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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
勇者死闘編

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英雄の――

 シュウは人間である俺達に有効な罠を仕掛けている……が、魔族の血が入るノディとドラゴンの血が入るリミナにはそれが通用しにくい……よって二人が攻勢に出れば勝機があるとリミナは判断した。

 ただ、その仕掛けが何なのかは具体的にわかっていない……フィクハなら時間を掛ければ調べられるのかもしれないが、彼女に視線を向けると険しい表情。短時間では無理なのだろう。ここはさすがシュウといったところか。


 だから、罠の正体がわからないままにリミナは攻撃を仕掛ける気でいる。リスクがあるのは間違いない。だが、それでも彼女はシュウへと向かう。

 続けざまにノディも走り――アシストするようにルルーナとカインも動く。それに対し、シュウは毅然と迎え撃つ構えを見せた。


 リミナが手始めに風の魔法を浴びせる。おそらく動きを制限できればという目論見だったのかもしれないが、シュウには通用していない様子。

 だがそれでも彼女は前進。刹那、シュウが両腕に光を収束させる。


 一方のリミナは止まらない――ルルーナとカインは横手に回り、移動できるスペースを減らす。できるとすれば後退だが、俺は二人がそれも注意を払っていると悟る。もしそういう行動を取れば、二人が対応してくれるだろう。

 そしてリミナはシュウを間合いに入れる。だが仕掛けず――先にノディが動いた。魔族の力を剣先に集め、全ての力を剣に集約。それにシュウは反応。回避に転じようと後退しようとした。


 そこへ、ルルーナとカインが迫る。直後、


「――来たか」


 待ちわびていたかのような言葉。わざと後退し二人を――ルルーナ達も察したはずだが、それでも二人は攻撃をやめなかった。後退を阻む二人の剣戟がシュウを薙ぐ。そして、


 閃光。青い光が二人を包み、両者は吹き飛ばされた。


 ノディはまだ届かない。シュウが後退する方が早いか――思った直後、ルルーナとカインが立っていた場所に、今度はセシルとグレンが回り込んでいた。両者はまったくの同時にシュウへと剣戟を加える。それにシュウは反応したが、光を収束させることはできず両肩口に斬撃を食らった。

 いや――それでも反撃を行った。俺から見てシュウの左側にいるグレン……彼に対し、瞬間的に光を収束させ、魔法を放った。


 グレンはそれを避けることができず、腹部に直撃する。彼はさっきも攻撃を食らっているため、相当なダメージがこれで蓄積してしまったはずだ。

 だが、両者の剣戟により鮮血が舞う。同時にノディが迫り、シュウは再度光を収束させる。今度は先ほどよりも魔力が濃く――俺以外が攻め込んできたのを見計らい、自爆覚悟で攻撃を仕掛けるつもりだと直感した。


 けれど……これは好機だと悟ったか、ノディとリミナはなおも進む。先に攻撃したのはノディ。魔族の力を収束させた一撃を、シュウへと浴びせる。

 それに相手も反応したが、光の収束は――いや、斬撃を回避しない代わりに反撃すべく、グレンの時と同様に光を収束させる。光を集めた場所は左腕。それを用いてノディへ反撃する。


 彼女もまた避けることができず光をまともに食らい――相打ち。

 そこへ、リミナが進んだ。槍の先端に魔力が収束し――ドラゴンの力を宿したそれは、決定打となるに十分な出力を誇っていると俺は確信した。


「――君には、届かないか」


 シュウが呟く。リミナに対し反撃できなかったという意味合いの言葉だろう。

 そして槍はシュウへと突き刺さる。防御もできなかった彼は槍に貫かれ、さらに風が炸裂し――


 その体が、とうとう崩れ落ちた。






「――これで残るは、四人だな」


 倒れたシュウは、天上を見上げながらそう呟いた。

 無傷で残っているのが四人ということだろう。俺にリミナにセシルにフィクハ。ルルーナやカインは言うに及ばず、ノディやグレンもダメージを負っている。


「私が死ねば、塔の下層にモンスターが生み出されるよう調整が成されている……というより、私が死んだと同時に発散される魔力を利用し、塔の機能を一部利用する、といったところか」

「それほど魔力を行使したら、生き返ることはできないんじゃないか?」


 ルルーナが近寄り問う。だがそれを、シュウは一笑に付した。


「その程度の計算ができない人間ではないさ……しかし、これで私達の計画が成る可能性が増したのは事実。四人は相当なダメージだろう? 加え塔の下層からモンスターが現れるとなれば、負傷した四人で食い止めるのがベストだろう」


 アドバイスでもするように語り、ほくそ笑むシュウ。それは紛れもなく魔の力によって侵食された人物の表情。だが、


「……しかし、こんな形で終わりを迎えることになるとはな」


 どこか、晴々した表情があるのもまた事実だった。


「お前は、この結末で満足なのか?」


 ルルーナが問う。シュウは「当然だ」と返答した。


「全てが予定通り……一体何の不満がある?」

「止めて見せるさ、レン達が」

「私の魔力を得たラキ君は、最早手におえないだろう……君達がどう足掻いても無駄だ」


 断定したシュウは、俺を見た。


「魔王アルーゼンと比べてもそん色ない実力……それが今のラキ君だ。君に、勝てるか?」

「勝つさ」


 答えると同時に、シュウは笑みを浮かべ、


「そうか……なら、やってみればいい。次私が目覚めた時、君が地に伏していると思うが」

「負けないさ……絶対に」


 答えた直後、シュウは笑った。それこそ魔の力を感じさせない、英雄シュウが見せる表情だった。

 やがてその顔から生気がなくなり――彼は、眼を閉じ動かなくなった。ここまで苦しめられてきた英雄……その、あまりにあっけない最期だった。


「シュウ達からすれば、最期という表現ではないんだろうが」


 ルルーナが忌々しげに呟いた。


「下層から、確かに気配が感じられるな……直にこの場所までモンスター達が押し寄せてくるだろう。それまでに態勢を整えておかないとまずい」

「俺は――」

「レン、怪我をしていない者達を引きつれ先に行け」


 彼女の指示。すると続けざまにカインが言う。


「こちらは見た目以上に相当なダメージだ……怪我よりも魔力をずいぶんと減らされている。単なる怪我だけでは治療されると考え、魔力を減らす策に出ていたんだろう」

「それがもしかすると最後の罠か?」

「かもしれない……どちらにせよ、モンスターが来る以上ここで足止めする役目がよさそうだ」


 言うと同時に――今度はルルーナが天井を見上げながら語る。


「上の方には、モンスターの気配がない……ラキのいる所まで一気に到達できるかもしれない。行ってくれ」

「……わかった。リミナ、セシル、フィクハ」


 名を呼び、俺達は四人階段へと歩み寄る。


「……ルルーナ、カイン、ノディ、グレン」


 そして俺は残る四人へと呼び掛けた。


「必ず、ラキを倒してくる」

「ああ。存分に戦ってこい」


 ルルーナの発破をかけるような言葉と同時に、俺達は駆け出した。直後、下から悪魔の雄叫びが聞こえた。

 少し心配になったが、進まなければならないのもまた事実。俺は後ろを振り返るようなこともせず、ひたすら階段を上る。


 そこからも、下層と同じように広間に到達し、階段を上るの繰り返しだった。俺達は周囲を警戒しながらいつしか無言となり、上から伸し掛かるような魔力を感じながら、ひたすら最上階を目指す。


 やがて、その魔力が近くなって来た時、


「……レン」


 セシルが声を上げ、俺は反射的に立ち止まった。


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