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第百九話 思いの強さ

恋華達side


ーー

画面の中で深手としか思えない瞬間を見た恋華達は思わず席を立っていた。秋渡の肩から血が噴射してそれはお世辞にも大丈夫とは思えない。だがその怪我を代償に秋渡は春樹に一太刀与えた。結果、互いに決して浅くない怪我を負ったことになった。それを見て驚きや不安を抱いたのは恋華達だけでない。いや、不安はないかもしれないが驚きは確かにあった。


「暁が……あんな怪我……」


「やり方だけで見ると痛み分けに見えるがこれは世刻のが上回ったな」


「予測して攻撃を受けたからな。暁はちげぇ。いや、それよりも驚きなのは……」


達也、虎雄、龍大の呟きに恋華達も画面を凝視している。だが今龍大から発せられるだろうことは皆も同じように思ったことなのだ。


「怪我してる所、初めて見たぜ。しかもあんな深手なんて……」


龍大はニヤリと笑いながら言うが、冷や汗を流していた。自分らですら出来なかったことをやった男がいるのだ。最初のダメージは秋渡になったが傷の大きさなどから考えれば春樹の方が圧倒的にダメージはある。しかも動揺した所を……それも僅かな隙を狙ってやったのだから驚かない方がおかしい。


「信じられない……あの暁春樹に一太刀入れるなんて……」


同じように見ていた明菜も思わずそう呟く。たとえ秋渡の勝利を疑ってなくとも過去に春樹相手に怪我させた相手はいない。それも正面から戦ってとなれば余計に。櫻井ファミリーでも危険視されていた春樹相手に怪我なんてさせることは不可能と言われていたのにその常識を打ち破ったのだ。恐らくこの戦いを見て春樹のことを知ってる者は皆同じ気持ちだろう。


「秋渡さん!あの怪我は流石に……」


しかし幸紀は別のことを気にしていた。確かに春樹に一撃与えたことは驚きだが、ダメージは秋渡にもあった。しかも互いに浅くない怪我なため、下手をすれば命に関わるだろう出血量だ。だから幸紀は春樹に一太刀入れたことよりもそちらを心配していた。現に画面越しでも分かるほど秋渡も春樹も痛みに耐えていることから動きも鈍る。一歩踏み出そうしたら秋渡の動きは止まり、春樹も止まった。


「…………」


それを見て虎雄は何か思索するように考え始め、近くの機械人間に何かを呟く。それを受諾して機械人間はこの場から立ち去ったのを恋華は見ていた。そして問うような視線を向けると虎雄はそれに気付き、今したことを答える。


「戦いが終わったら病院へ運べるようにしておく。流石にあの怪我は見てて分かるくらい酷いからな。すぐ動けた方がいいだろ」


「……それって秋渡が負けるって意味?」


虎雄の言いように恋華は苛立ちをぶつけるが、虎雄は動じずに首を横に振る。


「ちげーよ。両方共に決まってる。これは死ぬまでやる戦いじゃない。だったら即座に動ける方が賢明なだけだ」


そう言われて恋華は黙った。確かに今の怪我だけでも危ないだろうが秋渡も春樹もそのまま戦闘を放棄することはしてない。理由があるから当然なのかもしれないがそれでも簡単には折れない二人だ。今も怪我の痛みなどまるでなかったかのようにして再び衝突している。あの二人だから出来るのかもしれないが普通ならば激しく動くなんて出来ないだろう。


「(秋渡君……。あまり無茶しないで……)」


虎雄の話を聞きながら美沙は祈るように胸の前で手を組む。虎雄が病院を手配したのならば余程重傷でなければまだ間に合うだろう。今画面の向こうで秋渡が刀を振るってそれを避けた春樹の代わりに後ろにあった建物に一閃の傷が入る。しかし秋渡はそれに見向きもせずに即座に距離を置いた春樹を追うように距離を詰めて斬り掛かると今度は春樹がそれを弾き壁際まで追い詰めようとして連撃を叩き込む。そして刀で受け止め続けていた秋渡が屈んで避けるとそれなりに距離があったはずの背後の店に先程秋渡が与えた傷よりも深い傷が入る。


「(建物にあんな簡単に傷が入るなんてよっぽど斬れるものなんだ……)」


それを見てるこの場の者達が思ってることを美沙も思っている。つまりこれは当たれば簡単に斬られることを物語っていた。万が一秋渡が当たると考えると背筋が凍るようにゾッとした。春樹の長刀も秋渡の二刀も斬れ味が凄まじく、少し触れただけでも斬れるほど鋭い。当然斬られれば怪我は大きいだろう。掠っただけならば問題ないだろうが、先程の攻撃による怪我はそうでない。


