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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔王城突入編

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魔王の城

 ――三日後、俺達は朝早くベルファトラスの城へと移動。魔王の城付近へ辿り着く転移魔法によって、移動を行った。


 あれから戦争に関する情報などを手に入れることもできず、魔王と戦うべく準備をしていた。ちなみに転移魔法自体は、ロサナが言った通りナーゲンやジュリウスと話した翌日にはできあがっていたが、その他の準備が完全に整うまで時間が掛かり、結局三日かかったというわけだ。


 この場にいるのはロサナやリュハンを含めた、セシルの屋敷にいる仲間達と、ナーゲン。マクロイドを始めとした現世代の戦士達は既に先行して到着しており、魔王の城突入に向けて着々と準備が進んでいた。

 そして転移魔法により到着した先は、森の中。土が固められた空間で、足元に精巧な魔方陣が描かれているのがわかった。


「まずはフロディアと合流するわ」


 ロサナは先導しつつ歩み始める。残る面々は無言で追随し、森の中へと入った。茂みなどは何度も人の往来があるせいか踏み固められており、移動するのに不便さはない。

 とはいえ……森の中を進む間、空気がずいぶんとピリピリしていると思った。これは戦いが近いため、周囲の人間が放つ気配がそう思わせているのか。それとも、結界で阻まれているとはいえ、魔王の城が間近に存在しているからなのだろうか――


 考えている時、森を抜けた。そこには拠点が広がり、様々な国の騎士や兵士達が動き回っていた。


「ああ、お疲れ」


 その中でフロディアが出迎えてくれた。笑みを湛えながら近づくその姿に、ほんの一時安堵の気持ちを抱いたのだが、


「……勇者様」


 隣にいたリミナが声を掛けた。何事かと聞き返そうとした時――前方遠くにあるものを視界に入れる。


 森を抜けた先は、平原が広がっている。街道の類は一切見られないことを考えると、この場所自体それほど人がいる場所ではなかったのだろう。

 なだらかな丘がいくつも存在し、多少ながら起伏がある――そうした中、今の視点で言うと左斜め方向――そこに、漆黒の城を見つけることができた。


 一口に言えば、天を衝くような鋭い塔を持つ居城。横に広がるのではなく上へと大きく伸びている建物で、全身が朝陽を浴びて異様なまでに輝いている。ある種幻想的な光景に見えなくもなかったが……一目見た瞬間、俺はゴクリとつばを飲み込んだ。


「わかっていると思うが改めて説明させてもらうと……あれが、魔王の居城だ」


 フロディアが指摘。ふと周囲を見回すと、仲間達は全員魔王の城へ視線を注いでいた。


「ここは結界が張り巡らされた場所からまだ少し距離がある……結界自体は城を中心にして円形に存在しており、それを取り囲むように様々な国の騎士が城を見張っている。どこかで異常があれば、すぐに連絡がくるよう体制は整えている」

「で、魔族や魔物は?」

「それが、気味悪いくらいに出てこない」


 ロサナの質問にフロディアは首を傾げながら話す。


「魔王の城を観察している間、あそこから魔物の群れどころか、魔族一体すら出てきてはいない」

「どういうことよ?」

「私にもさっぱりだ。ジュリウスも理由はわからないと答えていたし……」


 そこで、彼は俺を一瞥した。


「……レン君がジュリウスから聞いた『夢の城』と関係しているのかもしれない」

「何があるんでしょうね」

「踏み込んでみなければわからない、というわけだ……とはいえ、南部の塔を守っていた魔族達がこちらに飛んできたことはあったよ。あいにく全部倒してしまったけど」


 フロディアは手に握る杖で地面を数回叩いた後、続ける。


「ロサナは聞いていると思うが、ここ数日で魔族の動きは変化した。相手も混乱期を過ぎ、落ち着いてきたと言えばいいだろうか……塔に常駐する魔族の数が、元通りになっているらしい」

「けど、向かっては来ないのよね?」

「そうだ。あくまで塔を守っている……私としては既に魔王の城が完全な防備を整えているのでは、と思っている」


 フロディアは城へ目を向ける。


「傍目からはわからないけどね……結界を破壊し中に踏み込んだら何かあるのかもしれない」

「ま、その辺りは突入してからじゃないとどうとも言えないわね……で、作戦は?」


 ロサナが問うと、フロディアは頷き、


「それをこれから説明する……全員、移動してくれ」






 案内されたのは、城に存在する大会議室くらいの広さを持った大きく奥行きのあるテント。その場には俺達を始めとした精鋭がずらりと並んでいた。


 闘技大会出場者であるジオやデュランドといった見覚えのある騎士や、ルルーナやカイン、アクアといった現世代の戦士。さらにマクロイドなどの闘士の姿……加え、各国の隊長クラスらしき重厚な雰囲気を持った騎士もいた。


 さらに言えば、多少年齢を重ねている傭兵っぽい人や、俺やリミナと同年代くらいの傭兵もいる……前者は現世代の戦士。後者は現役の勇者だろう。そしてこの場にいる面々は、間違いなく壁を超える力を持っているメンバーというのは予想がついた。


 俺達はテントの入口付近で立って話を聞く。目の前にあるのは長机。その反対側に、議事進行の役割を持ったフロディアが立つ。


「さて、ここに集まっていただきまずは感謝いたします……これより、魔王討伐に関する話をさせて頂きます」


 全員の気配が重くなる。魔王、というフレーズを聞いて一気に緊張感が高まった。


「ではまず、最初に警告を。この場にいる方々は全員、目前にある魔王の城へ攻撃を仕掛けると説明を受け、この場にいる……しかし、もし今ここで魔王の城を見据え、もし不安を感じた場合、私に言ってください。攻撃を開始するまでの間に話して頂けたら、戦いに参加はしなくても構いません」


 全員、無言――フロディアはテント内にいる人々を見回した後、さらに続ける。


「こうしたことを述べるのには理由があります。今回の戦いは失敗が許されない。怖気づいた様子などを出されては、味方の士気を下げることになる……この場にいる方々は命を賭してこの戦いに参戦してくれているのだと私は思っていますが、人は考えが変わるもの。命が惜しくなったとしても、それは決して弱音ではない。不安ならば、必ず言うようにしてください」


 なおも沈黙――けれど何人かが小さく頷いた。表情を変えていないので、不安に思い戦いをやめたくなったというのではなく、フロディアの説明に納得した、といったところだろうか。


「では、改めて話をさせて頂きます……魔王討伐について。突入手段と、城内へ踏み込んだ時の対応です」


 フロディアがそう語った直後、俺は視線が彼と重なった。こちらは心情を読み取ることなどできなかったが……彼は俺を見て期待しているような視線――というのは、俺がそう思いこんでいるだけだろうか。


「まず、魔王城突入の時刻ですが……会議終了後少しして、四方の拠点に攻撃準備の連絡が行き届いた後行います」


 となると、この会議が終わってすぐということか……さらにテントの中の空気が張りつめる。


「もし城側に異常があれば、その時点で様子を見るために攻撃は一時中断。魔王の城を囲む結界についても異常があった場合も同様とします」


 現状が維持されている状況を前提として、作戦を行うというわけか……石橋を叩いているといった感じなのかもしれない。

 そこからフロディアは一度俺達を見回す。全員はなおも無言のままであり……かといって俺は空気に圧されたというわけではない。


 今から魔王との戦いが始まる……それに対し、静かに心の中が覚悟をし始めていた。


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