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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
魔法使いの闘技編

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魔法の完成形

 リミナは槍を振りかざし、ルーティを迎撃する。相手の手の内がわかったことにより、槍による攻撃をメインに切り替えたのか?

 ルーティはリミナの槍を防ぐと刺突を放った。けれどリミナは容易に避け、槍による薙ぎ払い。ルーティはそれをかわしつつ、なおも接近しようとする。


 完全に食いついた様子。これでは強力な魔法を使えば自分も巻き込まれる……となれば、リミナの選択肢は一つしかない。


「ふっ!」


 右耳からリミナの声が聞こえる……やはり槍はルーティによって全て弾かれ、攻撃が届くことは無い。

 しかしルーティも接近戦に持ち込んではいるが、一気に攻め立てるようなことはしなかった。これは一体――


「グレン、ルーティさんの動きをどう見る?」


 セシルが口を開く。グレンはその言葉に従い、自身の見解を述べた。


「有利な状況に持ち込んではいる……が、決定打がなさそうだな」

「リミナさんの腕が存外上がっていて、付け入る隙がないということかな?」

「そんなところだ」


 腕……槍の腕か。確かにそれなら、ルーティが攻めあぐねているということから現状も理解できる。

 やがてルーティは一度身を退いた。とはいえ槍の間合いギリギリであり、魔法を使う素振りを見せたなら、すぐに飛び掛かりそうな雰囲気であった。


 対するリミナは槍を構え直した後、超然と立つ。魔法を放つ気配はない。あくまで、槍で戦おうとする気でいるみたいだが。

 俺ならどう攻めるだろうか……思案していると、後方の扉が開いた。


「やっほー」


 ロサナの能天気な声。一瞥すると、笑い掛けながら俺へと近寄ってくる彼女の姿。


「どうも、ロサナさん」

「仕事が一段落して様子を見に来たのだけれど……ふむ」


 闘技場を見てロサナは口元に手を当てる。


「ほほう、予想通りの展開ね」

「……え?」

「騎士ルーティが平然と立っているということは、光弾とかを放つ無詠唱魔法は通用しなかったんでしょう? で、今は双方決め手を欠き膠着状態に陥っている」


 ……見てもいないのにズバズバ言い当てている。それに反応したのはアキ。


「ロサナさん、予想通りならリミナさんはその辺りの対策を?」

「ええ。もし一連の攻撃が効かなかったら……新技を試せと言ってあるんだけど」


 新技……? 今のところはその素振りは見受けられないけど。


「レン君、使った気配は無し?」

「……特に目立った動きはしていませんね」

「そっか。時間が掛かる技だから仕方ないけどね」

「時間が……となると、現在は準備中といったところですか?」


 問い掛けたのはフィクハ。ロサナはそれに深く頷き、


「ま、見てなさい」


 自信ありげに話すロサナ……俺はそこで、視線を戻した。

 ルーティとリミナは互いに牽制を加えつつ、つかず離れずの距離を保つ。けれどルーティの攻めがやや苛烈になり、次第にリミナは押され始めたのだが――


 ルーティは、再び槍の間合いギリギリに逃れた。あのまま攻撃し続ければ、いずれリミナに押し勝つことができたかもしれないのだが――


「……互いに、決め手がない、という風に見えるかもしれませんね」


 ルーティの声が耳に入った。


「リミナさん、どうやらあなたは何かしら策がおありの様子……それがどのようなものかわかりませんが、両腕の魔力収束を見るに、強力な魔法を叩き込むつもりなのでしょう」


 彼女が語る間に、リミナは体勢を立て直す。


「私はその魔力収束を終えない限りは、迂闊に仕掛けられそうにない……となれば」

「わかりました」


