表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で勇者をやることになりました  作者: 陽山純樹
闘都調査編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

288/596

魔族の事情

「――名前は、ターナといいます」


 セシルの言葉の後、まず魔族は自己紹介を行う。


「ターナ、ね。とりあえず腕は下ろしていいよ。けど、怪しい動きを見せたら容赦なく攻撃するから」


 セシルの言葉にターナは両腕を下ろし、立ち上がった後俺達に窺うような視線を見せた。


「えっとですね……それで、何を訊きたいんでしょうか?」

「まず、なぜあんたがここにいるのかだな」


 セシルは剣の切っ先を向けたままターナへと話し出す。


「城のことを調べ回っているそうじゃないか」

「……それは、調査のごく一部です。主に私は、皆様に関する情報を聞いて回っていました」

「皆様?」


 聞き返したのはノディ。俺の横に立つと、ターナへと口を開く。


「皆様というのは、私達のこと?」

「はい、そうです」


 即座に頷くターナ……助かりたい一心でどんどん喋ってくれそうな雰囲気。


「それは、私達の弱点でも探るため?」

「とんでもありません」


 そこで、ターナは首を振る……え?


「私は判断して来いと言われ、調査を開始しました」

「判断して来い?」


 俺が眉をひそめ聞き返すと、ターナは大きく頷き、


「あなた方が……英雄シュウという人物を倒せるかどうか」


 ――その言葉により、奇妙な沈黙が生まれた。


「……えっと?」


 ターナは不安になったのか俺達を見回す。その次に口を開いたのは、セシル。


「倒せるかどうか、ということは……魔族達は、やはりシュウ達と敵対しているのか?」

「え? ええ……まあ」

「あいつらが魔王を復活させるのが、よほど都合が悪いと?」


 問い掛けに対し、今度はターナが渋い顔をした。


「魔王……陛下のことですね。そうした彼らの目的とは無関係に敵対しています」

「どういうことだ?」


 セシルはますます首を傾げ問う。それにターナはひどく真剣に、


「彼らが魔界に干渉しているため、敵対しているのです」


 ……魔界に、干渉?


