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第百十四話 妹と義妹の心境

病院へ着くと患者らしき人達が受付の所にいて恋華達はすぐに話を聞けそうになかった。何よりもいきなり大人数で来すぎて却って他の人達にも迷惑になるだろう。そう判断して愛奈は手を挙げる。


「なので私と恋華さん、舞さんの三人でまずは話を聞いてきます」


愛奈がそう言うと他のメンバーも特に反対はしなかった。愛奈は頷くと丁度手の空いた受付の人に秋渡のことを尋ねる。受付の女性は秋渡の連れと分かって秋渡の手術している部屋の待機室へ案内をすると、その時に手術はまだ終わってないようだが、呼吸はそれなりに安定しているという話をした。それに恋華達はホッと一息をつくが、それでもあの出血量は不安だ。案内をされた待機室に入ると受付の女性は一礼してから立ち去った。恋華達三人はそこにあるソファーに座ると秋渡の容態を心配して無言になる。その間にも手術中のランプは消えない。

それがどれだけの時間が経っただろうか。しばらくしたらランプが消えた。それに愛奈が気付き、二人に小さく声を掛けると中から担当医師が出てくる。マスクを外しながら愛奈達に近寄ると医師は微笑む。


「手術は成功しました」


「っ!!」


それを聞いた瞬間、恋華は安堵して崩れるようにフラフラする。舞は慌てて支えると愛奈もホッとする。しかし医師はまだ大切な話があるのか表情を改めて真顔になる。愛奈が気付き、真面目な顔になると恋華達もそれに倣う。


「手術は成功しましたが彼がいつ目を覚ますのかまでは分かりません。ですから入院はしますが部屋は言われた通り広めの個室にします。ただ我々の見解ですがあの様子だと早く目覚めても二ヶ月はかかるかと思われます」


「二ヶ月……ですか」


想像以上に長い期間と思って愛奈ですら暗くなる。しかし医師は少し釈然しない顔をしながらも薄く笑う。


「はい。普通ならば二ヶ月……いえ、下手をすれば一年という可能性もある程のものです。ですが……」


手術室へと視線を向けた医師に釣られるように三人もそちらへ視線を向ける。そして視線を戻すと苦笑する。


「流石に五神将の方となるとどうなるかは我々も断言は出来ないんです。怪我の治りも早いし手術してる時も小さな傷があると言われた所は手を付ける必要がないほどに快復していってたんですよ」


「五神将特有の特性……でしたよね」


医師の言葉に恋華が返す。もっとも、それを調べようにも五神将の五人のうち誰かと誰かが余程の大怪我でもしないとわからない事だ。しかもそこまでの怪我を負うには五神将同士がぶつかるしかない。だが気を失うまでに大怪我をする五神将は今回が初めてなので医師達もどうなるかは分からないのだ。五神将の特性は多々あるが、どれが本当でどれが偽りなのかは誰も知らない。


「そう言われています。……とりあえずその話はいいでしょう。彼の部屋を教えるので顔を見てあげてください。正直見た時は拍子抜けするかと思いますよ」


医師は空笑いをすると一礼してから立ち去った。愛奈達もお礼を言って仲間の元へ行く。そこでずっと心配そうにしていたメンバーが愛奈達に気付いて聞いてくる。


「手術は成功だって。ただいつ目を覚ますかは分からないみたい」


「……そう。いえ、それでも安心はしたわ」


恋華から報告を聞いた瞬間、冬美が胸を撫で下ろす。星華も薄く笑って安堵の息を漏らし、美沙は「良かった〜」と心から安心したように笑う。幸紀も胸に手を当ててホッとしていてそれを見て恋華達もようやく安心した。それから秋渡の部屋を伝えると、全員で行くのは迷惑だろうと言うことで真守や智樹、綺羅や優衣は先に帰った。そして残りのメンバーで秋渡の部屋へ行く。ノックして入ると看護師が待っており、秋渡に変化があったら知らせるように伝えてから去っていく。そして恋華、愛奈、舞は先程医師から言われた「見たら拍子抜けする」という言葉を理解した。


「すぅ……すぅ……」


穏やかな呼吸で眠る秋渡は本当にいつも通りで呼吸も乱れたりはしていない。それに一同が安心したら広い部屋な為か八人いてもまだ平気なほど広かった。五神将だから他の患者さんと同じ部屋だと他の人達が萎縮してしまうだろうという判断からも来ていた。


