表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
122/478

ある観測者の報告書

 『夏の上月かみつき第4週水の日、日没前。

 レッドベリー家の部隊は、今だ帰還せず。監視対象の丘付近にも、特に変化なし。

 これ以降の目視による警戒は困難が予想される。

 今のうちに食事を取る。保存食は7日分用意してあるので、十分持つ。問題は水だ。

 切り詰めても明日の昼過ぎには支障がでてくるだろう。雨でも降らないだろうか・・・』



 『夏の上月第4週水の日、深夜。

 状況に変化なし。月明かりがあるので何とか監視を続けている。我々は休息さえ取れば、睡眠は必要ないので単独で動いてはいるが、話相手が欲しい。特別手当に惹かれて、この特殊任務に就いた事を、今は後悔している。

 麦畑に差し込む月明かりが美しい・・・』



 『夏の上月第4週木の日、夜明け。

 日が登り始めた。とうとうレッドベリー家の部隊は戻ってこなかった。

 だが、アイスオークのドルイドが再び姿を見せた。

 あの矢の嵐と、魔術兵士官を含む4人の追撃を逃げ延びたというのだろうか。

 お供の召喚獣と畑で何やらしている。それだけ見ていれば牧歌的な風景だ。

 指令により仕掛ける事はできないし、私一人でどうなるものでもないだろう。

 しばらく畑仕事をして、ドルイド達は麦畑の奥に消えていった。』



 『夏の上月第4週木の日、正午。

 誰も出てこない。どうやら本当に侵入した部隊は全滅したようだ。

 別働隊の4人も生存は難しいだろう。あの、のんびりしたドルイドに撃退されたのかは

 疑わしい限りだが、あの丘には何かが潜んでいるのは間違いない。

 これ以上、監視を続けても意味がないだろう。そろそろ喉の渇きが限界に近い。

 近場で水を補給して、本隊との合流地点に戻ることにする。』


 シリバーリーフ家のベテラン士官から、レッドベリー家の部隊の動向を監視するように命じられたエルフの偵察兵がいた。

 彼は上司への報告書を素早く書き上げると、周囲を警戒しながら、ヘラジカの湖方面へと立ち去った。

 遠距離から丘を監視していた彼には、生還者0という訃報以外は、特に報告すべき事はなかった。

 だがしかし、彼の監視の及ばない場所で、事件は起きていたのである・・・



 夏の上月第4週水の日、日没前


 「それでは、穴熊チルドレンの回復と、ツンドラエルフの撃退を祝って、乾杯!」

 「ちあー」

 「キュキュー」 「ギュギュー」 「グヒィー」 「バウー」

 ただいま絶賛、宴会中です。


 材料を渡してから2週間ぐらいしか経っていないけど、ハクジャの指示で酒造を試していたリザードマンの杜氏が、リンゴ酒とエールの試飲を願い出てきた。

 もちろんお酒としては若すぎて、アルコール飲料と呼べるか微妙なラインだけど、風味の増したリンゴジュースと思えば美味しいものだった。

 酵母は「下弦の弓月」で使っていた物を流用したらしい。

 杜氏としては、もっと熟成させたいところだけど、周囲の期待と圧力に負けたようだ。


 「皆、飲みたいんだねー」

 「そりゃあ、愉快な気分になれるっすから」

 「ワタリなら、お酒なんかなくても酔ってるみたいなものでしょ」

 「ギャギャ!(マスター、上手い!座布団1枚!)」

 アズサはもう出来上がっていた。


 試飲用の酒は、素焼きの瓶に1杯ずつだったので、コアに吸収・分解してもらって変換で皆に行き渡らせた。


 変換リスト:酒類

シードル・ヌーボー リンゴを原料とした果実酒。醸造期間が短いのでアルコール度数が少ない。

          1瓶(20ℓ) 35DP

エール(2級)   ライ麦を原料とした発泡酒。醸造期間が短いのでアルコール度数が少ない。

          1瓶(20ℓ) 25DP


 ただ、吸収のときにコアが瓶の半分ぐらいを飲み干してしまった。シードルをジュースと勘違いしたみたいだ。そして再び悪夢が訪れた・・・・


 「ぴゅるりー」

 ん?コア、酔ってる?

 「ないよぅ」

 それ酔ってるよね。ああ、シードルの瓶が半分空っぽだ。

 「はじめぇ」

 いや、初めから半分な分けないよね。これジュースじゃないよ、お酒だよ。

 「わたりぃ」

 「オイラに飛び火したっす。濡れぎぬっす。そっちは味見してないっすよ」

 「ギャギャ(そっちは、ってことはあ、エールを半分飲んだのは認めるんですねえ、ういっく)」

 いやいや、アズサも盗み飲みしてるし。どうしようこの酔っ払い軍団。


 「おごりぃ」

 コアが次々と瓶に入った酒を変換させていくのを見て、皆は大喜びだ。

 「さすがっす。太っ腹っす」

 「ギャギャ!(私は太ってません!)」


 「良いのか主殿、コア殿を止めないで」

 「そういうロザリオも両脇に酒瓶抱えてるよね」

 「こ、これはモフモフと酌み交わす約束で・・・」

 なるほど、それでシードルなんだね。


 「まあ、皆も楽しんでいるようだから今晩ぐらいは良いよ」

 「心広き主君に感謝を!それでは御前を失礼して」

 ロザリオはいそいそと獣達の群の中に埋もれにいった。


 「これはこれは、皆様ごきげんですな、ジャー」

 ハクジャが一族を連れて挨拶に来ていた。

 「杜氏が頑張ってくれたから、楽しい宴会になったよ。ありがとう」


 「お役に立てたなら重畳です、ジャー」

 「ハクジャ達も飲んでいってね」

 「お言葉に甘えまして、ジャジャ」


 「祖父さん、これ中々いけるよ。前の家の酒よりすげえ上手い、ジャー」

 空気読まないベニジャは、横で杜氏がうな垂れてるのにも気がつかず、シードルをがぶ飲みしていた。

 「これ、ベニジャ、少しは遠慮しなさい、ジャー」

 ハクジャに叱られて不思議な顔をしながらベニジャが言った。


 「でもこれ、飲まないと、溢れそうだぜ、ジャジャ」

 気がつくと、床中が瓶で覆われていた。


 「コアーーー!」

 「ぴゅっ」

 あ、なんか吹いた・・・



 夏の上月第4週水の日、深夜


 宴会場は死屍累々だった。

 酔っ払って暴走したコアの変換した酒瓶は、全部で45個。その大半を皆は勢いで飲み干してしまったらしい。残った酒は杜氏が大事そうに抱えて、酒造倉に運び込んでいた。熟成させて、より美味しくするそうだ。

 お酒は残っても腐らないのに、なぜ皆は意地になって飲み干そうとしたのか謎だ。

 節度を守って飲んでいた良識派が、三々五々、仲間を寝床に運び出している。

 僕も、眠り込んだコアを抱えて、コアルームに戻ろうとした。


 コアは薄っすらと紅色が差したように色づいて、ほんのり暖かかった。

 抱き上げると

 「むにゅう・・」

 とつぶやいたけど、起きる気配はなかった。


 「今晩は誰も押しかけてこないだろうから、ゆっくりおやすみ・・・」


 夜空には綺麗な三日月が浮かんでいた。

 DPの推移

現在値: 4609 DP

変換:シードル・ヌーボーx25 -875

変換:エール(2級)x20   -500

変換:ホッパー&チップス、鮭の皮の炙り、鹿肉のサイコロステーキなど -70* (酒の肴として)

残り 3164 DP

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