新たな魔石 その①
街の中心に近い位置にあるコルナの研究室には、朝の光が差し込んでいた。
広い机には大小いくつかの魔石が並んでいて、その傍らには俺が計算式を書いた紙が散乱していた。
「もう、朝か……」
そう呟いて、徹夜をしたのが久しぶりだということに気が付く。
特級錬金術師だった頃は徹夜が当たり前だったのに、妙な感覚だ。
「んん……実験成功したの、クルシュ……?」
ソファで寝ていたコルナが、毛布を押しのけながら体を起こす。
コルナはいつの間にか厚手のパジャマに着替えていた。大きなあくびをしながら、眠たそうに右目を擦っている。脱走した死刑囚を匿っているというのに呑気なやつだ。まあ、匿ってくれるよう頼んだのは俺の方だから文句は言えないし言うつもりもない。
「ある程度は成功だ。見るか?」
「うん」
立ち上がったコルナは大きく伸びをして、作業机へ近づいて来た。髪が四方八方に跳ねている。どんな寝方していたんだろう、こいつ。
「……劣化版の魔石における最大の問題は性能と耐久性の低さだ。要するに粗悪乱造品ってことだな」
「何とかなるものなの、それって」
「もちろん無理だ。この魔石単体だとな」
「単体? どういうこと?」
首を傾げるコルナ。赤に近い茶色の瞳に、好奇心の色が宿る。
「具体的に言えば、魔石同士でエネルギーと情報の交換を行い、相互に処理を行うことでそれぞれの機能を補完し合うことで、魔石に掛かる負荷を軽減しつつ処理速度も向上させるってこと」
「……え、やっぱり意味が分からないんだけど。私にも分かるように言ってよ」
「一つの魔石では処理しきれないことでも、複数の魔石ならなんとかなる。つまり魔石同士に『協力』させるんだ。一つ一つの魔石の性能は低くても、それらが合わされば大きな力になる―――だろ?」
「それは確かにそうかも……だけど、そんなこと出来るの?」
「魔石の組成を一部書き換えて、情報とエネルギーを交換できる機能を付与してやればな。そのための式がこれだ」
散乱する紙の山から、俺は一枚の薄い紙を取り上げ、コルナに渡した。
「これは……確かに。初級の錬金術師にも扱える組成式になってるわね」
「前置きはこのくらいにして、実際にやって見せよう。ここにひとつ魔石があるだろ? こいつにはテストとして膨大な情報処理をやらせる」
目の前の魔石に触れ、その構成の中にテスト用の式を書き加える。
最初は明るい色をしていた魔石は徐々に暗色へと変化していき、最後にはひび割れ、崩壊してしまった。
「あ、壊れちゃった……」
「次はこの二つだ。二つとも既に組成は書き換えて、相互に処理を補完するよう設定してある。じゃあ、同じ処理をやらせてみよう」
先程の魔石と同様に、テスト用の式を書き加える。
が、今度は色の変化も見られず、魔石は明るい色を保ったままだった。




