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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔の洗礼編

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分かれる仲間

「怪我人二人か……」


 俺が椅子に座り小さく息をついた直後、目を細めセシルが言った。


「闘技場には治療班もいるから、大事には至らないと思うし明日には何の問題もなく復帰できると思うけど……ちょっとばかり、心得ておかないといけないな」

「心得?」


 俺が訊くと、彼は神妙な顔つきとなり、


「僕らの中で貴重な治癒魔法使いが揃って倒れたわけだからね」

「……そう言われてみると、そうだな」


 今後魔王やシュウとの戦いとなれば、傷を癒す二人の力は大いに必要となるだろう。けど現状としては、その二人が倒れる始末。色々考えるべきことがあるかもしれない。


「事前にこういうケースもあるって把握できて、ある種良かったとも言えるか……で、リミナさん、ミーシャに対する対策とかは?」

「まだ浮かんでいません……ロサナさん」

「ええ、残り二試合が終わったら詳しく話すことにしましょうか。一日あるし」


 リミナの呼び掛けにロサナは頷き、会話は一段落。そこで、今度はアキが問い掛けてきた。


「明日の試合についてだけれど……見るの?」

「リュハンさんに相談だな。何か他に訓練が必要なら――」

「お前のしたいようにすればいい」


 リュハンからの言葉。それに俺は「わかった」と答え、


「なら、試合だけは見ることにするよ」


 意思表明し――俺は、残る試合を観戦することにした。






 以後の戦いについてだが……結論から言えば、それほど見るべきものはないと言って良かった。


「もし私が勝ったのなら、そちらが所持している英雄シュウを追う役目……私に譲れ」


 そういう宣言から始まった、グレンとライラの試合……なのだが、当のライラは善戦したものの実力的にはグレンと大きく差があったようで、真正面からの攻防に押し負けグレンに敗北した。


「あーあ。彼女、これでルルーナから反省会ね」


 ロサナは頬杖をつき、膝をつくライラを見ながらコメント。


「確か話によると、グレンに交換条件を突きつけたはずよ。もし勝ったら、レンが組むパーティーに入れてもらうように」

「試合開始直後、言っていたよ」


 俺が口添えすると、ロサナはがっくりと肩を落とす。


「ルルーナは反対したそうだけどね……壁を超えているのは間違いないし実力も申し分ないんだけどね。けど、やっぱりグレンやセシルと比較したら劣るのは間違いないし」


 と、彼女は俺に視線を向けてきた。


「どうも彼女は、選ばれなかったことに対し不服だったみたい」

「そうなのか……確かに候補に上がってはいたけど、比較対象がセシルやグレンだったから」

「――何か、言っておくことはあるのか?」


 俺が会話をこなす間に、闘技場ではグレンがライラへ手を差し出しつつ口を開いた。


「彼は特殊な道具を使って闘技場内の会話を聞いている。もし何かあれば、声を聞かせることができるが」

「……そうか」


 ライラはグレンの手を取って立ち上がると、


「別にレンが戦う場所に固執しているというわけじゃない。ただ私を選ばなかったことに対し、意趣返ししようと思っただけだ」


 なんだか不服そうなライラの声……きっと共に訓練した仲だから、選ばれなかったのが悔しかったのかもしれない。


「……何か、質問があれば私が後で伝えようか?」


 さらにグレンが問うと、ライラは首を左右に振った。


「それは本人に会った時、訊くことにしよう……気を遣わせて悪かったな」


 ――そうして、グレンとライラの試合が終わる。因縁が無い分だけさっぱりとした戦い……まあ、本来知り合い同士で戦うなんて可能性の方が少ないだろうし、これが普通の戦いと見るべきなのか。

 で、その次にはアクアの試合があったわけだが……当然ながらアクアの勝利。彼女はまったく全力を出していない様子で、対戦相手を確実に手玉にとっていた。順当過ぎて特に言うこともなく、これで二回戦の半分が終了したことになる。


「さて、それじゃあここで解散ね」


 手をパンパンと叩き、ロサナがまとめるべく告げた。


「ノディとフィクハについては、私が様子を見に行くことにするわ……戦闘を振り返ればそれほど深い傷は負っていないはずだし、今日中に帰ることができるのは間違いないでしょう」

「ならベニタさんには人数分夕食を作ってもらうようお願いするよ」


 セシルは言った後立ち上がる。そこで、俺は一つ疑問を抱いた。


「あ、そういえば……明日以降の日程はどうなるんだったっけ?」


 広間にいる面々に訊くと、答えはアキからやって来た。


「明日、残る二回戦の試合が行われて……次の三回戦は四試合ずつを二日。そして準々決勝、準決勝と決勝は一日ずつ消化されるわね」

「ということは、三回戦も一日空くわけか」

「そうなるわね……明日試合を見るつもりみたいだけど、訓練はいいの?」

「リュハンさんはしたいようにと言っていたし……まあ、暇を見つけてここで剣を振ってもいいかな」


 広々とした室内を見回しながら俺は言う……反面、セシルとリミナ、そしてグレンは三人とも難しい表情。訓練する気なのだろうと思ったので、俺は口を開く。


「この場にいる中で、残る三人は訓練の予定かな」

「そりゃそうだよ」


 発言に応じたのはセシル。


「僕はルルーナ、リミナさんはミーシャ。そしてグレンはアクアさんと当たるわけだから」

「三回戦になって大勝負ばっかりとなって来たな……ま、俺もアキと戦う以上手は抜けないけど」

「頑張りましょう」


 アキは俺に呼び掛けた後立ち上がって背を向ける。そこで俺は一つ質問。


「アキは、どうする気だ?」

「ん? もちろん――」


 と、彼女は肩越しにこちらを見つつ、


「レン対策のために、訓練よ」


 はっきり言って、広間を後にした。


「……本当にやらなくていいのかい?」


 セシルが疑問を口にする。確かに目の前で対策をすると表明されれば焦りそうな感じにもなるが、


「……いや、俺は観戦するよ」


 ――決して、明確な理由があるというわけではない。しかし、なんとなくこの闘技大会を見ることで何か得られるのではないか――と、思ったりしただけだ。

 詳しく語ることはなかったのだが、セシル「そう」と言い、他の面々から意見が出ることもなくその日は解散ということになった。


 俺を最後尾にして部屋を後にしようとする中で……俺は、なんとなく振り返る。早い時間に終わったためか、まだ西日は差していない。

 明日の第一試合はラキが戦うことになる……が、おそらく収穫はないだろう。そして明後日になれば俺はアキと雌雄を決することとなる。


 その次は、セシルかルルーナのどちらか……俺と戦う相手は元々厳しいが、ここからさらに厳しくなってくるだろう。


「どちらにせよ、ラキが決勝に到達する可能性だってある……改めて気構えはしとかないと」


 準決勝でマクロイドが倒してくれるのがありがたいと言えばありがたいのだが……他力本願ではいられないし、何より優勝すると決めたのだ。ラキの戦いは少なくとも、見ておくべきだろうと思った。






 ――そうして、闘技大会二回戦の一日目が終わった。セシルの屋敷に帰り、夕食前になってフィクハとノディも帰ってきた。


 両者共色々と言いたいことはあったようだが、敗者ということで何も語らないことにしたらしく、明日からは俺達の応援に回るということに決定。明日からの試合も広間で観戦するとのこと。

 加えて俺を除く三回戦進出者は明日一日訓練するとのことで……そうした話し合いの後夕食を終え、何事もなく就寝し――


 翌朝、俺を含めた三人は闘技場へと足を運んだ。


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