その3
僕の存在意義は何だろう。
僕は考える。
※『旅の書1』は残念ながら消えました。
※『旅の書2』は残念ながら消えました。
※『旅の書3』は残念ながら消えました。
バグか?内蔵の電池切れか?…仕方がない。初めからやり直しだ。
………
《そして、悪い子へ…》
次の日。情報収集とかこつけて、まだ僕は単独行動で街をブラついていた。
日も暮れてきたころ、僕は、あたかも迷い込んだかのように見せかけて繁華街の裏のいかがわしい路を迷子のふりをして歩いていた。
「兄さん、イイ娘いるよ。遊んでいかない?」
願ったり適ったりだ。いかがわしそうな客引きが僕に声をかけてきた。
「いえ…僕は…」
あまり嬉しそうに飛びついては、はしたなく思われるのが関の山だ。僕は、なるべく平静を装って声の主に対して戸惑って見せた。けだし、僕が犬であれば嬉しそうにしている気が身体中から発散され、容易に自身の思考が読まれてしまうところだ。今さらながら僕は自分が犬に生まれていなくて良かったと胸を撫で下ろしている。
「損はさせないから、ウチへ来なって」
「僕は…その…」
僕は嫌々なふりをして客引きの男に腕を引かれるままについてゆく。これは決して勇者たる僕の本心ではないのだ。僕を日々観察している人々へのサービス、物語へ華を添える便宜上、お色気は必要不可欠なのだ。決して僕の心より生じた行動ではないことをここに断言しておく。
あやしげな建物。あやしげな個室へと通され、純潔な僕は仕方なく待っていた。決して楽しみにしているわけではない。周りへの誤解がないように付け加えておく。
「いらっしゃ~い」
香水のにおいがし、魔法使いエムなど霞んでしまうほどの色っぽい美人のお姉さんが一人で部屋へと入ってきた。実に、なまめかしい。
「明かりを消すわよン」
美人のお姉さんは、いきなり明かりを消した。
ピーーーーーッッ
(自主規制中)
「はい。お代は1000000金」
美人のお姉さんは服を着ながら僕に片手を差し出した。
僕はサイフの中身と相談した。そして、すみやかに僕は察知した。僕の身体で払うことになるだろう、と。しかし、児童の就労は労働基準法にひっかかるのではなかろうか。今度ばかりは、当局の介入を僕は切望してやまない。
………
《海は広い》
いつの間にか大魔王ダブリューの住む悪魔城を眼前にしていた。船でしか近寄ることのできない、ちょっとした島にある。
僕の乗る船はわりあい大きな帆船で、僕たち3人以外にも水夫が50人ばかり乗っている。
「魔物だわ!」
魔法使いエムが叫んだ。魔物は巨大なイカとタコで、海原のあちらのほうから猛スピードで僕たちの船に向かってきていた。
僕は『あぶないハイレグ水着』の上に佩いた伝説の剣の柄に手をかけた。
しかし、水を得た魚、餅は餅屋、笑う門に福来たる、だ。海の魔物に僕たち人間が太刀打ちできるはずがない。
第一、僕に水へ入って戦えというのか。この服装で水に濡れるのも癪な話だ。だいたい、水夫たちは何をしているのだ。屈強な海の男どもが50人も集まって、何ひとつ戦闘に加わろうとしないではないか。実に、非合理的だ。
それに、幼き日に僕はカニにはさまれてから海が嫌いだ。
ついでにワカメも嫌いだ。
と、考えている内に魔法使いエムが盛大な魔法でイカとタコを切り刻んで仕留めた。今夜はイカとタコの盛大な刺身パーティーになるだろう。
僕は経験値をありがたくいただいた。それと、散らばっている小銭を一粒残らず拾い集めて自分のポケットに入れた。
しかし思う。なぜ魔物が強くなるといただける金額が多くなるのか。力の強い人間が皆、金持ちとは限らないはずだ。…それとも、強い魔物は給料が多いのだろうか?
………
《いざ、決戦》
悪魔城は、おどろおどろしい外観をしていた。しかし、そもそも『悪者の城=おどろおどろしい』というのも固定概念だ。美しい白亜の城であっても良いはずだ。…と思っていると、そばには薔薇をいけた高価そうで豪華な花瓶が飾られ、壁には美麗な裸婦の絵がかけられているのが確認できた。悪魔城も捨てたものじゃない、と僕は希望を持った。
城は、ちょっとした迷路になっていた…そして、内部の魔物どもも散り散りに迷子になっていた。行き止まりには魔物の白骨化した物が転がっている。
それもそうだろう。だいたい城が迷路なら、住んでいる者も迷子になるのは世の常だろう。僕たち侵入者に備えているのだろうが、利便性に欠ける。罠や仕掛けはともかく、そもそも普通に考えて、泥棒が入るからといって自分の家を自分が迷子になるような迷路にする奴がいるだろうか。
と、考えている内に、それらしき広間へ出た。大魔王ダブリューらしき悪そうな奴が踏ん反り返って玉座に座っていた。
「よくぞ来た、勇者エヌよ。世界を闇に包み込んでくれるわ。ぐわっはっはっは!」
ベタだ。あまりにもステレオタイプだ。芸がないにもほどがある。
「それはそうですが、勇者である僕に邪魔されたくなかったら、どうして序盤から最強の魔物、もしくは貴方自身が出向かれないんです?僕たちが強くなってからでは退治しにくくなるではありませんか。しかも、僕を今まで待っていらしたのですか」
「勇者エヌよ、かかってくるがよい」
「まったく、僕の発言を無視する人ばかりですね。ある意味で、僕には発言権はないのですかね」
かくして、決戦は始まった!勇者たる僕の使命…悪い大魔王を倒し、世界に平和をもたらすこと。なんて崇高な使命だろうか。
いささか僕は栄光に酔いしれた。
そう。僕は勇者に選ばれるべくして選ばれ、その勇猛な活躍によって世界に平和が訪れる…なんと素晴らしい物語、なんと偉大なる勇者の伝説なのだろうか。
僕はあまりの感慨に、覚えずして天を仰いでいた。
ふと、前へ向き直ると、二人が大魔王ダブリューを倒していた。
「…よくぞワシを倒した。だが、浜の真砂は尽きるとも、世に悪人の種は尽きまじき。必ずや新たな闇の支配者が現れるだろう…ぐわっはっはっ…ぐふッ」
こうして、大魔王ダブリューは息絶えた。
それは僕、勇者エヌによって、世界に平和がもたらされた瞬間だった。
………
《エピローグ》
………
……
…
あれ?ここはどこだ?!大魔王ダブリューは?世界の平和は?!
よく見ると目の前には畳の上に鎮座するゲーム機本体。画面にはフィールドで立ち尽くし足踏みだけを続けるパーティ。
どうやら僕はゲームの途中でコントローラをにぎりしめたまま力尽きていたようだ。
そうだ。僕は部屋の片づけの途中で押し入れから出てきたなつかしいゲームソフトと出会ってやり始めたのだっけ。時間を忘れて没頭してしまっていたようだ。
とりあえず僕は起き上がった。だらだらしていても片づかない。
夏物衣料を出して虫喰いのチェックをしたりと、僕がいそいそとタンスの整理をしていると、背後に人の気配。
部屋の戸は開いていないにもかかわらず、だ。
「勇者エヌよ、そなたは選ばれし勇者なのです」
振り返ると、黒いローブのフードを目深にかぶった謎の人物が言った。
《完》
TO BE CONTINUED ?
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