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破滅の錬金術師



 『上流階級ギルド』の手際は見事だった。


 内通者たちの手引きで簡単に場内へ進入したドブラたち一行は、魔導院と王の間を瞬く間に制圧した。


 長年の平和や貴族・王族による収賄政治によって腐敗していた王宮内に、『上流階級ギルド』の息がかかった者を紛れ込ませることは容易だったのだろう。また、兵士たちが実戦に慣れていなかったということも、クーデターをより簡単にさせた。


 だが、兵たちがまともに抵抗できなかった最大の原因は、銃などの武器に内蔵されている小型の魔石が十分に機能しなかったという点にある。


 もちろんそれは、銃火器に使われていた魔石が最新型の――劣化版の魔石であったことが理由だ。


 王宮内の様子がおかしいことに気が付いたゴートは、誰よりも早く錬金術師の執務室へ籠り、自分の不運さを嘆いた。


 なぜ自分だけがこんな目に遭わなければならないのか――。


 どうして特級錬金術師になった矢先にクーデターなど起こされなければならないのか。


 本来ならば、忽然と姿を消したクルシュの捜索に当たらなければならないはずなのだ。処刑の段取りは既に決めてある。それが狂うとなれば、ゴート自身にも何らかの責任が生じる。


 政治とは責任の押し付け合い――リスクを他人に押し付け、手柄だけを自分のものにする。それを上手くやれるものだけが生き残れるのだ。


 再びゴートは自らの仕事机で頭を抱えた。その目は落ちくぼみ、頬はこけ、一見すれば死人のようにも見えた。


「………殺してやる」


 長い沈黙の後、ゴートは呟きを漏らした。


「殺してやる殺してやる殺してやる」


 クルシュを、殺す。


 ゴートは既に、自分に降りかかるすべての災難の原因はクルシュであると結論づけていた。


 彼はクルシュさえ殺してしまえばすべて自分の思い通りになるはずだという妄想に縋るしかなかった。


 執務室のドアが外から蹴り破られる。


「動くな、貴様。王族含め王宮内のすべての人間は我々の指示で動いてもらう」


 銃を構えた黒服が数名、室内へなだれ込んできた。


 ゴートは彼らを一瞥すると、厚手のコートを羽織り、立ち上がった。


「おい貴様、動くな!」


 黒服の一人がゴートに銃を向ける。


「……僕が誰かを分かっての言葉だろうな、それは」

「何?」


 黒服が銃の引き金に手を掛けた。


「僕は特級錬金術師だ! 貴様ら、身の程をわきまえろ!」


 ゴートが隠し持っていた魔石が一斉に発光した。


 同時に、ゴートの周囲から放たれた雷が黒服たちを一瞬で消し炭に変えた。


「クルシュ、こうなったのも全部お前のせいだ。殺してやるからな」


 虚空を睨みつけながら、ゴートはふらつく足取りで執務室を後にした。





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