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第九十四話 美沙の告白

再び体を動かしてからしばらく経った頃、星華と美沙が厨房から顔を出した。あれからずっと体を動かしてたから汗まみれになり、床にポタポタと汗が落ちる。二人が出てきた時に刀を振るのをやめたとはいえそれでもそのままは滑りやすいし危ないだろう。掃除しなきゃな。


「……秋渡」


「ん?」


星華に声を掛けられ振り返るとどこかからかタオルを取ってきてたらしい。近付いてきてそれを無言で渡してくる。


「サンキュ」


タオルを受け取り、早速顔を拭うと星華はふるふると首を振って「気にするな」とアピールしてくる。そしてタオルであらかた汗を拭いたタイミングで美沙が声をかけてくる。


「秋渡君、ご飯作ったけど食べる?」


「ああ、もらう」


僕が即答で答えると美沙は嬉しそうに微笑む。星華もクスリとほんの少しだけだが笑った。とりあえず手を洗ってから寝室へ行き、そこには色々な料理が並んでいた。肉じゃがでも作ったのか鍋からは香ばしい匂いがして食欲をそそる。ポテトサラダもあり、他にも本当に色々と作ってあるのだが……。


「……多いな」


さすがに呟かずにはいられない。三人で食べたとしても絶対に残るほどの量があり、とてもではないが食べ切れる自信はない。思わず二人を見ると想定していたのか星華が説明をする。


「……日持ちするから数日は大丈夫」


とのこと。それで納得してとりあえず座る。すると美沙がご飯を盛ってくれ、星華が手際よく肉じゃがを皿に盛り付けてくれた。


「……なんか悪いな、任せ切りで」


「ううん、やりたくてやってるから」


「……うん。……嫌?」


「嫌じゃない。がなんか申し訳なく思うな」


僕が頬を掻いて答えると二人からは笑顔と(星華は僅かに笑っただけ)それぞれ盛り付けたものを渡してきた。礼を言って受け取ると二人もそれぞれ盛り付ける。手伝おうとしたら断られたが僕ってそんなに手際が悪そうに見えるのだろうか?


「……秋渡が手際いいのも料理が出来るのも知ってる」


「頼むから心を読むのはやめてくれないか?」


ナチュラルに心を読んできた星華にツッコミを入れつつ手際が悪そうには見られてなくて安心した。だがそれはそれとして心を読まれるのは本気で心臓に悪い。星華の驚嘆する場面が増えた瞬間にもなった。


「秋渡君、料理上手だもんね……。差し入れとはいえ貰ってたのが贅沢な気分だったなぁ」


美沙がしみじみとした顔でそんなことを言うが、僕からしたら弁当作ったらその時の張り切りようが凄かったから美里さんにもたまにでいいからと頼まれたんだよなぁ。あの人が僕に頼んできた時は正直驚いた。なんせ美沙とデートした時は敵対心剥き出しだったから無理はないと思う。ただ単に弁当を自分で作って持っていった時に美沙が物欲しそうな顔をしてたから分けたらこうなったわけだが……。


「(そういやあの時美里さん妙なことを言ってたな)」


弁当を作るのをお願いされた時に言われたこと。


『君が作るから美沙は楽しんで仕事に取り組めるのよ』


僕が作ったところで本職の人には敵わないんだが……。まぁそれはいいとしてだ。美沙達が盛り付けてくれたものを合掌してからいただく。肉じゃがは薄味になってて濃すぎないために食べやすい。


「……美味しい」


「ホント!?」


僕がポツリと零した呟きを美沙が拾う。しかもアイドルらしからぬほどの身の乗り出しようだ。ひょっとしたらあまり自信がなかったのかもしれない。


「ああ。毎日でもいけるかもな」


「……それ、結婚すればできるよ」


僕の冗談混じりの言葉には星華が反応をする。だが星華の満更でもなさそうな声にはさすがに手を止めてしまう。なんせ星華自身から告白されたのもあるし、婚約者がいることを話しても諦めるつもりは毛頭ないみたいだからな。ひょっとしたら幸紀のことをライバルとして見てどこか弱点というか勝ってるところを探してそうだし。美沙は星華の言葉を聞いて「うぅ……」と唸っていた。この様子からしたら料理を教えていたのは星華なのだろう。教えてくれた人にはすぐに適うことはないだろうから無理はない。