「……ん?」


ふと画面を見ていた龍大が訝しげに声を上げる。


「どうした?」


達也が声を掛けると龍大は顎に指を当てて考える仕草をするが、すぐに汗を流す。その様子に達也、虎雄だけでなく冬美、明菜も注意深く画面を見ると、龍大が何を考えたのか何となく分かった。


「……建物が傾いてる?」


先程秋渡と春樹が斬りつけた建物がまるで滑るように少しずつズレていることに気付く。ただ今はほんの少しだけなためそれに気付いた者は少ないだろう。しかし今この場においては明菜が呟いたのもあって皆もハッとした表情になる。春樹が斬った店はそのうちズルズルと崩れていくだろう。秋渡の斬った建物はそのうち内側から崩れていくだろう。二人は既にその建物から離れた所で斬り合っているため巻き込まれる心配はない。いや、二人共気付いてて離れていたのかもしれなかった。


「辺りに配慮出来るわけじゃねーから余計に被害は大きくなるかもな」


龍大がそう言うと秋渡と春樹が避けた代わりにその背後の建物や木などが斬られて崩れる。先程の建物や店も知らぬ間に崩れていた。当然二人がやってるのは互いの命を賭けている戦いなので配慮など出来るはずがなかった。更には二人は互いの譲れないものの為に戦っていることもあり、他のことなど見る余裕はないだろう。


「秋渡さん、貴方様なら例え五神将最凶相手でも勝てます。どうか勝利をその手に……」


愛奈が普段からの素行からはありえないほどの真剣味のある強い目を見て恋華達は衝撃を受けた。それは普段のふざけている様な態度から来たものではなく、誰もが不安でまだ数十分しか経っていないのに秋渡の身の危険からもしかしたらという感情が生まれていた。しかし愛奈だけは違った。力強い目で画面越しに秋渡の勝利を疑っていない。それを見てまず冬美が笑った。


「……そうね。無傷とはならなくとも必ず彼ならば勝利を収めてくれるに違いないわ」


続いて星華が。


「……秋渡が負ける。……なんでそんなありえないこと考えてたんだろう」


美沙が。


「普段からずっと私達を守ってる人だもん。負けないよね」


舞が。


「申し訳ありません、お兄様。ほんの少しでもお兄様を信じられなくて。でももう大丈夫です。お兄様の勝利を待っています」


五人がそう言ってスクリーンを見つめる。それを見て秋渡からもっとも愛されているだろう二人も互いに顔を見合わせて笑った。


「そうだった。誰かを守るための戦いで秋渡が負けるなんてないことだわ」


「はい。秋渡さんがいつもやっていたことと今回も変わらないんです。でしたら秋渡さんなら必ずやり遂げてくれますよね」


最後に恋華と幸紀が画面越しに春樹の攻撃を躱し、反撃している秋渡に期待を込めた目で見つめた。もう彼女達に不安の色はない。たとえこの後に秋渡が再び春樹の攻撃を受けたとしても戸惑うことはないかもしれない。それだけ彼女達が愛する人を信じ、そして今、それをその愛する人が裏切らないと断言出来るからこそである。


「……こりゃあいつはすっげーいい女達を捕まえたもんだな」


「あいつの性格とかから無意識の可能性もあるがな」


達也と虎雄が少し笑いながら彼女達を見る。秋渡と戦い、自分の意見を曲げた達也にはなぜ彼女達が五神将であるにも関わらず秋渡を信じられるかがなんとなく分かってきていた。もっとも、まだ自信を持ってはないと自覚もしている。逆に虎雄は今でもあまり女にいい気分はしていない。しかし同じ五神将で敵対した秋渡にここまで言わせる者達を目の前で見て自分の認識を改める必要があるかもしれないと思い始めていた。


