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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
128/478

ちなみに年齢は

 ビスコ村の朝は早い。

 今は一年の間で、日照時間が長い季節ではあるが、それでも日が昇る前の暗いうちから村人は活動を始める。

 漁師は魚の活性が上がる朝まずめを狙って釣り糸を垂らし、罠師は夜行性の獲物が掛かっていないか確認に行く。パン屋は今日の分の黒パンを焼き始め、山菜売りの娘が、日に当たってアクが強くなる前の若芽を摘みに群生地に出掛けていった。

 もちろん全ての働き手が早朝から動き始めるわけではない。

 夜勤の警備隊はこれから宿舎に戻って寝る時間であるし、夜更けまで営業していた酒場は、今は「準備中」の札がかかっている。


 だが、ビスコ村で唯一、いつ行っても営業している場所がある。

 それが冒険者ギルド・ビスコ村出張所である。


 本来ならこの規模の開拓村に、ギルドの出張所があること自体が特例なうえに、24時間体制で人員が配置されているのは特筆にあたいする。

 それだけこの地方の領主が、この村を重要視している証であり、尚且つギルドにもたらされる冒険者の情報の遅延が、大きな災害に繋がる事を意味している。


 そして今、新たな情報を持って、冒険者達が遠征から帰還した。


 「ただいまー、今日も大漁よ。このアタシの火炎魔法にかかればリザードマンなんて、イモリの黒焼きみたいなもんね」

 真紅のビビアン一行だった・・・


 「いや、その喩えは意味わからんからな」

 ハスキーが冷静につっこみを入れていた。彼の装備は、以前の、夫に踏み込まれて逃げ出した間男の様な無様な格好ではなく、安物ではあるが、まともな冒険者の装備に戻っていた。


 「つまりあれだろ、ハッスル、ハッスルみたいな」

 スタッチの親爺ギャグも相変わらずだった。彼の装備も以前よりまともになっていたが、前衛戦士としては、性能に不満が残っているようだ。


 「ば、馬鹿じゃない、そんな意味でいったんじゃないわよ」

 顔を真っ赤にして否定するビビアンをソニアがいつもの如く宥めている。

 「ビビアンはイモリの黒焼きが、媚薬や精力剤に使われてることをうっかり忘れていたんだろ」

 「忘れてなんかいないわよ!」

 「おや?だとしたら本当にそういう意味合いかい?」

 「ち、違うわ!これはその場の勢いというか、語呂がいいというか・・・そう、枕詞なのよ!」


 ビビアンの必死の言い訳に、他の3人は堪えきれずに吹き出してしまった。

 「あはは、枕詞は良かったね」

 「うはは、リザードマンもびっくりだ」

 「くくく、ビビアンには文学少女の素養もあったんだな」


 「とにかく、とっとと討伐証明部位を換金するわよ!今日はギルドに報告しなきゃいけない情報もあるんだし」

 話題を変えようと一生懸命なビビアンを、暖かく見守る3人であった。



 「ちょっと、リザードマンの牙が14本で銀貨22枚ってどういうことよ。常設依頼は1本につき銀貨2枚でしょ。計算もできないの?!」

 支払い窓口でビビアンがギルド職員に食って掛かっていた。


 「ですから、14本のうち3本は焼け焦げていて、左右の判別がつかなくなっているんです」

 「なによ、アタシがズルしてるって言いたいわけ?」

 「そうは言っていません。残り3本は規定によりお引取りできないだけです」

 「おんなじでしょ!アタシを誰だと思ってるわけ。言って御覧なさいよ!」

 喧嘩腰でギルド職員に詰め寄るビビアンを、ハスキーが慌てて押さえ込もうとする。


 「ビビアン・ローズ、LV7ソーサラー。「真紅」の異名を持つ火炎使い。先日、赤毛のソニア他2名とパーティーを組んで探索に赴き、失敗、全財産を失う。最近は近隣のフロストリザードマンを狩って憂さ晴らしをしているという噂がある。実際は装備の為の資金集めだと・・・」


