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異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闘都調査編

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手を組むために

 手を――俺としては驚くべき言葉であり、さらにジュリウスもいたく驚いたようだった。


『手を組む……?』

「先の話を聞いていると、現在動き回っているのは現魔王と、その側近だけ……大半は、戦う意志を持たない……だったね?」

『そうだ』

「そして、君達が独自に動いている事実を……現魔王側は、一切興味が無い」

『邪魔立てすれば戦う機会もあるかもしれないが、私の城に踏み込むなどという馬鹿な真似はしないだろう』


 自信ありげに告げるジュリウス。対するナーゲンは眉をひそめた。


「その根拠はあるのかい?」

『現魔王側は、同族をどうにかするなどという愚を犯すことはない。そもそも前の戦いでこちらも大きく傷ついた。現在は新たな魔王の下再建に取り組んでおり……その中で、同族殺しなどやれば、非難は免れない』

「しかし人間とこうして話をしているなどと知られれば、その限りではないんじゃないかい?」

『人間と協力するなど、我らにとっては些事に過ぎない。実際人間界に足を踏み入れる者や、こちらに強い興味を抱き人間と接する者も少なからずいる。無論、彼らも罰せられたことはない』


 ――これは驚いた。つまり、俺達の世界に魔族は思ったよりも存在しているということか。


『現魔王に直接挑むのであれば、滅ぼされる可能性は十分ある……が、人間達と協力するなどというのは罪の内には入らない。それにより同族を殺してしまえば……他の魔族達から反発がある。だからこそ、現魔王は行わない』

「……魔族は、魔王を滅ぼした人間を憎んではいないのか?」


 ナーゲンは確認するように問う。するとジュリウスは小さな笑い声を上げた。


『君達人間に様々な心情があるように、私達も様々な考えを持っている。実際あの戦争で戦った多くは、先代の側近と、支持者だ。私を始め、多くの魔族は静観の構えをとった。むしろ陛下の意志に反し、人間に情報提供していた者もいたくらいだ』


 そう言って、ジュリウスはさらに笑い声。


『けれど、陛下はそれすらも自由意志として滅ぼすような真似はしなかった……つまり、魔族というのは全てが魔王による絶対的な支配を受けているわけではない。魔族の本意はあくまで自身の意思に委ねられる。元々制御できる存在でもないからな……そうした中、魔王が最大勢力となり、統治しているに過ぎない』

