純粋な悪意 その⑥
いよいよ次回が最終回です!!!
「遺伝子を体内に注入したくらいで、エルフの力をコントロールできるとでも思ったのかしら」
ナクファの声が広間に響く。
「魔法の反動? いや、超回復のデメリット? それとも遺伝子そのものに対する拒絶反応か?」
ドブラがふらふらと立ち上がる。
その様子は明らかに先程とは違っていた。
弱っている。間違いない。
「今よクルシュ君。とどめを」
「あ、ああ!」
ドブラめがけてもう一度拳を振るう。
が、今度は逆にドブラの蹴りが俺の顎を捉えていた。
歯が砕けたような痛みが走り、口の中が血だらけになる。
「実験が、足りなかった……! ここまでだね、クルシュ。また会おうよ」
「待て、ドブラ!」
「この勝負は君の勝ちだ、おめでとうクルシュ。素直に称賛するよ。じゃあね」
ドブラが片手を壁に向け小さな火球を放ち、穴をあける。
まずい、逃げられる。
そう思った瞬間、眩い電撃の閃光が広間全体を包んだ。
「……!?」
何度かまばたきをしてようやく視界が元に戻ったとき、目の前にあったのは半身が焼け焦げ、床に倒れこむドブラの姿だった。
「なんで……再生しないんだ……!?」
掠れた声でドブラが言う。
「い、いやだ、こんなところでぼくが死ぬなんて……ぼくはまだ」
その声をかき消すように、もう一度雷撃がドブラを襲った。
ドブラの身体は灰になり、そしてその灰は元に戻ることなく、壁の穴から吹き込んだ風によって周囲に散っていった。
完全な静寂の中、狂ったような高笑いが広間に響き渡った。
「あははははっ! やった、クルシュが殺せなかった人間を、僕が殺したんだ!」
ゴートだった。
全身を引きずるようにして、壁を伝いながらこちらへ近づいてくる。
「どうだ、クルシュ。真に王国を救ったのは僕だ。お前にできなかったことを僕はやったんだ。僕はお前より優れているんだ」
ゴートが声を発するたび、その胸の魔石がひび割れ、徐々に砕け散っていく。
「やはり特級錬金術師の地位は、僕にこそ相応しかった……!」
ゴートの胸に残っていた最後の魔石が割れた。
それと同時に、ゴートは動力の切れた機械のように崩れ落ち、そして倒れたまま動こうとしなかった。
「………………」
俺も床に座り込んだ。
とにかく疲れていた。
遠くで兵士たちの勝鬨を上げる声が聞こえた。
反乱は鎮圧されたらしい、ということだけは理解できた。
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