純粋な悪意 その⑤
ドブラが人差し指を上に掲げた。
ドブラの頭上に、先ほどと比べ物にならない規模の巨大な火球が形成されていく。
「……!」
「ぼくに魔法を使う経験をさせてくれたという点に関しては、エルフに感謝しても良いね」
巨大な火球が放たれる。
それはゆっくりと、俺や横たわるキナめがけて落下して来た。
水の魔法でどうにかなるのか―――これは!?
両手を火球へ向け、魔石の組成に水属性を再度付与―――!
「クルシュ君、伏せて」
「え」
背後からの声で反射的に身をかがめると、どこからか現れた滝のような水流が一瞬にして火球を消し去
った。
「な――に!?」
ドブラが眉根を寄せる。
背後を振り返ると、壁にもたれるようにして上半身をあげたナクファが、右手をこちらに向けていた。
「あのクズに一撃喰らわせてあげて、クルシュ君。魔法は私が対処するから」
「ナクファ……!」
ナクファの右手には、杭で開けられた穴が残っていた。
「行って」
「……ああ!」
俺はドブラに向かって駆けた。
距離が縮まる一瞬の間に、ドブラは雷撃や火球を放った。しかしそれらはすべて、ナクファによって打ち消されていた。
右腕を振り上げる。
ドブラの表情が歪む。
「ドブラあああっ!」
俺の拳は、真正面からドブラの顔面に直撃した。
が、ドブラは踏みとどまり、すぐに左拳で反撃して来た。
だけど―――それより俺の蹴りが相手を捉える方が速かった。
衝撃を受け流すように、ドブラが後ろへ跳ぶ。
「っ……! 反応速度が上がっているようだね」
「『協力』の力だよ」
「『協力』だって?」
「王都中の魔石の組成を書き換え、そのエネルギーを共有できるよう設定し直しているんだ。今、俺の魔石には王都中からエネルギーが送られてきている」
どうやらコルナたちも上手くやってくれているらしい。
それが今の俺にはありがたかった。
「へえ。どんな時でも魔石の機能向上を忘れない。さすが天才錬金術師だね!」
「口の減らない奴だな!」
感情に任せてドブラに拳を振りおろす。
その勢いのまま、ドブラは床に倒れこむ。
「反応速で負けても、魔法なら……!」
倒れたままの姿勢でドブラは右手を俺に向けた。
魔法が発動する――いや、しない。代わりにドブラは大量の血を吐いた。
「なん、だ、これ……!?」
驚いたように目を丸くするドブラ。




