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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闘技激闘編

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彼の対戦相手

 屋敷に戻るとロサナとリュハン以外の面々が集合しており、食堂で昼食をとりながら報告をすることとなった。

 席は昨夜と同様予選参加者と監視役が向かい合って座る形。


「とりあえず、グレンは問題ないと思う」


 先んじて口を開いたのはノディ。


「午前の戦いを見ても、抜きんでて圧倒していたし」

「フィクハも似たようなものかな」


 次に口を開いたのはセシル。


「でも、フィクハの場合は序盤出し惜しみしすぎたし、もう一度予選をすることになるかもしれない」

「問題ないよ」


 フィクハは不敵な笑みを浮かべ返答しつつ、パスタを口に入れた。


「予選を受けてみて感触はわかったし、あれならたぶん大丈夫」

「油断はしないでくれよ」

「もちろん」

「……で、レンの所は?」


 セシルが話を振る。俺は小さく頷き、話し出す。


「リミナとアキが、同じ組に出場した」

「うお、いきなりか」

「とりあえず他の面々と比べて明らかに違う実力を示すことはできたから、たぶんいけるんじゃないかな」

「それなら良しか……で、どっちが勝ったの?」

「リミナさんね」


 アキが答える。その表情には一片の悔しさもない。


「けどまあ、手の内全てを晒したわけでもないし……」

「本戦出場する面々に対する、対応策といったところ?」

「そんなところ」

「そっか……ところでレン。ラキの方は?」

「あいつも圧倒的な剣技を炸裂させていたよ……俺がリュハンさんに教わった『吹雪』という乱撃技だ」

「予選は突破しそう?」

「たぶんできるんじゃないかな……もしそうでなくても、フィクハのようにもう一度予選ができる結果にはなっていると思う……そっちは?」

「僕らが監視したのはエンスだ。彼も危なげない試合運びで勝っていた。本戦出場は出来ていると思う」


 言ったと同時に、セシルは硬い表情を示した。


「彼は独特な戦法だったよ。相手の剣を緩やかに避けつつ、宙に浮いているんじゃないかと思うくらいの軽い足運びで相手を斬っていく。道具で多少なりとも補強しているはずだけど……タネがわからなかったのが悔やまれるな」

「そっか……で、ノディの所にはミーシャか。どうだった?」

「とりあえず魔族の気配は生じていなかったよ。まあ大男をパンチ一つで簡単に吹き飛ばしていたから、表層に出ていないだけで魔族の力を使っているのは間違いないよ」

「本戦もそんな風に戦うのかな?」

「たぶんね」


 ノディは水を飲みながら答えた……話を聞く限り、ラキ達も本戦出場できそうな気配だな。


「あ、そういえばセシル。エクサっていう人に出会ったんだけど、知ってるか?」

「情報屋のこと? もちろん知っているよ。彼に会ったのか?」

「ああ。俺の行った闘技場で戦うらしい」

「そうなんだ……ま、リサーチは得意だけど剣の腕はそこそこってところかな。普段の統一闘技大会ならチャンスはあったかもしれないけど、今回は現世代の戦士がわんさか出るから、審査の目も厳しい。難しいだろうね」

「そっか」

「気になるの?」

「いや、腕がどの程度なのか訊きたかっただけだよ」


 そう語った時、俺はフォークを置いた。


「ごちそうさま……セシル、午後からはどうする?」

「午前で一通り終わってしまったようだし、ここからは自由行動でもいいんじゃない? ラキ達は闘技場を離れればナーゲンさん達が監視役をつけてくれているだろうし、僕らが動かなくてもいい」