「…………」


そんな中無言で画面を見る龍大は、まるで恋華達など興味がないかのようにしていた。いや、正しくは秋渡と春樹の戦いを一切見逃そうとしてないようにも見える。達也と虎雄はそんな龍大を珍しいと感じていた。普段ならば他者の戦いなど微塵も興味がないことを知っていた。春樹の戦いならば春樹の勝利で終わるため、見る価値はないと踏んでいたしそれ以外では自分よりも格下しかいなかったため眼中になかった。達也と虎雄の戦いには多少興味があったが、それも少しだけだ。達也も虎雄も龍大に自分の戦いを知られることは何も感じないが、標的にはされたくないと思っている。それほどにまで普段からの態度では考えられない龍大が真剣に、そして一秒たりとも見逃すまいと戦いを見ているということはそれだけの価値がある戦いということだ。達也は龍大から視線を外し、自分も見ることに集中する。小さく動いてる秋渡と春樹の二人だが、その実一つ一つが重たいものであることを知る者は少ないだろう。


「(気を抜けない戦いな上にお互いに未知の相手……か)」


それは少なからずとも何度も言うようにこの戦いで未来が変わることも示されていた。今まで水面下で己の正体を隠し続けていた一人の最強と、自分の絶対的な力を隠さずに……それでも世間は危険すぎるとしてその存在を隠していた一人の最強。それらがぶつかっているのだから当然なのだろう。そしてその結果がどうなるのかは神のみぞ知る。だが今、彼らにも大きな差がある。実力は間違いなく互いに全力でやって互角だろう。しかし『思い』の強さに関して言えば間違いなく秋渡に采配が上がる。そして、それはこの場においては強さにも変わり得るだろうことを達也は予感していた。



ア「どうも、アイギアスです!」

秋「秋渡だ」

愛「愛奈です!」

美「美沙です」

ア「今回は普通ならば出会うことすらほぼないレベルで有名な二人ですね!」

秋「それもそうだがそれよりも個人的には投稿が早かったことに驚愕なんだが……」

ア「まぁそれは……すらすら進んだとしか……」

愛「ふふ、ならこのまま頑張ってくださいね」

ア「あれ?謎のプレッシャーが……」

美「あはは。話を戻すけど確かに私もあのイベントがなきゃ秋渡君と会うことはなかったかなぁ」

愛「私も絡まれてるところを助けて貰わなければ会うことはなかったですね。やはりこれは運命に!?」

美「ふふ。それなら出会わせてくれた神様に感謝しないとね」

秋「……ん?そういや知り合った連中は何かしらの危険に巻き込まれてるよな」

ア「君が巻き込まれたの間違いではないですか……?」

秋「恋華は昔からだからいいとして……。星華は苛めだろ?冬美は棗の強襲だろ?愛奈は黒坂と高須とか言うやつによる誘拐未遂だろ?美沙は青葉の部下による襲撃だろ?舞は故郷の壊滅だろ?幸紀は青葉からの強襲だろ?明菜は櫻井ファミリーによる学校襲撃だろ?……あれ?まともな出会いしてる奴いなくね?」

美「……確かに聞くと凄いことになってるね。その節はお世話になりました」

愛「あの時の秋渡さん、とっても格好よかったです……。黒坂さんの作った機械人間を全て倒して助けに来てくれたあの姿は忘れられません……」

美「私も秋渡君の家で敵を迎撃してくれて追い返した後に優しく撫でてくれたりコートを羽織らせてくれた時は嬉しかったなぁ……。思えばあの時から好きになってたんだって思うよ」

秋「どれも結果的に助かったから言えることだな。思えば我ながらよくやれたもんだ」

ア「それだけのモノを持っていた、ということですね」

愛「最初に絡まれていた所から助けて貰っただけでも嬉しかったのを更に上乗せしてくれましたよね。あの時は本当に……不安でいっぱいだったの払拭して貰えたことは感謝しきれません」

秋「……そうか。ま、上手くやれたんだから良しとするか。さて、そろそろ終えよう」

ア「ですね。それでは……」

ア・秋・愛・美「また次話で!」


〜オマケ〜


美「やっぱりあのお姫様抱っこしてもらいながら守られたことは私には一番嬉しいかな……」

愛「美沙さん羨ましいです……。でも私も黒坂さんを撃退させた後にたくさん抱き着かせて貰えましたから……。秋渡さんの温もりは不思議と心が落ち着きます」

美「分かるなぁ。どれだけ私達を好きにさせれば気が済むんだろう」

愛「それは秋渡さんにとっては無意識なんでしょう。だからもっともっと好きになってしまいますよ、きっと。この戦いで」

美「罪作りだよね、秋渡君。でもそんな所も好きだなぁ。乙女がして欲しいことをしちゃうんだもん。王子様だね」

愛「ですです!ああ、秋渡さんとの結婚、待ち遠しいです……」

秋「二人ともお願いだからそれ、本人のいない所でしてくれよ……」


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