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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
幻術世界深淵編

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湧き出る疑問

 俺と同行したのはルルーナとセシルの二人。相談の結果、光の数もだいぶ少なくなってきたので、ここはカインに絞ろうという話になった。


「けど、光の中を調べてカインを探さないといけないんだよな」

「無論、それは承知している」


 こちらの言葉にルルーナは頷き、説明を加える。


「ただ、私としては長年カインと戦士として付き合ってきたため、どういう願いを抱えているのか、多少なりとも予想できる」

「その予想って?」


 セシルが問うと、ルルーナは自信のある表情を見せ、


「もう少し若い頃、あいつはずいぶんと野心家だった……今はずいぶんと丸くなったが、心の底では今もくすぶっていておかしくない」

「なるほど……それで予想できると」

「そうだ。それを前提とするならば私にもある程度予測がつく」


 ……そうは言っているが、予想外だったケースもあるわけで……ルルーナが予想することで正しいのかどうか――まあ、他に手掛かりもない。

 一番カインを知るルルーナがそう言っているのだから従おう。セシルも彼女の言葉に従うらしく、俺達はルルーナを先頭にして魔王城の廊下を進んでいく。


 やがて、小部屋の中に光を見つけ入る……が、ここはセシルが訪れたことのある場所で、とある勇者がいるらしい。よって、ハズレ。


「ま、根気よく探すしかないね」


 セシルは断ずると、俺は首肯しつつ歩く。そうか、光が少なくなってくるとこういう弊害も生まれるわけだ……ふむ、光を探すだけなら人海戦術でとうにでもなるかもしれないが……誰かが脱出するごとに光の場所だって変わってしまう。これは完全に、運だな。

 なので、俺はセシル達に方針を変えようか口を開こうとした……が、その前にルルーナが小部屋の扉を開き、光を発見。


 光の中に侵入すると――どこかの町。大きさはそれほどでもないのだが……宿場町とはなんだか違う。


「……ここは?」


 またハズレか――などと思ったが、ルルーナやセシルが情報を持っていないので少し見て回ることにした。


「レン、魔王と戦う心積もりはあるのかい?」


 ふいにセシルが問う。その顔はこちらの顔を窺いながらのものであり、また同時にどことなく悔しそうな表情をしていた。


「……何でそんな顔をするんだ?」

「僕は戦うことができなさそうだからね……悔しいけど、僕は魔王を討つ力がないから」


 リデスの剣に手を掛けつつ彼は話す。


「グレンはイーヴァって人から何か教え込まれているようだけど……僕にはそれがない。得手不得手の問題かもしれないけど、それでも本来……僕がレンと一緒に立ち向かってもおかしくない状況だ」

「そう自分を卑下する必要はないと思うが?」


 ルルーナが言う。その顔には笑みが浮かんでいた。


「しかし、セシルからそのような言葉を聞くとは意外だな」

「僕だって悔しいし、今後どうしようか悩んでいるんだよ」

「ほう、悩みか」

「そうそう」


 相槌を打つセシルに対し、ルルーナは大袈裟に肩をすくめた。


「その殊勝な態度は最後の戦いまでしっかりもたせておくべきだな」

「最後の戦い?」

「ああ……いずれくる、シュウとの戦いに備えて」


 その言葉により、俺とセシルは沈黙する。


「彼らが仕掛けた策により、この戦いは勃発した……魔王との決戦の後、彼らが登場しないとも限らない」

「確かに……」


 同調すると、ルルーナは憮然とした表情でなおも語る。


「私は、そちらの方が気に掛かっているくらいだ……今回の戦いは人間と魔王との戦いになっている……いや、そうさせられているとでも言った方が正しいか。ともかく、私達が勝つにせよ負けるにせよ、シュウにも目的があるのは間違いなく、場合によっては魔王との戦いに勝利した直後、襲い掛かって来るなんて可能性もある」

「実際、シュウは前の遺跡での遭遇でそんなことを言っていたよ」


 俺が告げると、ルルーナとセシルはこちらに視線を送った。


「決戦を前に、もう一度会うことになると」

「それが魔王を倒した直後ってこと?」

「そうなんだろうな、と今になって俺は思うよ」


 だとすれば、魔王を倒した後シュウやラキとの戦いに備えなければならない……とはいえ、魔王との戦いで余力を気にすることなんて無理だ。こればかりはどうにもならないだろうな。


「彼らの目的は何なのだろうね?」


 セシルが疑問を投げかける。それについて俺は答えられない……のだが、


「私達に魔王を倒せと言っている以上、その先に何かがあるのだろう」


 ルルーナはそう告げると、小さく息を吐く。


「私の独断だが、この城のどこかに先代魔王の力でも眠っていて、シュウはそれを求めている……しかしそれは現魔王を倒さなければどうにもならないなどと考えてみたが……結局、推測でしかない」

「直接問い質すしかないんだろうけど、そんなことできるのかな?」


 疑問を口にするセシル……再度出会った時一つだけ質問できる、とシュウは言っていた。

 その質問はまだ決まっていない。魔王との戦いで忘却していたと言ってもいい。けれど、ゆっくりと考えられる今の内に決めなければならないのも事実。


 魔王との決戦が差し迫り、なおかつシュウ達が動き出している中で、俺達はまだシュウ達の目的の尻尾すら捕まえていない。ここで解明しなければおそらく目的を知ることはないだろうと予想できるが――


「レン」


 そこでルルーナが口を開く。


「シュウ達の目的を知るための鍵はレンが握っているのは間違いないだろう。だが、そうだからといってそっちに意識を集中させるのは好ましくない」

「わかっているよ……でも」

「気になるのはわかる。今の内に頭を整理しておくのも悪くない……フィクハ達の準備もまだ済んでいないようなので、まだ多少ながら時間もあるからな」

「……しかし、そう考えるとおかしな話だね」


 今度はセシルが口を開いた。


「小説とかの物語では、魔王を倒せばハッピーエンドになるはずなんだけど」

「現実はそう甘くはないということだろう。前の魔王との戦いでは確かに魔王を倒し戦いは終わった……だが、今回は違う」


 ルルーナは決然と述べると、幻術世界の空を見上げる。


「魔王との戦いですら通過点かもしれない……無論、現魔王であるアルーゼンもそんな役回りは遠慮願うところだろうが」

「アルーゼンも、対策はしているということだよな?」


 俺の意見に、ルルーナは「そうだろう」と推測を述べる。


「魔王とて、ただやられっぱなしというわけではあるまい。このような状況でもしっかりと対策は立てているはずだ」

「シュウ達は現状、アルーゼンを倒す術がない……もしアルーゼンと協力できれば……なんて、さすがに夢物語か」

「そもそも、そんなことはできてもすべきではないと思うけど」


 セシルは苦笑を伴い俺に語った。


「魔王と手を組むなんて真似、怖くてできないよ」

「ま……それもそうだな」


 俺はセシルの意見に同意した後、話を戻すことにした。


「さて、町に入ったわけだけど……それらしい人は見当たらないな」

「この場にいるのは間違いないと思うのだが……カインではないのか?」


 ルルーナは首を傾げつつ周囲を見回す。俺も彼女と同様人混みに視線を向けてみるが、それらしい人物はいない。

 ここはひとまず退散するか……そんな風に考えた時、俺は見覚えのある後姿を発見した。


「あ……」

「ん? どうした?」


 ルルーナが問い掛けたのだが、俺は半ば反射的に足をそちらへ向ける。


「もしかしたら……カインかもしれない」

「なら、行こう」


 セシルが提案。ルルーナも頷き、俺は二人を先導しつつ背中が見えた道を目指すことにした。


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