戦士団拠点
ベルファトラスから、俺達は辿って来た旅路を逆走するように進んでいく。そして到達したのは、戦士団の拠点だった。
「前訪ねた時と似たような場所にいるんだな」
「偶然だよ」
そう返したのは、ルルーナ。テントの中、用意された椅子に腰掛け、俺とリミナは話を聞いている。
この場所にいるのはルルーナが率いる戦士団だけ。カインの戦士団も近くにはいるが周囲にはいない。
「レン達は承知しているはずだが、魔王やシュウ達との戦いで魔物の数が増えている……それに対応するため戦士団も色々と活動しているわけだが……長くとも半年以内には収束するだろうという見立てにはなっている」
「その後、どうするんだ?」
そこでルルーナは小さく笑みを浮かべ、
「シュウ達の戦いにより、私達戦士団についても多少ながら価値が見直された。複数の国が資金を拠出してくれることになった。まあ、しばらくは戦士団も安泰だな」
「そうなのか」
おそらく遊撃的に動き回れる戦士団も必要だと見直された形なのだろう。
「だがまあ、魔物の数が少なくなれば戦士団の規模も縮小に向かうだろう。その時のために色々と就職口を確保しておくのは、私の仕事だな」
「就職口?」
「騎士や要人の護衛など、戦士団としては色々と働き口はある」
なるほどなあ……そういう所にまで気を回すというのは、団長だからだろうな。
「ただまあ、そういう話が出てくるのはもう少し先になるだろうが」
「そっか……ところで」
と、俺は話題を変える。
「カインの方は?」
「奴も私と似たようなものだ。とはいえ、あっちはカイン以外にも色々と動き回れる人物がいるため、今後は分裂する可能性があるな」
ほう、分裂……興味深そうに相槌を打っていると、ルルーナはため息をついた。
「あれだな? 事の顛末を教えて欲しいんだな?」
「……いや、そんなことはないよ」
気になったのは事実だけど、あんまり詮索するようなことでもない。
「ひとまずは、現在の状況がより落ち着いてからだな」
ルルーナは言う……一方リミナは首を傾げた。そういえば俺以外にはプロポーズ云々については伝わっていないんだったか。とすると今の会話も当然意味はわからないはずだ。
「そっか。わかった」
もし現状に一区切りついたのなら、それこそ誰もが驚愕することになるだろう……まあルルーナ達の想いがどうなのか知る人間も少なからずいるので、ひょっとすると何かの拍子に誰かが口を滑らせたりする可能性もゼロではないけど。
「カインも近くにいるはずだが、会いに行くのか?」
ルルーナが問う。それは「ああ」と答え、別の質問。
「そういえば、ライラは?」
「妹なら武者修行の旅に出ているよ。最後の戦いなどに参加できなかったことが悔しいらしい」
「そっか」
「ライラ自身、統一闘技大会で優勝できる可能性もある逸材だ……姉ではなく剣士としての私の目から見てもな」
「なら、その実力によって活躍できることを祈っているよ」
「ああ……あ、それとだが、一つ情報がある。近い内に二人も会うだろうから、伝えておく」
俺達はルルーナから情報をもらい、別れる。カインの所に向かう途中、リミナから「事の顛末」とは何かと訊かれたが、とりあえず今は曖昧な答えを返すことにした。
そして次に訪れたのはカインのいる場所。これまたテントの中で椅子に座り向かい合うようにして話をする。
「ルルーナからある程度事情は聞いたか」
「うん。分裂する可能性があるとか」
「あくまで可能性の話だがな。もっともシュウや魔王との戦いを知る前、そうしようかと考えていたため、急な話というわけではない。当時実行しようと思っていたしな」
「そっか……ところで」
なんとなくカインにも訊こうと思ったのだが――すると彼は苦笑した。
「ルルーナから聞いたのか?」
「ちょっとだけ」
「そうか。色々あったが、最終的にはそういう形になるだろう」
「わかった。もしそうなったら俺達にも連絡してくれ……といっても、旅を続けているかもしれないから難しいかもしれないけど」
「ベルファトラスで暮らさないのか?」
問い掛けに俺は苦笑。まあ確かにそれもありと言えばありなんだけど……。
「正直、今のところわからないな。けど、あの場所を拠点とするのは間違いないよ」
「そうか。今は挨拶回りをしているらしいが、その後のことも考えておいた方がいいぞ」
カインは俺ではなくリミナを見る。すると彼女は俺に視線を送って来た……どういう意味合いなのか。
「……元の世界に戻る方法を探すか?」
それは――幾度となく尋ねられた部分だが、こちらは肩をすくめる他ない。
「そうした方法が本当にあるのかもわからないし」
「そうか……まあ、そう望むのならこちらも協力しよう」
「協力、か」
「調査する以上、戦士であっても人では多い方がいいだろう?」
まあ確かに……俺は頷き、
「そう決めた場合は、お願いするよ」
返答して、カインと別れることとなった。
「――勇者様」
次の目的地へ向かう途中、俺はリミナに問い掛けられる。
「ずっと……今まではぐらかすような感じだったのですが、勇者様はどうしたいのですか?」
「元の世界に戻りたいか戻りたくないかってこと?」
「はい」
「それについては、こちらの世界のレンとも色々話をしないといけないな」
戦いの後、レンとは夢の中でいくらか話し合ったのだが……結局のところ、元の世界に戻る手法が見つからない以上、議論しても仕方がないという結論となっていた。
それに仮にあったとしても、もう俺の一存で決められるものではないと思っている……ただ、ずっと宙ぶらりんのままでいるのもまずい。そこで、
「……リミナ」
「はい」
「この旅の間に結論を決めるよ」
決意表明。するとリミナは少し緊張した面持ちとなり、
「わかりました……どのような結論を出したとしても、私は勇者様のお考えに従いますから」
「ありがとう……さて、次の目的地だけど」
「はい。フロディアさんと、アクアさんですね」
言葉と同時に、俺とリミナは互いに目を合わせ、笑った。
「フロディアさん達とは、あの戦い以来だな」
「はい。それに――」
と、リミナが言う。
「ルルーナさんが仰っていましたし……」
「そうだな」
俺は頷き、歩を進める。今から二人に会うのを、少しばかり楽しみになった。




