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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闘都策謀編

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闘技大会について

「さて、それじゃあ闘技大会について説明しましょうか」


 夕食の席につき、俺とリミナ、そしてロサナは食べながら会話を始める。ちなみに座席配置は俺とリミナが隣同士。ロサナは向かい合って座っている。


「まずは本戦の説明からするわ。統一闘技大会は過去の実績や国からの推薦……そして予選通過者によって集められた人達が、いつも訓練で行っているあの闘技場で戦うことになる。本戦に出場するだけでも、普通の戦士だと箔がつくくらいのものよ」

「何人出場できるんですか?」

「六十四人」


 ロサナはピシャリと答える。


「十六人ずつ、四つのブロックに分けられて、トーナメントをこなしていく……優勝できるかは、トーナメントである以上運も絡むわね。一回戦で強敵と戦うようなことがあるし、怪我を負い勝っても戦えなくなることだってあるし」

「対戦相手は、ラキ達のことを考えて操作するんですよね?」


 確認のためにロサナへ問うと、彼女は「そうね」と答えた。


「ま、精々シュウ側の人間に対する優勝難易度を調整するくらいでしょう……私としては、それほど懸念はしていないんだけどね。彼らは魔族の力を用いているけど、闘技大会ではその力を使用した時点で、まずいことになるだろうから使えないし」

「反則ではないんですよね? なら――」

「魔族という存在を、国の人が見逃すと思う?」


 ……シュウは確か、ベルファトラスの王様と仲が良かったんじゃなかったか? その辺りのことを見逃せと言われれば、従いそうな気もするが……まあ、ナーゲン達に任せるしかないか。


「ただこの辺りはラキ達の戦闘を実際見ないことには判別つかないし、置いておきましょう。で、人数から合計して六回戦えば優勝。優勝者には賞金と、土地と屋敷が与えられる……他には、統一闘技大会覇者という栄達が与えられるわね」

「……闘技大会は、この大陸に存在する戦士の頂点を決める戦いですよね? なんだか手にできるものが少ない気もしますけど」


 そう告げたのはパンを飲み込んだリミナ。彼女としては、屋敷と覇者の価値が釣り合っていないらしい。


「それは感覚の問題だから、私がどうこう言うこともできないわよ。けどまあ、統一闘技大会覇者は例外なく余生を有意義に過ごしているみたいだし、決して少ないというわけではないと思うわ」

「そんなものですか」

「それに、覇者が役に立つ機会なんて、それこそ戦争くらいしかないわけで……」


 そこまで言うと、ロサナは口をつぐんだ。ま、平和な世界で個人の武力が必要なケースなんてほとんどないし、仕方ないのかもしれない。


「……話を戻すわ。現状私達はシュウ達が何の目的で統一闘技大会に参加するのかわからないから、止めるべく動いている。そして、ナーゲン達が対戦表をいじくってラキ達を優勝させにくくする……一番の方法は、ラキの仲間同士で戦わせることね。能力の序列はわからないけれど、一人にすることはできる」

「容赦ないな……」


 俺は呻くように呟いた。とはいえ参加理由もわからない相手なのだから、警戒してしかるべきかもしれないが。


「次に対戦相手の決定云々についてだけど、これは予選が全て終わってからになるわね。数日後の予選エントリー登録は十日程で終わり、その翌日から予選がすぐに始まる。それを勝ち抜いた面々が、本戦に出場できる。そこから、対戦表を作成する」

「予選通過者というのはどの程度なんだ?」


 俺が質問すると、ロサナは「さあ?」と言いながらスープを一口。


「年によって大きく変わるのよ。推薦の人物が半分以上を占めたこともあるし、逆にひどく少なくて予選通過者が大半を占めた時もあった……私は推薦者がどの程度いるのかわからないからどうとも言えないけど、今回は多いかもしれないわね」

