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希望の船 その⑦


「ぼくが君の魔石を破壊するのが少しでも遅れていれば、完全に焼かれていたよ。危ないところだった」

「どういう……仕組みだよ」


 俺の胸で魔石が割れ、その破片が風に舞っていく。


 マズい。予備の魔石は無い。


 このままじゃ――殺される!


 突然船が動き始めた。


 進路を変え、後方へと進み始める。


「おっと、船のコントロールを奪われたままだったか」

「……俺たちを殺すのか?」

「まさか。ぼくも時間切れさ。完全に回復できたわけじゃない」


 ドブラが右手をひらひらと振る。


 その指先が灰になって、散っていった。


 唇を歪めるような笑みを浮かべながら、ドブラは言葉を続ける。


「この船は君たちにあげよう。今回の実戦データにはそれだけの価値がある。また次会えるときが楽しみだよ、特級錬金術師」

「……元、だけどな」

「どうかな? 真の意味で特級に値するのは君だけだよ、ぼくの知る限りはね」


 そう言いながら、ドブラはよどみない足取りで船の先端へと向かう。


「どこへ行く気だ?」


 そっちは海だぞ、と俺が言う前に、ドブラが口を開く。


「ぼくはそろそろ帰るよ。薬が切れる前位にね。じゃあ、またいつかどこかで会おうね」


 まるで近所の飲食店でたまたまあった友人に言うような調子でドブラはそう言って、完全に脱力しきった様子で海中へと身を投げた。


 自殺―――なわけがないよな。


 海中へ落ちても死なないという、自身の肉体に対する絶対の自信があるのだろう。


「クルシュさん!」


 俺を呼ぶ声に振り返ると、キナがこちらへ駆け寄って来るところだった。


「イオンさんの方はどうなったんだ? 船は動いているみたいだけど」

「獣人族のみなさんが操舵室を占拠したんです。あの黒服さんたちも降参だそうですよ」

「そうか……分かった」

 少なくとも、このまま奴隷として売られることはなくなったわけだ。


 一安心―――と言っていいのだろうか。


「どうされたんですか、クルシュさん?」


 キナが首を傾げた。


 俺は答える。


「いや……俺の脳が欲しいなんて、変わった人間もいるんだなあと思ってさ」

「クルシュさんの脳みそですか? ……お鍋に入れたりすると美味しいんでしょうか?」

「人の脳をかにみそ感覚で食べようとしないでくれる?」


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