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幻覚が囁くのよ その②

「こうなったら仕方ない、病院へ連れていこう。キナ、ここから一番近い病院はどこだ?」


 キナは無言で道沿いの看板を指さす。


 そこには王都の方向を示す矢印が書かれていた。


「………まったく。戻る気は全然なかったんだけどな」


 俺はバイクの進行方向を王都へと向けた。





「栄養失調と熱中症だそうですね」


 王都の外れにある宿屋。


 ベッドではフィラがすやすやと寝息を立てていた。


 薬が効いたらしい。全く、手のかかるやつだ。


 俺とキナは木造の椅子に座り、荷物の整理をしていた。


 窓の外はもう暗くなっていて、魔石を動力にした街灯が夜の街を照らしていた。


「変な病気じゃなくて良かったよ。具合が悪いなら悪いって早く言ってくれれば良かったんだ」

「フィラちゃんも言い出しづらかったんですよ。変な気を遣うところがあるから」

「無駄にプライドが高い、の間違いじゃないのか? まあ、手遅れにならずに済んで良かったってことにしておくか」

「それにしても、王都のお医者さんはフィラちゃんの尻尾を見ても何も言いませんでしたね。異種族だってバレちゃうと大変なんじゃないかと思ったんですけど」

「異種族を奴隷扱いしているのなんて北部だけだよ。王都じゃそんな差別意識はない……はずだ。俺は王都育ちだけど、異種族が差別されてるなんて知らなかったからな」

「それに、お薬代も請求されませんでしたよ。言ったら払わされそうだったからずっと黙ってたんですけど」

「王都は裕福だからな。病院代とか子供の学校代とかは全部無料なんだ」

「えっ、そうなんですか!? ……何か意外と良いですね、王都。私ここに定住しちゃおうかな」

「それは無理だな。数日滞在するだけならともかく、定住となれば王都に関係する仕事をしている人間かその関係者じゃないと許可が下りない」

「そうなんですかぁ、残念です……」


 キナがうつむいたとき、不意に天井の照明が点滅し始めた。


「なんだ?」

「故障ですか?」


 キナが照明を見上げる。


「いや……機器の故障って言うよりは魔石の不具合みたいだな。なあに心配するな、この俺に任せなさい」

「さすが元特級錬金術師さん! 頼りになります!」

「『元』は余計だよ。ランプ点けてくれるか?」

「はい、分かりました」


 そう言ってキナはテーブルの上のランプを灯した。



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