「俺みたいに、魔王と戦う人間が出場するから?」

「そんなところ」


 ロサナは答えるとサラダを食べ始めた。対する俺は気付けばフォークの動きを止め、考えてしまっている。


「ちなみに、一つ捕捉しておくけど」


 そんな状況の中で、ロサナはさらに続けた。


「前回の統一闘技大会は推薦者が少なかったわね……確か、十人くらいじゃなかったかしら。その中で予選通過者として勝ち残り、最終的に優勝したのがマクロイドだったというわけ」

「そうなんですか」


 興味深そうに俺は言うと、ようやくフォークを動かそうとして、


「あの、ロサナさん」


 今度はリミナが小さく手を上げた。


「その、この屋敷でお世話になっている方々について、参加はどうするのでしょうか?」

「ナーゲンの口からは任意で決めていいと言われているわ。レン君とセシルが出場するのは確定だけど、他の面々はこれから聞くことになる」

「推薦なのか予選からなのかは?」

「全員推薦じゃないの?」

「そうですか……あの、私は」


 リミナはロサナの言葉を遮るように告げた。


「予選から出場しようと思うのですが」

「……予選から? またどうして?」

「訓練により、魔族に対抗し得る力を手に入れたのは私自身も理解できました……けれど、まだまだ経験が少ないのも事実。本当に強くなったのかも私としては疑わしく、これで推薦などもらおうものなら、失礼に当たる気がして」

「私の訓練が不服?」

「いえ、そういうわけでは」


 ロサナの問い掛けに、リミナは首を左右に振る。


「ただ、私は槍を握ってから大した実績もありませんし」

「うーん、そうか……リミナが言うのなら、私はその意思に従うわよ。ナーゲンにも話を通しておく」

「ありがとうございます」

「……他の面々は、どうかしらね。ただノディだけはルファイズ王国の推薦として、出場する可能性が濃厚だけど」

「ああ、そっか。騎士としての実績もあるしな」


 ここで俺が声を上げる。


「ジオさんなんかも、出るんですよね?」

「おそらくね。ルファイズの騎士枠は二、三名だったと思うけど……その中に、ノディが入っているはずよ」


 なら、俺とセシルとノディは出場確定というわけか……グレンとフィクハはどうだろうか。認可勇者として実績もそれなりにありそうだし、推薦をもらえる可能性もゼロではなさそうだし――


「ふむ、話をし始めたら段々楽しみになって来たわね。シュウの魔の手がある以上全面的にはしゃぐというのは無理だろうけど、施した訓練の成果を見れるのは、良いわね」

「……お祭り、みたいなものですか?」


 闘技の都で大会があるのだから、そんな感じなのかと問い掛ける。するとロサナは大きく頷いた。


「そうよ。何せ、大陸の中で一番のイベントだからね」

「一番……なら、シュウ達の行動も注視するべきですね」

「そうね。けど、レン君は大会に集中しなさい。ラキ達の凶行を止める役目を、しっかり果たすこと」

「わかっています」


 俺の返事にロサナは「よし」と一言呟き、まとめに入る。


「リミナ、予選から参加するのなら数日後のエントリー登録を済ませなさいよ」

「はい」

「他の面々がどうするのかは、私が後で訊いておくわ……あ、それとリミナ。出るからには優勝を狙うこと」

「もちろんです」


 頷くリミナ。その態度にロサナは驚いたのか、眼を少し見開いた。


「あれ、レン君と当たったら勝ちを譲るとでも思っていたのに」

「それは失礼に値します。それに――」


 と、リミナは俺に視線を送りながら言った。


「私達も決闘を中断していますから」

「……ほう、なるほど」


 ロサナは関心がありそうな雰囲気で呟くと、俺達を一瞥。


「そう、決闘……やっぱり二人の間には、色々あるのね」

「……含みのある言い方はやめてもらませんか?」


 リミナは戸惑いつつ要求すると、ロサナは少し口を尖らせた。雰囲気的に「認めなさいよ」という感じだろうか。


「……ま、いいわ。とにかく、エントリー登録だけはきちんとしてね」


 最後にロサナはそう述べて――話は、一区切りとなった。


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