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失われる光 その③


「病人が寝ておるというのに、常識のない奴らじゃな」

「走ってるときに喋るな、舌噛むぞ」

「妾は誇り高き妖狐族の末裔。そんな間抜けなことをするわけがにゃっ……」

「ほら、噛んだだろ」

「う、うるしゃい! そういうなら妾を抱きかかえ丁重に運ぶがよい。病人なのだぞ!」

「はいはい」


 フィラを背に、俺たちは路地裏を走る。


「インテレストはどうしましょう、クルシュさん!?」

「またあとで取りに行くしかないだろ。今は逃げ切ることを――」

「どこへ逃げようと言うのかしら、クルシュ君」


 前方から聞こえてきた声に、俺は足を止めた。


 続いてキナも立ち止まる。


「……誰だ、あんた?」


 路地の奥、薄暗い闇の向こうへ尋ねると、ひとつの人影が近づいて来た。


「忘れてしまったの? 君が特級錬金術師だった頃はよくお喋りしていたじゃない」


 藍色のローブで身を包む、長身で妖艶な女性。


 俺はその姿に見覚えがあった。


「ナクファか……。魔導院のトップが俺に何の用だ?」


 俺が言うと、ナクファは喉を鳴らして笑った。


「うふふ、覚えていてくれたのね。嬉しいわ」

「く、クルシュさん、この人誰ですか? まさか元カノですか!?」


 キナが俺の背後から囁く。


「そんなわけねえだろ。誰がこんな何考えてるのか分からないような奴と付き合うかよ」

「あらそう? 私は結構好きだったけどね、君のこと」

「今の俺は国に追われる身だ。俺なんかと会ったことが王宮の連中に知られればあんたの身分も危ないんじゃないのか?」


 ナクファの背後には数名の兵士が控えていた。


 俺達を襲撃させた首謀者はこいつで間違いないだろう。


「口調が随分荒っぽくなったんじゃない、クルシュ君?」

「余計なお世話だ。それより、さっさと本題に入ったらどうだ? あんたもたまたまこの辺を散歩してたってわけじゃないんだろう?」

「ムダな話を嫌うところは変わっていないわね。良いわ、本題に入りましょう。クルシュ君、あなた魔導院の仲間にならない?」

「……は?」


 俺は思わず訊き返していた。


 え、俺が魔導院に?



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