 リミナは承諾する――ルーティはリミナの行動を見て警戒。逆に仕掛けてくるのであれば、対抗しカウンターをお見舞いする腹積もりのようだ。

 で、リミナとしても策が整えば仕掛ける気……そう推測した時、


 リミナが走る。同時に、槍先から光が生まれた。


 生じたのは幾本もの光の矢。雨のようにルーティへ注がれ、彼女はそれを左手に生じさせた結界により防いだ。

 結界と矢が衝突した直後、重い物が鉄の盾に直撃したような音が生じる……見た目とは裏腹に相当な威力を兼ね備えている。ルーティは、たまらず呻いた。


「魔族に対抗できる詠唱、無詠唱魔法の完成形――それに、リミナは近づいているのよ」


 ふいに、ロサナが語り始める。それに耳を傾けながら、槍を突き込んで結界を破壊するリミナの姿を捉える。


「例えばの話、この闘技場を焦土と化せるような魔法を放ったとする……見た目は派手だけど、魔族には通用しない。なぜなら高位魔族に対抗するためには、肉体だけではなく彼らが持っている魔力にダメージを与えなければならないから。そのためには、広範囲に拡散するより魔法を収束させた方が威力も上がる」

「それが、あの魔法ですか?」


 俺は結界を突き破った光の矢について問う。その魔法は結界を貫通し、あまつさえルーティの脇腹を掠め――鎧を破壊していた。

 均衡は崩れた。さらにリミナは槍の先から魔法を生じさせ、さらなる矢を生み出している。


「あれはその一つ……もちろん強力な魔法になれば見た目も派手になるけどね。だけど周囲に被害が及ぶような魔法ではなく、一極集中……それが、魔族やシュウとの戦いで必要となってくるというわけ」


 完全にリミナが押し始めていた。ルーティは槍を弾くが、それでも矢を回避するのが難しく、何ヶ所も破損箇所を増やしていた。


「リミナの場合、まだ未熟で魔力収束に時間が掛かるけどね……次の試合からはこうもいかないだろうし、今後対策が必要ね」

「……二回戦の相手って」

「順当にいけば、オルバンさんね」


 フィクハが言う。確かに彼なら別の対策が必要だな。


「けど、倒しがいのある相手とも言える……彼に攻撃が届けば、それこそリミナの攻撃力は高位魔族に届くと考えてもいいでしょう」


 確かに、強固な防御能力を持つオルバンに打ち勝つことができれば、リミナの力は証明されたも同然。彼女にとっても、この大会は大きな成長の場となりそうだな。


「さて……戦いは終盤、といったところね」


 そしてロサナは言う……視線を戻すと、ルーティは幾度となく矢を受け大きく後退していた。

 誰の目から見ても、どちらが優勢なのかは明らかだった。ルーティはリミナの猛攻に耐えきれず、カウンターすらできないまま後退する他なく、一方のリミナは傷一つ負っていない。


「一つ、課題があるとすれば――」


 と、ロサナはなおも語る。


「私が見た中で、騎士ルーティに押され気味の場面があった。彼女はリミナの力に警戒し、カウンター狙いという作戦をとったわけだけど……もしドラゴンの力に構わず延々と攻撃し続けられたら、負けていたかもしれないわね」


 手厳しい言葉だったが……セシルやグレンは同意なのか何度も頷いていた。

 その時、俺の耳から甲高い金属音が聞こえた。リミナの放った槍がルーティの剣を弾き――それは、床に落ちた。


 そしてリミナの槍がルーティに突きつけられる……刹那、実況がリミナを勝利者として名を呼び、歓声が上がった。


「最初はヒヤリとしたけど、どうにか勝ったね」


 フィクハは呟くと同時に立ち上がる。次の次が試合であるため、その準備のためだろう。


「私の相手はリリンだし……気合入れていかないとね」

「そういえば、選抜試験で手を組んでいたりもしたな」


 俺が言うと、フィクハが小さく頷く。


「それに勝って、次のミーシャと戦う……そして、リミナとも戦うよ」


 宣言し――フィクハは、俺達が見送る中広間を後にした。


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