君の名は
「はにはに」
コアの飛ばした蜜蜂偵察機が、エルフの集団を捉えた。どうやらワタリと同行しているのが6人、それを遠巻きに監視しているのが3人いるみたいだ。
「さらに第3勢力のエルフがいるとも思えないし、この3人はセーフティーっぽいね」
先行する6人が全滅したら、その報告に里に戻る役目なんだろうけど、それにしては隊長と思える女騎士が、危険な役をやっているのが不思議だ。
後方の3人の中に、彼女以上の大物がいるんだろうか?
「あの、跳ねっ返りが、自分が行くってきかねえから、仕方なくだよ」
「隊長、誰に言い訳してるんですか」
遠くからスノーゴブリンと交渉する本隊を見守る役目の、ベテラン士官のボヤきを部下が聞き咎めた。
「さっきから鼻がムズムズしやがる。誰かが噂してるのさ、女を危険にさらして自分は安全な場所にいるダメ男の噂をな」
自虐的なセリフを吐く士官は、どうやら自分が情報収集役をやりたかったようだ。
「隊長が、騎士殿に危険な役目をやらせたくないお気持ちはわかります。しかし、今回の偵察行動では隊長が主導権を握ってます。スノーホワイト家が3人しか参加していない以上、この体制になるのは致し方ないかと」
部下の言葉は正しい。シルバーリーフ家とスノーホワイト家は、友好的な関係を保っているが、どちらかに従属しているわけではない。軍事行動で派遣された人員が6:3なら、この作戦はシルバーリーフ家が主導で行っていることになる。
例え参加しているメンバーがどう思っていようとも、この作戦のリーダーはベテラン士官であるし、女騎士は副官になる。
正体不明の相手の懐に飛び込む役を、作戦指揮官が取るわけには行かない。そう正論で説得されたら、反論のしようがなかった。
3人で良いという女騎士に、無理に配下を3人つけて送り出すのが精一杯だったのだ。
「だが、それで俺の苛立ちが無くなるわけじゃねえんだよ」
答えようのない独り言に、部下は黙って監視を続けた。この上官の機嫌が治るには、女騎士が無事に戻ってくる以外に方法がないのだから。
その頃のワタリと女騎士の会話。
「もう一度確認するっすけど、先に丘に入っていったエルフの人達が、どうなっていてもオイラは責任とれないっすよ」
「ああ、彼らは同胞ではあるが、友好的とは言えない連中なのでな。その対応について、こちらが兎や角言う筋合いではないな」
「生死不問でいいっすね」
「難しい言葉を知っているのだな。ますます只のスノーゴブリンではあるまい」
「ノーコメントっす」
周囲のエルフが、捕虜のクセに態度が横柄な奴、という視線を送ってきたが、ワタリは平気な顔をしていた。もうここまで来たらどうとでも成れという開き直りである。
「ところで、お名前を聞いてもいいっすか?」
「私か?私はクルスという。家名は任務に障りがあるかも知れないので伏せさせてもらおう」
その言葉を聞いてワタリが頷いた。
「私の名がどうかしたか?」
「いえ、オイラはワタリっていう、チンケな遊び人っす」
「そちらが名乗らないのを咎めたわけではないのだが・・・」
露骨に話題を逸らした遊び人に、クルスは何か言いたそうにしていたが、やがてあきらめてワタリの後ろに付いて歩いた。
「で、結局、何が知りたいんで?」
「そうだな・・知りたいことは色々有るには有るんだが、結局のところ、この丘の遺跡を支配しているのは誰なのか?かな」
「それはオイラの口からは言えないので、直接聞いて欲しいっす」
「ほう、会わせてくれるのかね?」
クルスが嬉しそうに話し掛けてきた。
「会ってくれるかは確約できないっすけど、会話ができるとこまでは案内するっすよ」
「そうかそうか、それで十分だ、さっさと行こう」
背中を押されて階段の開口部に向かおうとしたワタリだったが、急に振り向くと、クルス達に囁いた。
「人族が来るっす。隠れるっすよ」
そう言うとその場で茂みに伏せた。クルス達は一瞬戸惑ったが、ワタリが逃げ出さずにその場に伏せたのを見て、自分達も真似をする。
直に開口部から人族が5人、いや1人背負われているので6人が走り出してきた。彼らは一目散に丘から南の方向へ走り去っていった。
「あれはワタリが嗾けた冒険者だな。彼らが無事に、でもないか、何とか脱出してきたということは、後を追った連中は返り討ちにあったということか・・」
「どうなんすかね。単に遣り過ごしただけかもしれないっす」
「中で克ち合うのは願い下げだな」
「そこまで仲悪いっすか?」
「私の方に含む所はないのだが、あちらはそうは思ってくれないのでな」
「難儀なことで」
「まったくだ」
完全に冒険者の姿が見えなくなってから、クルス達は地下の遺跡に足を踏み入れた。
コアルームにて
フィッシュボーンの攻防に気を取られている隙に、6人組に逃げられた。治療の為にしばらく泉の側で休憩するかと思っていたら、あっという間に階段を駆け上がっていったのだ。
側まで来ているワタリに警告するのが精一杯で、足止めを画策する時間もなかったほどだ。
「まあ、情報源は手に入ったからいいけどね」
4人組の方は無事に捕獲できたので、今は尋問の舞台をセッティング中だ。リザードマンの若い衆をこちらに呼んで、打楽器用の丸太と青汁を運んでもらう。
ベニジャとハクジャが乗り気になって、壁に掛かったお面をつけて準備している。
なんかジャングルの未開民族みたいになってるけど、大丈夫なのかな?
「うららー」
代わりにワタリがエルフを率いて地下墓地に入ってきた。どうやら相手は僕と話をしたいみたいだ。
相手がこちらをダンジョンマスターと把握しているか不明なので、最初は声だけで話してみよう。なんか先のエルフの行動を見ていると、勘違いしてるような気もするしね。
代役はいつものロザリオで。
「それは構わないが、結局どういう方向性で話を進めるのかだけ決めて欲しいのだが」
「んーー、臨機応変で」
「またノープランなのか・・」
「「いえぃ」」
「ほうほう、これがオークの地下墓地という噂の遺跡か。なるほどな」
「あんまり、ちょろちょろしないで欲しいっす。危ないっすよ」
あちこち見て回りたそうなクルスをなんとか宥めながら、ワタリは階段を降りていった。ちなみにこの行動に関しては、お供のエルフ達にも賛同を得られた。
彼らも突飛な行動をとる主人に苦労しているようだ。
十字路を通り抜けて中央ホールに入る。扉はワタリが押し開けたのでトラップは作動しない。槍衾の横を通り抜けるときに、護衛のエルフ達の頬がピクピクしていたが、クルスは平然としていた。
中央ホールを抜けて、最後の扉を開くと、玉座の間には銀色の骸骨騎士が待ち構えていた。
「ようこそエルフの諸君、私がこの地下墓地の主だ」
その姿を見た、護衛のエルフ達に動揺が奔る。
「あれは銀の守護者・・なぜこの場所に?」
だが、クルスは彼らとは別の事に動揺していた。
「・・なぜ貴方が、我がスノーホワイト家の十字架を提げているのだ・・」
クルスの首には、銀の騎士がつけているのとまったく同じ十字架が掛かっていた。
DPの推移
現在値: 2608 DP
撃退:冒険者Lv5x6 +750
残り 3358 DP