「なら、訓練でもしようか」

「観戦はしないのか?」


 これはグレンの質問。俺はそれにしばし考え、


「まだ技法が完成していないからな……それをやらないと」

「殊勝だな。頑張ってくれ」


 グレンは言うと同時に、俺と同様フォークを置いた。


「私は少し休むことにしよう」

「なら、私は体を動かしてくるよ」


 ノディは語ると速やかに立ち上がった。

 それをきっかけにして、昼食は終了し解散。各々が行動し始めた時、俺は訓練するべく食堂を出た。


「勇者様」


 隣にリミナが近寄ってくる。


「私も同行してよろしいですか?」

「構わないよ。どうした?」

「私もアキさんと戦って、もっと頑張らないと……という風に思いまして」

「そっか。しっかしアキも結構隠してたな」

「まったくです……それが功を奏せば良いのですが」


 場合によっては味方と当たるかもしれないんだよな……ま、それはとやかく言っても始まらない。


「よし、それじゃあ訓練場へ」

「はい」


 リミナが答え、俺達は屋敷を出て訓練場へと向かった――






 二日後、予選の結果が出た。俺も訓練の合間に闘技場へ足を運んだりもしたのだが、ラキやリミナ達の戦いのように印象に残るものはなかった――それを反映してか、リミナやアキ。さらにフィクハとグレンは全員一発で本戦出場を果たしていた。


 そして、当然ながらラキやエンス、ミーシャも本戦出場……ナーゲン達の根回しで予選敗退にできないのかと思ったが、ここで下手をやらかすとベルファトラスの権威的なものに関わってくるということで、やらなかったそうだ。


 これで推薦枠と予選枠がほぼ埋まり、残り決まらなかった少数の椅子を巡り闘技大会予選が再開され、その結果により明日には全員決定するとのことだ。

 そして俺の訓練だが、リュハンに言わせると「上出来」らしい。けど完全に習得するまでには至らず……本戦まで、さらに修練を重ねる必要がありそうだった。


「――で、肝心の本戦の対戦について」


 俺は訓練が終わった後ナーゲンに呼ばれ、話を聞くこととになった。場所は例によって豪華な客室。ただここも本戦が始まれば埋まってしまうため、本戦では使用できないらしい。


「本戦の出場枠は明日にも完全に決定する。けどほとんど埋まっているから、今の内に決まっている人間だけでも対戦表を組むらしい」

「それで、ラキ達は?」

「エンスとミーシャの二人は互いに戦ってもらうことにする……で、準々決勝か準決勝でアクアと戦ってもらうことにした」


 容赦がないな……まあ、優勝させないということを考えれば、良い人選か。


「そしてラキだが……彼にはAブロック一回戦一試合目……これは本戦開始直後の戦いになるけど、カインと戦ってもらう」

「カインと?」

「彼自らが手を上げた。どうやら戦士団の一件で気に掛かっているらしい」


 そこでナーゲンは苦笑した。


「ま、彼も因縁があるということだね……次にルルーナも手を上げ、この二人を軸にラキの対戦相手を決めることとなった。まあ、Aブロックは激戦区となるだろう」

「本戦一発目というのは、意味があるんですか?」

「ラキの技量が優れているなら、カインとの打ち合いになるだろう。現世代の戦士と互角の人物が初戦に登場――となれば、盛り上がるだろ?」


 なるほど、観客を考慮してのものなのか……その辺りのことも考えないといけないようで、大変そうだ。


「で、俺達は?」

「君達のことを調整するのは、運営側もさすがに拒否した……できるところまでは公平にいきたいという考え方のようだね」


 そうか……俺としてはラキと同じブロックに当たるべきなのか、そうでない方が良いのかわからないな。


「ここは君の運にかかっているな。良い対戦相手になることを祈っていてくれ」

「はい」

「本戦の対戦相手は、本戦開始二日前までには判明する……それまで、ゆっくりしていてくれ」


 語ったナーゲンは微笑んだ。俺は小さく頷き、部屋を出ようと立ち上がる。


「あ、それとレン君」

「……何でしょうか?」


 浮かした腰を再度落とし尋ねる。


「訓練は順調?」

「……まあまあです」


 肩をすくめる。するとナーゲンは「そう」とだけ言い、


「闘技大会、期待しているよ」


 優しい笑みを見せ、俺へと告げた。


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