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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第6章 エルフ編
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リベンジ・オブ・クロウ

 作中に残酷な描写?があります。苦手な方はご注意ください。

 特に鳩やカラスが苦手な方は読まずにいてください。

 アイスオーク・ドルイドの追撃を命じられた、レッドベリー家の兵士4名は、小隊長を先頭に、ライ麦畑の中を進んでいた。

 途中で、この畑の違和感に気がついた小隊長が探知魔法をかける。


 「どうやらこの麦畑には「幻術」と「結界」の魔法が掛かってるようだ。里の結界と同じように、方向感覚を狂わせて、部外者を寄せ付けないタイプだろうな」


 「やっかいですな。一旦退きますか?」

 配下の兵士が提案するが、小隊長は意に介さなかった。


 「どうせオークの張ったちゃちな結界だ。感覚が狂わされているという認識をしっかりもっていれば、迷うことはない。構わず進むぞ」

 後続にも警告しておくように言い残すと、さっさと奥に向かって進んでしまった。

 兵士は慌てて、少し距離の離れた2人に、迷いの結界の事を大声で伝えると、小隊長の後を追っていった。

 彼には、ちゃんと後方の二人から、了解したとの返事が聞えた。

 

 だが、彼の警告は、仲間の兵士には届いていなかった。

 たまたま、近くから畑に餌を見つけにきていたからすが飛び立ち、その羽音と不気味な鳴き声で、聞き取れなかったのだ。


 では、いったい誰が返事をしたのか・・・


 その答えは、すぐに明らかになった・・・


 「ちっ、不吉な烏だぜ。畑の端に案山子が立っていたのに、役に立ってないな」

 「そう言うなって、烏は頭がいいから、動かない案山子なんか直に慣れて怖がりもしないよ」

 後続の二人は、離れてしまった小隊長との距離を詰めようと、急いで歩いていた。だが、この麦畑はかなり足場が悪い。麦の穂が密集していない場所を選んで、足早に駆けて行こうとした。


 「おい、見ろよ、案山子に烏がとまっているぜ」

 すぐ横に、麦藁帽子を被った案山子が、肩に烏を乗せたまま立っていた。

 「おいおい、ちゃんと仕事しろよ。そんなんじゃ首にされるぞ」


 囃し立てた兵士の声に同意したかのように烏が鳴いた。

 「カアーー」

 そのタイミングの良さに兵士が笑い声をあげた。

 「ははは、烏もその通りだってさ」

 その声に惹かれたように、もう1羽の烏が反対側の肩に舞い降りてきた。

 「カアーー」 「カアーー」


 「あああ、烏にまで馬鹿にされてるよ。スケア・クロウ(烏脅し)の名が泣くぜ」

 そう言い残して、先に進もうとした・・・その時、新たに2羽の烏が案山子の肩に舞い降りてきた。

 「おいおい、いくらなんでも烏が多すぎだろう」

 すぐ側に、大き目の真っ黒な烏が4羽もいると、不気味さが倍増した。烏も集団になれば亜人を襲ったりもする。兵士は急に不安になり、その場から離れようとした。


 「カアーー」 「カアーー」 「殺す・・」 「カアーー」

 「誰だ!」

 烏の鳴き声に混じったエルフ語に、兵士はつい、振り向いてしまった。


 だが、そこには4羽の烏がいるだけだった。


 「おかしい、確かに同族の声が・・・」

 いぶかる兵士の前で、烏が再び声を揃えて鳴いた。


 「カアーー」 「カアーー」 「カアーー」 「カアーー」

 やはりさっきのは空耳だったかと、安心しかけた兵士の耳にはっきりと、

 「死ね・・」


 いつの間にか増えた5羽目の烏がつぶやくのが聞えてしまった。

 その烏の足の爪は、真っ赤な何かで染まっていた。


 「て、敵襲!じゅ、術者の使い魔と思われ・・」

 かすれた声で兵士が叫ぶが、その声を覆いつくように、不吉な鳴き声が木霊した。


 「カアーー」 「殺す・・」 「死ね・・」 「許さない・」 「まず1人」 「どこから喰う」

 6羽に増えた烏は、嘴や爪を真っ赤に染めながら、口々に怖ろしい言葉を吐き続ける。


 兵士は恐怖のあまり、逃げ出そうとするが、足が竦んで思うように動かない。


 「カアーー」

 その時、最初からいた1羽が鳴いた。その1羽だけは、今も普通の姿で、普通に鳴いている。

 その存在だけが、日常に戻るための鍵であるかのように兵士には思えた。

 きっと、怖ろしい言葉を吐く烏達は幻覚で、気がつけば最初の1羽だけが本物・・・

 すがるように見つめる兵士の目の前で、その烏が何かを吐き出した。


 それは真っ赤な眼球に良く似た何かだった。


 「ああ、喉に何か詰まってると思ったら、さっきの食い残しかよ」


 エルフ語を流暢に喋る、その烏の口内は、真っ赤に染まっていた・・・


 「ぎゃあああああ」

 バサバサバサバサバサバサ


 兵士の絶叫も、飛び立った烏の羽音でかき消されてしまった・・・



 「おい、案山子なんかほっておいて、先を急ぐぞ」

 何が面白いのか、烏のとまった案山子に話しかける同僚を置いて、先行する小隊長に追いすがろうとした。

 すると左手に新たな案山子が立っているのが見えた。まあ、案山子はどれも似たようなものだが、麦藁帽子をかぶってないから、さっきのとは違うだろう。

 烏もとまってないし。


 そう思って右側を見ると、そこにも案山子がいた。しかも肩に烏を乗せて。

 「おいおい、何本いるんだよ、役立たずの案山子ども」

 そう口にしたとたん、背後に殺気を感じた。


 「敵か!」

 腰に差した小剣を抜くと、振り向いた。

 だがそこには案山子が立っているだけだった。肩に2羽の烏を乗せて・・・


 嫌な予感がした。

 このまま後ろを振り向くと、烏が3羽になっていそうな気がする・・・

 ここは振り向かずに、洞窟の方向へ転進しよう。これは決して撤退ではない。あくまで当初の目的を果たす為の後ずさりなのだ・・・

 そう心に棚を作って移動しようとした兵士に、背後から烏の鳴き声がした。


 「臆病もの・・」


 「誰だ!」

 振り向いた兵士の前には、烏を4羽乗せた案山子が立っていた。

 「馬鹿な、倍々だと!」

 案山子に包囲されている現状より、烏の数の拘るあたり、この兵士もかなり混乱していた。


 そこにさらに背後から殺気が襲ってきた。

 小剣を握り締めた兵士が振り向きざま切りかかりながら、叫んだ。


 「次は8羽だってわかってんだよおお」


 だが、そこにいたのは、1体の、カラスの頭をした案山子だった。


 「ぎゃあああああ」


 バサバサバサ ギャギャッギャギャッ


 ライ麦畑に、静けさが戻った・・・

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