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ダンジョンマスターは眠れない  作者: えるだー
第5章 冒険者編
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開拓村興亡記

 広大な針葉樹林帯に点在する百を越える湖沼群。その最も南端に位置するのが、ナビスと呼ばれる湖だ。

その湖には巨大な水竜が住み着いていたという伝説があり、湖の名前からナッシーと呼ばれていた。

 あるとき、1人の冒険者がナッシーに挑み、瀕死の重傷を負いながら、見事に水竜を倒したという。死に掛けた彼を助けたのは湖で漁をしていた若い女だった。

 命を取り留めた男は、看病してくれたその娘と結婚し、ナビス湖の湖畔に小さな家を建てた。それが開拓村の始まりだったという。


 「その時、勇者は風の魔法を解き放ち、空を飛ぶと水竜の頭上に降り立ったのであります」

 酒場で吟遊詩人が、この開拓村の由来を詩にして歌っていた。

 「激しく頭を上下して勇者を払い落とそうとする水竜の眉間に、竜殺しの剣を突きたてた!」

 冒険者が勇者になっているし、いつの間にか竜殺しの剣を手に入れていた。

 「最後の力を振り絞って、ナッシーは口からブレスをプシャーーー」

 おいおい、どっかのゆるキャラかよ。

 「首の振りすぎで腰を痛めたナッシーは、ギブ・・」

 ヘッドバンキングは首や腰を痛めるから、ほどほどにな。

 「そして二人は結婚し、幸せに暮らしたのは1年ちょっと。性格の不一致から・・・」

 「別れたのかよ!」

 「いえ、離婚協議に10年かかったので、その間は別居な上に仮面夫婦で」

 「世知辛い話だな、おい」


 ここはビスコ開拓村、大陸の一番北に存在する村だと言われている。

 もちろん「うちの村の方が北にある」とか「その記録は一昨日塗り替えられた」とか騒ぐ人々もいるが、1年以上維持されている中では、この村が北端なのは間違いないらしい。

 これより北は未開の地で、開拓団を警護してくれる領主様がいない。ここビスコ村でさえ、あの伝説がなければ守備隊などは派遣されておらず、つまりはモンスターに蹂躙されていたはずだ。

 

 「水竜殺しの剣」

 ナッシーを仕留めたと言い伝えられるドラゴンキラーが、いまでもこのナビス湖のどこかに沈んでいるという。その噂に引き寄せられるように、この開拓村には冒険者が集まってくる。

 俺もそのうちの1人だ。

 酔狂な領主様の守備隊と、一攫千金を夢見る冒険者の集団によって、この北限に開拓村が存続しているというわけだ。

 まあ飯の種には困らないので、冒険者には好評なんだが、いかんせん周囲がモンスターのテリトリーで囲まれているのはプレッシャーだ。

 開拓村にある小さな冒険者ギルドの出張所も、常設依頼でボードが埋まっている。とにかく何でもいいから狩ってくれというのが本音らしい。たまに対象指定の依頼がでると、そのほとんどが緊急依頼で、開拓村の存亡に関わる大型ミッションだ。

 緊急依頼は、ある一定以上のレベルの冒険者は参加しないと罰則があるが、こんな辺鄙な場所の小さな出張所では強制力は無いに等しい。それでも大半の冒険者が引き受けてくれるのは、ほっとくと村が無くなるからだ。

 この拠点が破棄されると、ギルドの窓口が存在するのは、かなり南下した街になってしまう。そこまで片道1週間、往復2週間を無駄に移動しなければならなくなるのは、ギルドの依頼達成報酬で食っている冒険者達には死活問題だ。

 もちろん俺もその中の1人なので、緊急依頼はできるだけ参加している。

 この村を拠点にしてから一年と少し、その間に起きた緊急依頼4回、全てに参加した。

 皆勤賞だ。

 ちなみに他の街や村で緊急依頼が出るなんて5年に1度あるかないかだ。この開拓村がどれだけモンスターに愛されているかわかってもらえると思う。

 そんな最前線の開拓村だが、日帰りできる距離に、それなりのモンスターが巣をつくっているので、面倒臭がりだが腕に覚えのある冒険者には評価が高い。ある意味、村の防衛力でもあるので、宿や酒場も他の開拓村より格段に安いし、その割りにサービスは悪くない。

 ついダラダラと居ついて、顔見知りになった同業者とパーティーを組んだり、ソロでふらりと稼ぎにでたりする冒険者が沢山いる。

 つまりそれが俺だ。


 今日も酒場で、値段の割りに美味いエールを飲みながら、周囲の噂話に耳を傾けていると、件の吟遊詩人が1曲語り始めた。

 詩の内容は、何度か聞いたこのビスコ村の由来になった英雄譚だったが、最後まで聞いたことがなかったので、その夢の無い結末にテンションが下がる。

 この調子で行くと、伝説の「水竜殺しの剣」も「水トカゲキラー」だったり、「殺し屋水竜の愛刀」だったりしそうで嫌だな。


 そんな鬱な気分に浸っていると、見知った冒険者が酒場に走りこんできた。どうやら俺を探していたらしい。片手を挙げて奴の注意を引くと、向かいの席に腰を下ろした。

 「やっと見つけたぜ、相棒」

 「何かやっかいごとか?」

 「いや、そうじゃねえ、でかいヤマを聞きつけたんで、手助けが欲しかったんだ」

 「ほう、今度はガセじゃないんだろうな」

 「ああ、実は・・・・」


 こいつが持ち込んだ話は、はっきり言って胡散臭い。噂話というより御伽噺に近い代物だ。

 だが、冒険者は冒険をするから冒険者たりえる。

 百のハズレの後で1つでも大当たりを引けばそれで良い。

 だから今はこいつの夢の手助けをしてやろう。



 けっして女エルフ奴隷に心惹かれたわけじゃないんだ。

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