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失われる光 その⑤


「……キナ、もういい」


 フィラを傍らに除けながら、俺は立ち上がった。


「でも、クルシュさん!」

「あいつもキナと同じなんだ」

「……え、どういうことですか?」

「さっきナクファは魔石を使わずに火球を発動したんだ。そんな芸当が出来る種族はひとつだけ。そうだろう、ナクファ」

「……魔導院の中じゃ公然の秘密ってことになっているのよ」


 ナクファは右手で髪に触れ、耳を露出させた。


 そこにあったのはキナと同じ、長く尖った耳だった。


 キナが息を呑む音が聞こえた。


「だから言っただろう、キナに似た気配がすると」


 俺の隣でフィラが呟く。


「驚いたわ、まだこの国にエルフが残っていたなんて。魔石の普及と同時に居なくなったものだと思っていたけれど」

「わ、私も……地元の人たち以外のエルフと会うのは初めてです」

「まあ、とにかくそういうわけだ。俺はキナを守らなきゃならない。あんたの言うことは聞けない」

「……そう。意志は固いようね。分かったわ。ここは一度手を引きましょう」


 ナクファが片手を宙へ向ける。


 すると、背後に居た兵士たちが引き下がり、彼らはそのまま闇へ消えていった。


「話が早くて助かるよ」

「私も同胞を手に掛けたくはないから。見つかると良いわね、異種族の楽園が」


 ナクファはそう言い残し、兵士たちと同じように闇へと消えた。


 チャンスをふいにしてしまったような気もするが、それはそれ。今更あの王宮に戻りたくもないし。


「良かったんですか、クルシュさん。錬金術師に戻るチャンスだったかもしれないのに……」

「いいさ、気にするな。それより宿に戻ろう。騒ぎになったら面倒だ」





 さて。


 朝になるとフィラの体調も戻り、不調なのは俺たちのバイク2台だけになった。


「簡単な修理で直ってくれるといいんだけど」

「いくら王都でもバイクの修理も無料ってことはないですよね?」

「残念ながら違うな」

「インテレストは家族も同然ですが……」

「いつか王都中の家がバイクを家族扱いするようになれば無料になるかもな。ええと、ここの宿は朝食もセットだったっけ?」

「はい、料金に含まれていたはずです。行きましょう、クルシュさん」


 荷物の片付けもほどほどに俺たちは部屋を出て、一階の食堂に降りた。


 他の客は既に食事を終えていたのか、食堂には俺達以外の人影はなかった。


 ある意味貸し切り状態というわけだ。ラッキーと言えなくもない。



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