「ちょっと待って、一度頭の中を整理したい」


 ノディから待ったがかかる。俺も彼女と同意見だった。質問一つ一つが理解しがたく、とりあえず頭の中で考えようとした。


「あんたがここで僕達と戦う気はないと?」


 セシルが再度の確認。ターナは小さく頷き、


「信用できないと仰られるなら、信用してもらうようこちらも対応しますが」

「……セシル。どうやら話してくれるみたいだし、逃がしてあげても良いんじゃないか?」


 俺は彼女の態度を見て言及。それにセシルも毒気が抜かれたような表情で頷いた。


「だろうね。ここまで殺気立って剣を向けても反応なしなんだから、戦う気はないようだ」


 そう言うとセシルは剣を下ろす。けれど、鞘に収めはしない。


「だが魔族である以上、警戒は続けるよ……とりあえず、話を整理する?」

「いや、ちょっと待て」


 俺はそこでセシルを止め、改めてターナへ問い掛ける。


「えっと、ガーランドやファイデンといった魔族も、そうした目的で動いているのか? けれど、彼らは俺達に攻撃を――」

「……はい?」


 今度は、ターナが声を上げる番だった。


「ガーランドと、ファイデン……が、こちらの世界に?」

「彼らを知っている様子みたいだけど、こちらの世界に来ていることは把握していないのか?」

「はい。というか、攻撃とは?」

「悪魔をけしかけられたんだよ。実際、警備の人間が攻撃により負傷している」


 そこでターナの顔が、腑に落ちたようなものに変わる。


「なるほど、増員したようですね」

「増員?」

「はい。あの者達は言わば現陛下と近しい存在です。情報では魔界にいたはずですが、こちらに出てきたようですね」

「陛下……というのは現魔王か。で、口上からすると君とは関係ないのか?」

「はい。そもそも私の主君は現体制から大きく外れており――」

「ストップ」


 そこでセシルの待ったがかかる。


「レン、今度は僕が話についてこれなくなっている……ひとまず、落ち着いて質問しよう」

「……そうだな。それじゃあターナ。一つずつ尋ねることにする」

「はい」


 頷いた彼女は、俺達の言葉を待つ構えをとった――






 そしていくらか質疑応答をこなし――俺達は、一つの結論を導き出す。


「つまり……魔族という存在も一枚岩ではないと?」

「まさしく」


 俺の質問にターナは深く頷いた。

 彼女によると、現在魔族は四つのグループに分かれているという。一つ目はシュウ達に従う魔族……といってもこれは極々一部で、例外的存在だそうだ。


 二つ目は現魔王を支持するグループ。シュウ達が魔界に干渉しているため、それを阻もうと動いている。

 ターナの主君は現魔王と縁の薄い存在らしく、詳しいことはわからないそうだが……ともかく、俺達に襲撃を仕掛けた以上、何かしら人間達にも攻撃を仕掛けるのでは、とターナは述べた。


 そして三つ目は、ターナやその主君のように、穏便に動くグループ。けれど現魔王の意志ではなく、あくまで情報収集ということらしい。


「陛下から距離のある方々は、英雄シュウの干渉についてもあまり関心を示しませんし……我が主君はその中で、動いている方でしょうね」

「現魔王側が動いているのに、なぜ君の主君は勝手に行動するんだ?」


 俺が意見すると、ターナはこちらと視線を合わせ答えた。


「必要です。もしかすると戦いが起き、必要のない火の粉を被るかもしれません」

「……つまり、余計な戦いを避けたいため、情報を得ようとしているのか」

「はい」

「なるほど、ね」


 セシルは感想を述べると、苦笑した。


「つまりあれだろ? 僕らが英雄シュウを倒せるかどうかを調査し、もし倒せないと判断したなら、退避するなどの対応を行うつもりなんだろ?」

「主君にそこまで詳しく聞いていませんから、わかりません」


 彼女の言葉にセシルは「そう」と答えたが、彼の中で一定の結論は出たようだった。


「で、四つ目は?」

「はい。といってもこれはグループというわけではありませんね。三つに当てはまらなかった、いわば傍観者です」

「そういう魔族は多いのか?」

「ええ」

「魔王の指示により動いているのなら、魔族全てが動いていてもおかしくなさそうだけけどねぇ」

「あえて申し上げれば、求心力がないとでも言いましょうか」


 ――ターナの言葉に、俺は吹き出しそうになった。つまりそれは、現魔王が支持を得られていないということか? だとすると、ずいぶん辛辣(しんらつ)な言い方だ。


「ふうん。ま、私達としてはいがみあってくれればラッキーだね」


 ノディが言う。確かに、現魔王に支持なく魔界に引きこもっていてもらうのが、人間達にとって一番いい。


「えっと、それでもう一つ質問なんだけど……」


 と、今度はセシルが声を上げる。


「現魔王というのは、英雄アレスが滅ぼした魔王の血縁かなにか?」

「いえ、新たに魔族の中から選定された者です。先の戦いで、魔王及び側近は全て消えてしまったため、先代と縁の無い方になります」

「血縁者とかはいなかったの?」

「そもそも魔王という地位は世襲制ではありません」


 ターナはそう述べた後――ふと、含みのある視線を宿した。


「どうした?」


 気になって問い掛ける。けれど彼女は「いえ」と首を振り、言及はしない。


「他に質問はありますか?」

「なら、なぜ魔王が戦争を仕掛けたのか、という理由を聞かせてもらおうか」


 セシルからの質問。けれどターナは首を左右に振った。


「それは我ら魔族でもトップシークレットに位置するものであり、わかりません」

「ほう……」


 セシルは興味深そうに呟く。どうやら、魔王側にも色々と事情があるらしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