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王国凋落編 その⑦

 


 特級錬金術師の執務室。


 かつてクルシュのものだったその部屋は、豪奢なソファや高級感ある机椅子、鮮やかな色をした絨毯などで彩られている。以前は書類や実験器具に埋もれていたとはとても思えない。


 その豪華な椅子に腰かけたゴートは、眉間に皺をよせながら書類を眺めていた。


 魔導院のナクファから受け取った書類だ。


 そんな彼の神経を逆撫でするように、一本の電話が入った。


 小さく舌打ちをしながら、ゴートは受話器を取る。


「何の用だ。僕は忙しいんだ」

『申し訳ありません、ゴート様。実は初期に生産された魔石に不具合が生じているとの報告がありまして――』

「初期ロットに不具合はつきものだ。恐らくは出荷時のチェックに見落としがあったんだろう。担当者は誰だ? 責任を取らせろ」

『しょ、承知いたしました。しかし……』

「しかし、何だ? 言ってみろ」

『い、いえ。見落としにしては数が多く、根本的な組成の問題ではないかという声も……』


 はあ、とゴートはため息をついた。


「君は確か、東部の工場に勤めているんだったな」

『へ? は、はあ。その通りです』

「東部は魔石の生産拠点だ。激務で疲れているんだろう。明日から勤務地を変えてあげよう。西の国境沿いに小規模な工場がある。生産ノルマも少なくて済む。代わりに夜盗が出るらしい。夜道にはくれぐれも気をつけてな。それから、給料の減額は了承しておいてくれ」

『え、な、な、何を仰っているのか全く……』

「今まで勤務ご苦労だったな」


 そう言ってゴートは受話器を置いた。


 それから手元の書類を睨みつけると、力任せに机の上へ叩きつけた。


「無能どもが……っ!」


 新製法の魔石が流通し始めてひと月が経とうとしていた。


 そしてひと月という時間は、新製法の魔石が負荷に耐えられなくなるタイムリミットでもあった。


 ゴートは再び受話器を取ると、縋る思いでダイヤルを回した。


『……はい、魔石研究室です』

「ああ、僕だ。ゴートだ。魔石の劣化を食い止める方法は見つかったか?」

『い、いえ。まだ組成の解析が終わったばかりです。これから具体的な対策を――』

「遅すぎる! お前たちに予算を優先的に回しているのは何のためだと思っているんだ!」

『も、申し訳ありません。しかしこの製法はゴート様が研究されたものでしょう。であればゴート様が最もお詳しいはず。せめて研究にご助言をいただければ――』

「僕の仕事は魔石の生産量を向上させることだ! お前たちに助言することじゃないっ!」


 大声で怒鳴り散らし、荒々しく受話器を置くゴート。


 受話器を睨みつけながら、ゴートはもう一度、無能どもが、と呟いた。



読んでいただきありがとうございます!


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