「結婚ね。本当はする気もなかったんだけどな」


「……そうなの?」


僕は咀嚼してから話すと星華が不思議そうに首を傾げた。僕は苦笑を浮かべて頷くとポテトサラダも食べ始める。


「……秋渡が一夫多妻を認めてくれるなら私達はそれに加わる」


「私……達?」


星華の言い方に疑問を持ち、眉を潜める。この場のことで考えると星華と美沙だが美沙が僕に好意を持っているのかは知らない。そりゃ国民的アイドルに好意を持たれてるなら悪い気はしないが、まぁありえないことだろう。となると告白してきた女子とかのことを指してるのかもしれないな。と、一人納得する。


「僕が認める云々以前に法的に無理だ」


「……秋渡ならなんとかできる。……五神将だから」


「あー、そういや権利は総理大臣よりも上なんだっけ?」


権力を行使したことはないから忘れていた。でも確かに自由に権力を使えるから他の五神将らは色々と動けるのだろう。まぁ多分力技でなんとかした線も強いけど。暁はそれで隠蔽しながらも何かしらで動いているし青葉も何かの組織を結成している。黒坂は研究所を設立してる上にそれ以外の色々な設備を建設したみたいだから。棗は権力で情報収集をしてるからやっぱり皆活用してるんだな。と、そんなことをしみじみと考えてたら、いつの間にか横で美沙がじっと見てきてることに気が付く。


「どうした?」


「……」


「……?」


声を掛けても黙ったままで僕は眉を寄せる。視線を星華へ向けるが星華は相変わらず無表情で肉じゃがを食べてるし何か口を出そうとはしてこない。いや、こっちに今は関与しようとはしてこない、が正しいかな。改めて美沙へ視線を戻すとさっきよりも距離を近付けてきて顔を赤くしている。……近いんだが。


「どうしたんだ?何か付いてるのか?」


「本当に近くで見ると整ってるよね、秋渡君」


「は?」


「……秋渡だもん」


「どういうことだ、星華?」


美沙の言葉に間の抜けた声を返すと間髪入れずに星華からよくわからない言葉が返される。……なんなんだ?とりあえず手にある茶碗をテーブルに置いてからなぜかグイグイ迫ってる美沙の肩に手を置いて止める。置いた瞬間美沙はビクッ!としたが離れる気配はない。いや、むしろさらに迫って……目を瞑った。……あれ?なんか嫌な予感が……。


「ん……」


「っ!?」


まるで極自然に吸い寄せられたかのように肩に置かれた手を退けてからさらに迫ってきて自身の唇を僕の唇に押し付けてきた。最初はよく分からなくて固まってたがすぐに美沙は離れて顔を俯かせる。星華は淡々とご飯を食べてるがじっとこっちを見ていた。……無表情だけど。じゃなくて。


「ちょ、美沙!お前何を!?」


「……気付いてなさそうだったから教えたの」


「……はい?」


「私の……今の気持ち。アイドルだからって異性に恋をしないなんてことはないんだよ?」


「え、待て、それって……」


「うん、私も……私もずっと秋渡君のことが好きなんだよ?」


美沙からの思いがけない告白に僕は驚きを隠せなかった。美沙は「やっぱり分かってなかった」とむくれながら僕を軽く睨んでるが、キスをしてきたということは本気なのだろう。だが今の言い方だと結構前からだってことになるのだが……。いや、とりあえずどうしろと……。


