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失われる光 その①


 俺はテーブルの上に上り、照明のカバーを外して魔石を取り出した。


 照明が消え、部屋の明かりはランプだけになる。


「………………」

「どうしたんですかクルシュさん、そんなに難しい顔をして」

「この魔石、もうすぐ寿命だ」

「寿命?」

「エネルギーを使い果たしちゃうんだよ」

「ああ、古い魔石だったってことですか」

「製造番号を見るに、つい一か月くらい前のものだ。まだ新しいよ」

「え? じゃあ、不良品だったってことですか?」

「それも違うな。こいつはそもそも、この程度の性能しか出せないんだよ」


 魔石の組成を書き換え、低出力でも安定して作動するように設定し直す。


 天井の照明に再び魔石をはめ込むと、今度は点滅することなく灯りが灯った。


「あ、点きましたね。でもちょっと暗くなったような……」

「照度は落ちても長持ちするよう設定を変えたんだ。全く、こうなるって分かってたはずなのにな」

「どういうことですか? もしかしてクルシュさんが特級錬金術師じゃなくなったことと関係があるとか?」


 俺は何も言わずテーブルから降り、椅子に座り直した。


「……ま、そんなとこ」

「そういえば詳しい理由を教えてもらったことがありませんでしたね。教えてください、クルシュさん」


 キナの方へ視線を向けると、予想外に真剣な顔でこちらを見ていた。


 確かに詳しい話は――していなかったよな。


 俺は咳払いをして、キナへ向き直った。


「特級錬金術師として俺がやっていたのは魔石の製造工程を管理することだった。貴族や王族たちの無茶な要求に答えるには、魔石そのものをもっと簡単に製造できるようにする必要があった。研究の末、俺は魔石の製造工程を簡略化する製法を編み出した―――が、その方法では魔石の性能が大幅に劣化してしまう。だからそれを公にはしなかった。でも、俺の部下に製法を盗まれて、俺は国を裏切ったという冤罪で特級錬金術師の地位を剥奪されることになったというわけさ」

「では、現在の特級錬金術師さんはどなたなんですか?」

「俺から魔石の製法を盗んだゴートって男だよ。まあ、悪いものが世の中に広まりやすく、良いものは駆逐されやすいっていうのは社会の常だからな。いずれこの王都の魔石も一斉に使えなくなるだろう。それも近いうちにな」

「近いうちって、どのくらいなんです?」


 キナの言葉に、さっき見たばかりの魔石の状態を思い出す。


「もって数日ってところだ」

「……え?」

「新型の魔石は、恐らく王都中に広まっているだろう。それらがみんな一斉に壊れだす。この照明器具の同じようにな」

「それって大変なことじゃないですか!」

「大変だよねえ……」


 俺は窓の外を見た。


 夜の街並みを街灯の光が照らしている。それは先程と変わらない。


 が、数日後、この光は一斉に失われるだろう。



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