 「ちょちょ、ちょっと、人のプライバシーを大声で言わないでよね・・・」

 ギルド職員に真顔でプロフィールを棒読みされて、ビビアンは急に大人しくなった。

 「ビビアンをやり込めるとわね。この受付嬢、できるじゃないか」

 ソニアは見事なクレイマー対応に感心していた。

 「俺達は、その他扱いかよ・・・」

 スタッチとハスキーにも地味にダメージが入ったようだ。


 「では常設依頼の支払いに関してはよろしいですね。次にフロストリザードマンの支配領域の変化についての報告ですが・・・」

 「貴女じゃ話にならないわ!もっと上の人を呼んでよ」

 話す前から上司を呼ばせようとする、立派なクレイマーだった。


 「上司はただいま、他の冒険者の聞き取りを行っております。内容によっては昼過ぎまでかかるかも知れませんが、それまでお待ちになりますか?」

 「うぐっ」

 さっきからお腹の虫が煩く鳴っているビビアンの、急所をついたカウンターが炸裂する。


 「ああ、こちらも急いでいるから貴女で構わないから情報の査定をしてもらえるかな?」

 ハスキーが間に入って交渉を進めていった。

 奥の防音の効いた個室に通されて、彼らがここ3日で手にした情報を開示する。


 「なるほど・・・三日月湖周辺でかなり大きな抗争があったようですね」

 ビスコ村周辺の地図を前に、受付嬢が考え込んでいた。


 「俺達が主に戦ったのは「凍結湖の鮫」と呼ばれるクランなんだが、そこに三日月湖を支配していたクランの残党が流れてきてるらしくてな」

 「共通語を片言で話すリザードマンに、命は助ける代わりに情報を吐かせたんだ」

 「冥底湖の魔女が三日月湖に住み着いたとか言ってたわ」

 「魔女に「下弦の弓月」が取り殺されたらしいぞ」


 「話はわかりました」

 「「「「 えっ? 」」」」

 

 てっきり同時に4人でしゃべるなと怒り出すかと思っていた受付嬢が、あっさり理解してしまったので逆に驚かされた。どうやらこの受付嬢、只者ではないらしい。


 「フロストリザードマンの抗争の結果、勢力図に大きな変化があったこと。三日月湖に魔女が住み着いたと彼らが信じていること。以上の情報提供に対して、ギルドは報奨金として金貨12枚を支払います」


 「「「「おおおー」」」」

 思ったより報奨金が高かったので、交渉して値段を吊り上げるのも忘れて喜んだ4人組だった。




 その頃、同じギルドの2階にある所長室では、オークの丘から戻ってきた六つ子が、調査依頼の報告をしていた。

 「これが依頼のあった新種のアンデッドの破片です」

 リーダーの差し出した骨の欠片を、ギルドの所長がモノクロームで調べ始めた。


 「一見したところ普通のスケルトンの破片に見えるのだが・・・」

 「ええ、我々も戦ってみて驚きました。確かに火属性に耐性がありましたが、耐久力は普通のスケルトン並みです。とても5や6の位階とは思えません」


 「とにかくこれは預からせてもらう。分析班に至急調査させよう」

 「それでは依頼は達成ということでよろしいですね」

 「ああ、問題ない。よくやってくれた」

 労いの言葉を受けて、笑顔で退出しようとしたリーダーを、所長が引きとめた。


 「悪いが、もう少し時間を割いて欲しい・・・実際に接触してみて、彼の地には何が居るんだと思ったかね」

 それを考えるのはギルドの仕事なのではと思ったリーダーだったが、そこは大人の対応をして、6人で話し合った内容をそのまま伝えてみた。


 「暗黒邪神教団か・・・」

 「王都の方でまた大規模なテロ活動があったそうで」

 「捕縛に向かった騎士団が自爆テロにあって、かなりの死傷者を出したらしい」

 「まさか、その残党が?」

 「まさかとは思う。だが絶対に無いとは言い切れない・・・」

 所長室は重苦しい雰囲気に包まれていた。


 「とにかく、君達の意見は参考にさせてもらうよ。分析結果が出次第、次の依頼が張り出されると思う」

 「その時は私達も検討しますので」

 「頼んだぞ」

 リーダーと所長は堅い握手を交わして別れた。


 ちなみに六つ子の達成した2つの依頼の報酬は、薬草の採集が20束で金貨10枚、新種アンデッドの調査依頼が金貨15枚、オークの丘の情報報奨金が金貨10枚だったという。


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