「良かった、秋渡君のこの姿を見てやっと安心したよ」


美沙は微笑むと皆も頷く。やはり五神将だからと言えどもあれだけの大怪我だったのだ。むしろ生きていることが驚きなくらいだ。ちなみに血が大分失われているらしいが、虎雄曰く五神将に他の人の血を輸血するのは危険とのこと。下手をすれば力がなくなる可能性があるらしい。彼は過去の五神将を調べて一人が今回のように血を流し、他人から輸血をしたら途端にその人の力は衰弱したと言う。なので虎雄が輸血はするなと言うことだったので医師達もそれに従っていた。だから傷跡は残りつつも出来るだけ血を流さないように手術するだけに留まってしまったのだった。それでも穏やかな寝息を立てている秋渡を見て誰もが安堵していた。


「……秋渡は私達のために戦ってくれた」


突然の星華からの呟きに皆が彼女に視線を向ける。星華は秋渡をジッと眺めながら続けた。


「……もし秋渡が負けてたら私達はもうここにはいない。……だから私はこの恩を一生賭けて返す」


「そうね。それは勿論よ。私達のために戦ってくれたようなものなんだしそれを無下にする気はないわ。今回だけじゃなく他にも助けて貰ったことは多いんだから。それに、あの戦いが終わってこうしてるんだからきっと秋渡君は目覚めたらケロッとしてるわよ」


星華の呟きに冬美が苦笑混じりに答える。秋渡がここで目覚めたらきっと普段通りの秋渡だろうということは想像出来るので皆して笑ってしまう。それから八人が談笑したりしてると時間が遅くなって来て外が暗くなる。舞と明菜は一度家に戻り入院時の毛布やら道具やらを持って来た。それと同時に他のメンバーは帰宅し、部屋には舞と明菜だけになる。


「……お兄様と暁さんはこの戦いの結果をどう見るのでしょうか」


「難しいわね。正直言って引き分けにも見えたし僅かな差で秋渡の勝利にも見えたわ」


ソファーに座って静かに呼吸して眠る秋渡を眺めて舞は不安そうに呟き、明菜も悩みながら答える。少なくとも秋渡の敗北はないようには見えた。秋渡が春樹の後に倒れた時に全く動かず倒れれば分からないが、秋渡は少しだけ動いてから倒れた。つまり意識を先に手放したのは恐らく春樹だろう。けれど秋渡もその直後に倒れたためどっちとも言えないので龍大も二人の判断に託したのだろう。


「お兄様……」


舞はスカートの裾をギュッと握りながら秋渡を見つめる。彼に返事はないが、今はとにかく生きていたことを喜ぶべきだろう。虎雄曰く春樹も意識不明の状態だが生きてはいるとのこと。それは女性にとっては悲報だろうが、男女の境界の中心には春樹は必須になる一人だろう。そして今、その男を制御出来る者がいるとすればそれはこの戦いで互角の戦いをした秋渡だけだろう。今まではいなかったのだからそれに比べればまだ希望がある。だとしても今のこの状況は違うものだ。


「舞」


明菜が舞に声を掛ける。舞は明菜へ振り返ると明菜は優しい笑みを浮かべて舞の肩に手を置く。


「大丈夫よ。あなたの兄は大切な人との今後を守るために戦ったのよ。少なくとも秋渡の敗北だけは絶対にないわ。だからってわけじゃないけど秋渡が目を覚ます前に明るく兄が大好きな妹に戻りなさい」


「明菜……さん」


舞は驚愕して明菜を見る。初めはあんなに敵対心を持っていた明菜がここまで言うとは誰も思わないだろう。それも舞を励ますための言葉を。まだ付き合いは長くない自分だが、舞はこの時だけは秋渡への信頼感が負けたと思った。だから舞も明菜が敢えて挑発的に、それでも舞を励ますために言った言葉だと理解した。


