希望の船 その⑥
「じゃあここで俺がお前を倒しても、正当防衛だな?」
「どうだろう。ぼくは君に大事な商品を奪われているからね。……まず手始めに君の生体機械とぼくの生体技術、どちらの方が戦闘に向いているか検証してみよう」
ドブラが動く。
魔石で強化された今は、その動きを目で追うことは不可能じゃなかった。
俺の腹部を狙うドブラの右腕を叩き落としつつ、カウンターで相手の顎を狙う――が、ドブラの方が少し速い。俺の右手は蹴り上げられ、空いた首筋に手刀を叩きこまれた。
咳き込むのを堪え、ドブラから距離を取る。
「…………!」
「ミスだったな。さすがにぼくの方がケンカ慣れしているからね。単純な殴り合いなら分があるってわけか」
「じゃあ、こういうのはどうだ!?」
魔石の組成を一部変更。
メモリの一部に動力以外の属性を追記。
火焔を生成し圧縮―――放出!
「!」
俺が放った火球はドブラの半身を焼いた。
しかし、消し飛んだはずの相手の身体は、次の瞬間には再生していた。
「な……!?」
「いや、確かにそうだよね。魔石と融合しているってことは炎や電気、水まで意のままに生成できるってことか。目の当たりにしてようやく納得できたよ」
「どういう……ことなんだ!?」
「え、ぼくの身体のこと? こんなのは大したことないよ。治癒能力に優れた下等生物はいっぱいいるからね。それを応用しただけの話だよ」
身体が半分無くなっても再生できる生き物なんて――――聞いたことないけど!?
「だったら全身を一瞬で消し去るしかないってことか」
「試してみるかい?」
「お言葉に甘えて!」
船の上で火球とか雷撃を放つのはリスクが高すぎる(さっきはやったけど)。
接近して、近距離から最大火力を叩きこむしかない。
「……反撃しないとは言ってないけどね」
「!」
ドブラが身をかがめる。
その視線は、明らかに俺の胸―――魔石を狙っていた。
だけど、多分、俺の方が速い!
「消えてなくなれ!」
範囲を極力絞り、最大火力で放出する。
一瞬でドブラの全身は焼けた―――はずだった。
俺は胸の辺りに痛みを感じ、視線を下にやった。
魔石にヒビが入っている―――!?
「……なるほど、いいデータを取得できた」
「な……っ」
ドブラが焼けた後に残った僅かな灰―――それが集まり、再びドブラの身体を形成した。
そしてドブラは、何事もなかったかのように俺の目の前に立っていた。




