ジャンプ&キック
突然だが、昆虫の中で最強なのは何か。その答えを身を持って証明した、ある秘密結社があった。
彼らは人類と昆虫の合体によって空極の生命体を造り出そうと、日夜努力を続けていた。そして蜂やカマキリ、蜘蛛(蜘蛛は昆虫でないことは彼らはスルーした)などを越えた最高の素材を見つけたのだ。
それが「バッタ」。
本来なら被捕食者の代表の様な存在であったが、人類と融合することにより想定外の強さを発揮したのだ。そして人の知能を持った「バッタ」は逃げ出した。 自分を改造した博士の格好を見て、「こいつらヤバイ奴らだ」と思ったに違いない。違法行為でかき集めた資金を大量につぎ込んだ被験者に逃亡された結社は、それ以前に改造し、愛社精神をたたきこんでおいた社員を追っ手として送り出した。
だが、そのことごとくが返り討ちにあい、逃亡者を連れ戻すことに失敗した。連れ戻したらブラックな職場で24時間働かせるはずだったのに。
「というわけで、バッタは昆虫の頂点に立ったんだ、すごいよね」
「ん~」
僕がなぜこんな話をしてコアに微妙な反応を返されたかというと、ダンジョンに進入してきたのが「バッタ」だったからだ。そしてそれは僕らの足元で、じゃがいもの皮をムシャムシャ食べている。
洞穴の外はいつの間にか雨が止んでいて、薄く日もさしてきていた。このバッタも雨上がりで餌を探しにねぐらから飛び出してきたのかもしれない。
コアはこの小さな昆虫も侵入者として警報を発したけれど、バッタは襲ってくるでもなし、片付け忘れた生ゴミを処分してくれている。
体長は10cm以上あるし、ものすごい食欲であっというまに皮を食べつくしているけど、草食のようで僕らに噛み付いてきたりはしない。
モンスターではなくやはり昆虫だと思う。体色が緑でなく茶色っぽいのは周囲の環境に合わせて進化したんだろうね。
でっかいバッタは、あらかた生ゴミを食い尽くすと、外に向かって歩き出そうとしてパタッと倒れた。
「え?」
何が起きたのかわからず、僕はバッタと残飯を何度も見返した。
「バッタにも効くんだ。でもふつうなら本能で察知して避けるよね?あ、違うか、動物なら避けるけど、昆虫は群で食べて仲間が倒れたことで危険を察知するのか。もしくは食べても生き残った個体から耐性のある個体が生まれるタイプか」
毒とバッタについて考えていると、コアから音がした。
しーん
訂正しよう、コアの周囲から音が消えた。
直感でこれがシステム音だとわかった。正確にはシステム無音だけど。ピコーンとか、ぱっぱぱーなどと同じシステムからのお知らせだと思う。
「コア、まさかレベルがあがった?」 「んん」
だよね、バッタ1匹でレベルアップしたらビックリだ。僕もいささか動揺してるらしい。
「じゃあ、初DPをゲットした?」 「んん」
ダンジョン内で侵入してきた生物が死亡したから、DPをゲットしたのかと思ったんだけど・・・
「何か新しい機能が開放された?」 「ん」
うわ、なんだろう?バッタが死んで開放される機能・・・・
「もしかして召喚リストにバッタが増えた?」 「ん」
「おお、やったね。とうとう召喚できるモンスター?ができたんだ」 「ん!」
そうかハードモードだとダンジョン内でモンスターを倒さないと召喚リストは増えないのか。これってドラゴンとか絶対無理だよね。しばらくは動物園を目指すことになりそうな予感。まあいきなりオークとか団体でこられても困るから地道にいこう、地道にね。
とはいえ新しい機能は使ってみたくなるのが人情ってもんでしょう。
「コア、いざ、モンスター召喚!」
「ん!」
コアが光ると洞穴の出口付近の地面に銀色の魔方陣が浮き上がった。穴が狭いのでブーツの端が魔方陣に触っているのに気づいて、あわてて引っ込めるのと同時に、大量のバッタが溢れだした。
「あぶな!それでもってバッタですぎ、うわ、こっちまで来た!」
バッタストームはひとしきり猛威をふるうと、やがて収まり、思い思いの場所に止まって羽を休めている。
床といわず天井といわず、びっしり並んだバッタは、数十匹もいるだろうか。保護色で土壁にまぎれているからもっと沢山いるのかも知れない。
「そっか、昆虫だから1匹ずつとか召喚されないんだ。群体としてリストに登録されたんだね」 「ん」
「召喚コストは10ぐらい?」 「んん」 「じゃあ5かな?」 「ん」
想定したよりは安くすんだけど、現状の5%を消費したと考えるとキツイね。でもできることは何でも試さないと他の機能の開放条件がわからないし。
「コア、初召喚に成功してなにか変化あった?」 「んん」
バッタは呼び出し損かー。まあダンジョン内で倒した生物がそのままリストに載るわけでもないってことが確認できたから良しとしよう。次は実験の時間です。
「コア、バッタ1号にバッタ2号を攻撃させて」 「ん」
群体に対して個別指令もできるみたいだ。あと仲間でも攻撃対象にできることがわかった。そしてバッタ2号の死骸は消えずに残った。
「あれ、ふつう魔粒子に還元されて消えると思ってたけど、この世界では違うんだ。コア、この死骸はダンジョンとして吸収できる?」 「ん」
コアの同意と同時に2号の死骸は地面に呑み込まれていった。
「まさかとおもうけどDPに還元されないよね」 「ん」
やっぱり無限自己再生産はできないらしい。その後も1号にV3を倒させて、その死骸を焼いて食べてみたり(思ったよりいけた)、バトルロイヤルさせて進化するか試してみたけど、特に変化はなかった。
で、群の9割ぐらいをダンジョンに吸収したら、2ポイントだけDPが増えたらしい。召喚モンスターは吸収すればコストの半分ぐらいのDPに還元されるみたいだ。
洞穴の外にも放してみたけど、出口で消滅することもなく、元気に飛び跳ねていった。ただし出口から10mぐらい離れたところでコアの管理下から外れたらしい。呼び戻しても戻ってこない個体が1匹いた。
「こうやって野良モンスターって増えていくのかな?」 「ん~?」
遠くに旅立った1号の行く末を、コアと一緒に案じながら森をながめていた。
「マフラーつけてやればよかったな」 「ん」
召喚リスト その1
ローカスト・スウォーム:蝗の群体
種族:昆虫 召喚ランク0 召喚コスト 5DP/100体
技能:飛行
特殊技能:混乱付与(低確率)
備考:防御力が非常に低い敵にはダメージを与える場合もある