「……そうですね。私はお兄様の妹。ただ一人の妹です。お兄様がお目覚めの際に元気な姿を見せないことはお兄様に心配を掛けてしまいますね」


舞がグッと両手で拳を握るといつものような笑みを浮かべる舞に戻り始めて明菜も笑う。そして再び眠る秋渡へと視線を向けた。


「家族想いのこの人には特にね。なんやかんや家に住まわせてから私も家族に見られてることは気付いてるわよ」


呆れたように、それでも嬉しそうに微笑む明菜は本当に笑顔が増えたと言えるだろう。あの時舞に一緒に住むかと問われて勝手に承諾し、その家主に断られたらどうしようかと思ったがその心配も秋渡が消した。それから秋渡は明菜のことを舞と並べて更に年下の妹のように見ていたことを明菜も気付いていた。普通ならば馬鹿なことを、とか卑猥なことを考えてもおかしくはないだろうが、秋渡にはそんな感情は一切なかった。父親、母親とはずっと別居をしているのだから秋渡も家族に飢えていた可能性もあるが、それはきっとない。彼は家族は守るものと恋華との付き合いからずっと想っていたことなのだから。舞という実妹がいることが発覚し、義妹のような明菜がいれば家族だからと守るのは当然と秋渡は思ったのだろう。


「(全く、妹二人を心配させてるんだから必ず目を覚ましなさいよね)」


何よりも明菜自身義妹と扱われることが嫌とは思っていない。寧ろ家族愛に飢えていた明菜には秋渡からの、そして舞からの優しさはとても暖かかった。だからこそ恩返しをするためにも秋渡にはくたばられると困るのだった。けれど秋渡が生き延びれれば間違いなく目は覚ますことを明菜はどこか確信をしていたのだった。そしてその日は思ったよりも早く訪れることをこの時は誰も予測していなかった。


ア「どうも、アイギアスです!」

舞「舞です」

明「明菜です」

ア「今回のお話は手術の成功の話ですね」

明「雨音先輩の用意した病院だから腕のいい医者が多いのは間違いないわ」

舞「……成功したのはいいのですがやはりまだ心配です。お兄様……」

ア「彼なら大丈夫でしょう。結果的に敗北した、ということはないですから」

明「ま、その通りね。引き分けの可能性は否定しきれないけれど秋渡の方が後に倒れているから大丈夫よ」

舞「そちらのことも心配ですがやはり目覚めて元気なお兄様を見て安心出来るんです。……亡くならなかっただけでも安心はしているのですが」

ア「失血死の可能性もありましたし輸血も出来ませんからね」

舞「はい……」

明「今は目を覚ますことを祈りましょう。ところで総理大臣は重婚を認めてくれるのかしら?」

ア「流石にそれは大丈夫なのでは?」

舞「設定では五神将の立場は総理大臣よりも上ですからね」

ア「設定とか言っちゃダメですよ!」

明「……まぁそれはそれなんだけどその最高権力を所持していたのが暁春樹だったからね。その男を倒したんだから秋渡にもそれと同格レベルの権力は手に入るはずよ」

ア「仮に重婚出来たら全員を養うのは大変そうですね」

明「……雨音先輩のお父さんは娘さんに甘いのかしら」

舞「お兄様とのお相手に自分の娘を薦めるお方ですからきっと甘いかと……。愛奈さんはお兄様に一目惚れしたそうですしそれに愛奈さんのお父様も認めたそうですから」

ア「まぁ、それは後々分かるでしょう。では今回はここまでにしましょうか。それでは……」

ア・舞・明「また次話で!」


おまけ


舞「……でも穏やかな表情のお兄様を見られたことは嬉しいです!」

明「ふふ、そうね。まぁ朝には弱いから普段からも見れないことはないんだけど」

舞「寝惚けてるお姿も可愛らしいんですよね」

明「今まで一人暮らししてても平気だったのが不思議なんだけど不思議とどこにぶつかったりはしないのよね」

舞「はい。それは私も不思議に思いましたがお兄様なので何とでもなりそうな気もします」

明「……まぁね。結構遅刻はしたりしてたみたいだけど今後は先生達も咎めるのはあまり出来ないんじゃないかしら」

舞「五神将ということが発覚した上に最凶に打ち勝った人ですからね」

明「ま、そこは頑張れとしか言えないわね。秋渡に適うかは腕の見せ所になるわ」

舞「ふふ、きっと厳しいでしょうね。今までもあまり効果はなかったみたいですから」

明「……それも全ては秋渡が目覚めてからね」

舞「……はい」


挿絵(By みてみん)

ア「前話も今回も後付けになりましたが秋渡君のイメージ絵です!」

舞「お兄様……♪これ、作者さんが?」

ア「いえ、友人の方に描いて頂きました。本当にありがとうございます!」

明「へぇ。凄いわね。友人さん、ありがとうございます。絵の描けない作者にはすごく助かります」

ア「ぐはっ!?」

舞「あ、作者さん血を吐いてます」

明「放っておいていいわよ」


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