかったら元も子もないし・・・」

 項垂れる2人を見ながら受付嬢は何かを考えていた。


 「高位の魔女というと、この地域では「冥底湖の魔女」「黒後家蜘蛛の魔女」「氷炎の魔女」が有名ですが、どれも友好的とは言えない存在ですし・・・」

 「そんな伝説級のしかいないんですか?」

 6つ子にとって、それらは悪戯をすると夜中にやってくる怖ろしい存在でしかなかった。


 「魔女と呼ばれる人々は、隠者と同じで隠れ住んでいるものなのです。冒険者登録もしませんし、人頭税も払いません。ですからどこに居るかは分からないんです」

 「そうですか・・・」x2


 「でも、どこに来るかは分かります」

 「えっ!どこですか?」x2

 「この季節であれば、夏至の夜、ウィッチ・クラフトに必要な魔草を摘みに、ある湖畔に現れると言われています」

 「あっ、あの毎年、夏になると張り出される指定依頼ですね!あれまだ残ってますか?って、夏至って今日じゃないですか!!」

 ちなみに依頼票はすでに剥がされており、目的の場所も村から2日は離れていた。


 「でもでも、もしかしたら依頼を受けた冒険者が、魔女さんと接触してるかも知れないですね。居場所の検討ぐらいつくかも・・」

 藁をも掴む思いで、受付嬢から冒険者の情報を引き出そうとする六つ子に、彼女はゆっくり首を振った。


 「誰が依頼を受けたかは、当人が戻ってくれば大声で喧伝するでしょうから、教えてもギルド規則には抵触しません。ですが、彼が魔女を見かけても穏当に接触を図って友好的に別れることはないでしょう」

 「誰なんですか?」x2


 「期日ギリギリまで名乗り出る者がいなかったので、その依頼は「口先ハーヴィー」をリーダーにする急造パーティーが担当することになりました」

 それを聞いた2人は、がっくりと膝をついた。


 「あの、大法螺吹きで自信過剰のハーフリング・・・終わった・・・」


 「ご愁傷様です・・・」


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