「協力するのは、問題が無いと言いたいんだね?」

『私が直接戦うような真似はできないが、そう思ってもらって構わない』

「なら、手を組んでもらえるか?」


 ――直後、沈黙が訪れた。ジュリウスは思案しているのか声がなくなり、ナーゲンを始めとした面々も彼の言葉を待つ構えで、無言。

 その中、勝手に話を進められ小さく震えているターナが、なんだか可哀想に見える……彼女を眺めていると、やがてジュリウスが声を発した。


『……条件次第だな。君達は私に、何を提供してくれる?』

「あなたの望むものは、英雄シュウ達の情報だな?」

『そうだ。できればどのように動いているか逐一情報が欲しい』

「私達だってそうしたいのだが……できるだけ努力はすると言っておこう」

『それと引き換えに、私は何を教えればいい?』

「現魔王側の情報だ」


 ナーゲンは決然と告げる。他の者達も、同調する意見なのか肯定の空気が周囲に満ちる。


「現魔王が動き出しているとなれば、私達はシュウとは別に態勢を整えておかなければならない」

『……魔王と戦う可能性を考慮して、ということか?』

「そんなところだ」


 そこで、またも沈黙。ナーゲンはじっとジュリウスの言葉を待つ。


『……なるほど、いいだろう。だが、一つだけ条件がある』

「条件?」

『現在シュウと戦うために君達が動いているのはわかっている。しかし、果たして彼らを止めることができるのか……そこに疑問が残る』

「彼らを倒せる手段は有している」


 言葉の後、ナーゲンは俺を一瞥する。


「英雄アレス……魔王を滅ぼした技を使える人物がいる」

『なら、討てる可能性はあるわけだ……だが、果たして実力が伴っているか、そこが気になる』

「……何が言いたい?」

『協力に値する人間達かどうかを、見定めさせて欲しい』


 見定める――つまり、テストするということか。


『ターナから報告は聞いているが、何やら行動を起こすらしいね?』

「ああ。裏切り者が出ないようこちらで見分し、魔王を滅ぼした技術を教える人間達を選定する」

『それに、私も参加させてもらおう』


 ――彼の言葉で、俺は目を見開いた。他の面々も寝耳に水だったのか、驚きの表情をペンダントに注ぐ。


「参加、とは……あなたが、私達を見て判断すると?」

『そういうことだ』


 ナーゲンの質問に、ジュリウスは力強い言葉。もしかするとペンダントの向こうでは、頷いたのかもしれない。


『信用に足ると判断したならば、その場で回答をしよう。もし今後音沙汰がなければ、交渉決裂だと思ってくれればいい』

「……やれやれ、試験準備で忙しいのに、ここにきて厄介事が追加とは」


 ナーゲンは苦笑を見せつつ呟き、承諾の意を告げた。


「わかった、いいだろう。とはいえこちらはあなたの顔がわからない。もしあなたが来ても、私達は門前払いする可能性があるぞ?」

『その心配はいらない。なぜなら――』


 彼は一拍置いた。刹那、俺にはペンダントの奥にいる彼の顔つきを悟った。

 それは即ち――満面の笑み。


『既に私は、試験参加者として数日前の集いで話を聞いているからね』

「……何?」


 ナーゲンが目を見張る。俺もまた驚き、ペンダントを注視した。


『この街に潜入したのは、ターナだけではないよ。精鋭のいる都だからね。私が実際の目で確かめたかったというのもある。そこで、だ。単に参加させてもらうだけではつまらない。だから――』


 と、さらにジュリウスは間を置いた。もしかすると驚いている俺達の反応を楽しんでいるのかもしれない。


『私も実際試験に参加し、君達をしっかりと見定めさせてもらおう。君達が知りたい魔王という存在なども……手を組んだ後、話すことにする』

「……本当に、厄介な魔族だな」


 ナーゲンは苦笑いと共に声を吐き出した。


「わかった。いいだろう。あなたの協力者としてふさわしいことを、証明してみせよう」

『ああ。それとターナに危害は加えないようにしてくれ。それが前提条件だと思ってくれ』

「無論だ」


 ナーゲンが答えた直後、声が止んだ。少ししても話し出さないため、会話が終わったのだと察せられた。


「……では、この場は解散だな」


 ジュリウスからの声が無いと悟ると、ナーゲンは歎息し告げた。


「魔族絡みの案件が増えてしまったけれど、やることは変わらない。試験の日まで、準備を頼む」


 ナーゲンの言葉に、まずロサナが一礼して外へ出る。次いでアキやレックスがゆっくりとした足取りで部屋を出た。


「……さて、レン君」


 やがてナーゲンは声を上げる。呼ばれなかったセシルは俺を置いて部屋を出た。


「このことはリミナさんにも伝えておいてくれ」

「はい、わかりました……しかし、おかしな話になりましたね」

「そうだね。とはいえ私達にとっても悪い話じゃない。情報源が増え、さらに魔族のことまでわかるならば、それに越したことはない」

「あの魔族が裏切る可能性は?」


 なんとなく言及してみると、彼は小さく肩をすくめた。


「その辺りは手を打つことにするさ……それじゃあレン君、頼むよ」

「はい」


 返事をした後、俺もまた部屋を出た。


「まずは、リミナに報告だな」


 呟きつつ、リミナの部屋へ。同時に考えるのは、先ほどの魔族の事。


 魔族という存在にも様々な立場がある……考えつつ、さらにやることの増えた試験を思い、少しばかり気が重くなりつつ、歩を進め続けた。


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