「私が深桜高校に転校したのも、何度も護衛として秋渡君を頼ったのも、全部秋渡君との時間を長くするためだったんだ」


「そうだったのか!?」


「うん」


そんなことと言ってはなんだがよくそれで許可が下ったな。内心心臓がバクバク言ってるのを理解しながらそんなことを思う。


「……つかぬことを聞くがいつから?」


「デートした時に助けられてから。ううん、ひょっとしたら秋渡君を見た時にはすでに一目惚れしてたのかも」


「マジか……」


それってもう結構経ってるよな?出会ってからを考えればそうでもないかもしれないがそれでも驚きを隠せない。アイドルを一目惚れさせたってこともだが、やはり国民的アイドルに好意を持たれてたっていう事実が最も驚きだ。だがそれでも疑問も出てくる。


「ところでどうしてそれを今?」


「万が一、億が一のためだよ。負けないって信じてるけどそれでも不安だから。もし秋渡君が戻れなかったらずっと伝えられなかったことを後悔しちゃうからその前にって。……でもやっぱり恥ずかしいね」


「えへへ」と笑う美沙はまさに輝いていた。もし僕が逆の立場なら確かに不安だから想いは告げるだろう。邪魔になるかもしれなくても二度と言えなくなるよりはずっといいしな。溜め息をついてから座り直す。


「……気持ちは分かった。どうなるかは分からんし僕がどうしたいのかも分からない。だから悪いが少し待っててくれ」


「うん。でも必ず返事はしてね?」


「……私にもだよ、秋渡」


「分かった」


どれだけ待たせる気だと自分でも思いながらも待っててくれる二人にはやはり感謝しかない。いや、ずっと待ってる冬美や愛奈、恋華も同じだろう。ただ幸紀のことを考えるとどうすればいいのかが分からなくなる。ひょっとしたら関係が崩れるんじゃないかって不安になるし今よりも何かが変わることもありえる。……全員それは理解してるのかもしれないな。告白して断られるとその二人の距離感は広まるのはザラにあることだし、やはり築いてきた関係が崩れるのは怖いだろう。なのにこうして仲のいい女子は皆伝えてくれた。何が一番いい返事なのか、行動なのか分からないが、それでもなるべく最善の方法を見付けるのが一番だろう。


「(……戦いの後の課題が増えたな)」


星華、美沙に悟られないようにしながらもそんなことを思った。僕に好意を抱いてくれた彼女達のためにも、そして何よりも自分自身のためにも。


ア「どうも、アイギアスです!」

星「……星華です」

美「美沙です!」

ア「今回はクールとピュアなお二人ですね!」

星「……うん。……秋渡は美沙のおっぱい触った」

美「ちょ、星華ちゃん!?」

ア「ほうほう。それで、秋渡くんの反応は?」

星「……満更でもなかった。……触ったことはさすがに動揺してたけど」

美「星華ちゃん、やめて……。恥ずかしい……」

星「……美沙も大きいけど他の皆も大きい。……多分私が最下位」

美「なんの勝負してるの!?」

ア「秋渡くんはそんなのにこだわらない気がしますがね」

星「……うん。……だから私にも勝機がある」

美「うぅ、星華ちゃんが暴走してるよぉ……」

星「……泣かないで、美沙」

美「?」

星「……私もそうだけど泣いてるよりも笑ってる方が秋渡は好きだと思う」

美「っ!?……〜っ!!」

ア「ですね、秋渡くんも皆が笑ってる方が嬉しいと思います!では今回はこれで終わりましょう」

星「……うん」

ア「では……」

ア・星・美「また次話で!」


おまけ


美「秋渡君、私のどう思ったのかな……。小さくはないけど……」

星「……不安?」

美「え?……うん」

星「……秋渡は女の子を胸で決めないよ」

美「そうなの?」

星「……皆笑ってる時が一番秋渡の優しい顔になるから」

美「……そっか」

星「……うん。……普段の態度だと分からないと思うけど秋渡は仲間に凄く優しいから」

美「秋渡君の仲間……か。ふふ、なんだか嬉しいな♪」

星「……そうだね」

美「秋渡君への想いを描いた歌、作ってみようかな」

星「……作ったらぜひ聞きたい」

美「うん!皆に聞かせるからね!」


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