純粋な悪意 その④
「最後に立っていられた方が勝者――ということは、この勝負はぼくの勝ちってことでいいのかな?」
ドブラの声がする。
しかしもう、俺に立ち上がる気力は残っていなかった。
目も見えない。視界が真っ暗だ。
やっぱり、悪い奴を倒して国を救うなんて柄じゃなかったか。
俺は錬金術師。錬金術の研究をするのが本分だ。こんな風に殴り合ったり痛い思いをしたりするのは向いてない。
「クルシュさん! クルシュさん!」
身体が浮き上がる。
誰かに抱きかかえられている。
キナの声が耳元で聞こえる。
「クルシュさん、今まで助けてもらった分、私―――お返ししますね」
キナに抱きかかえられているのだと気が付いた瞬間、全身の傷から痛みが引いていくのを感じた。
なんだ、これ。
死ぬ直前には痛みとかを感じなくなるって話だけど―――いや、違う。
徐々に視界が鮮明になっていく。
俺を見下ろしているキナの顔が見える。
俺と目が合った瞬間、キナは微笑んだ。その目には涙がいっぱいに溜まっていた。
「き……な……」
「良かった、目が覚めたんですね」
「何が……?」
「私も魔法、使えたみたいです。良かった、クルシュさんの役に立てて」
キナの身体は淡く発光していた。
俺の全身にあった傷は、その光に触れた瞬間、急速に治っていった。
「キナ……」
「立って、戦ってください、クルシュさん」
俺の体に力が戻ってくるのと反比例するように、キナの顔色が徐々に青白くなっていく。
そのときになって俺はようやく――キナの腹部に、氷弾が深々と突き刺さっていることに気が付いた。
「キナ! お前、自分の傷は!?」
「こんなの、唾つけときゃ治りますって……」
そう言ってキナは力尽きたように倒れた。
その向こうには、白けたような表情でこちらを見下すドブラの姿があった。
「だから放っておけば良かったんだって。そいつら、どうせ死なないんだから」
「それでも痛みはある。俺達と同じように」
「……ああ、そうみたいだね。そっちのエルフで実験してみたけど、さすがに関節を砕いたりしたら痛かったみたい」
ドブラはナクファを指しながら言った。
「……そんなことをして何が楽しいんだ?」
「知らなかったことを知ることが出来る。それ以上の楽しみはないよ。君も一緒だろう。錬金術を探求し続けて、ついに禁忌に触れた」
「お前と一緒にするな!」
「一緒だと思うけどね、ぼくと君は」




