異種族の楽園へ? その③
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特にチェックが厳しいわけでもなく、俺たちは普通に乗船することが出来た。
乗客は俺たちの他に十数人。それぞれに尻尾があったり顔の形状が違っていたりしていた。彼らも人間以外の種族なのだろう。
「船に乗るのは初めてです! 楽園までは一体どのくらいかかるんでしょうね?」
キナが期待に満ちた声音で言った。
「さっき聞こえて来た話によればそう遠くないらしいぞ。まあ、昼前には着くんじゃないか?」
「そうですかー。どんなところでしょうね、異種族の楽園って」
「さあな。少なくとも、売買される恐れはなくなるんじゃないか?」
と、そのとき船内アナウンスが流れた。
『これより出発します。船が揺れますので、乗客の皆様は船室へお戻りください』
「もう出発か。早いな」
「船室へ戻りますか?」
「そうだな。えーと……こっちか」
慣れない船の上を右往左往していると、ようやく船室ブロックへの入口が見えて来た。
そのとき、ふと違和感を覚え、俺は足を止めた。
船室フロアの入口の、更に向こう側。
見覚えのある黒服姿の男がいた。
「……あれは【上流階級ギルド】の……?」
そもそもなんでこの船に人間が?
何かがおかしい。
俺はとんでもない見落としをしているんじゃないのか?
「クルシュさん、どうされたんですか?」
入口の方からキナが呼んでいる。
「いや……なんでもない。行こう」
大きなエンジン音を立てながら、船が動き出した。
波が上下するのに合わせて船も揺れ始める。
異種族の楽園、【上流階級ギルド】の黒服、人間の立ち入りが禁止、北方の行政当局からの強い規制……。
薄暗い通路をしばらくあるくと、俺たちの部屋があった。
扉を開けると案外普通の客室で、特に怪しい様子はなかった。
俺の考えすぎか?
キナとフィラを先に部屋へ入れ、扉を閉めた――――瞬間、鍵のかかる音がした。
オートロック? いや違う、中からも開かない!
今更ながら俺の頭の中ですべてのピースが繋がった気がした。
「……やられた!」
「クルシュさん?」
「これは罠だ! 俺たちは騙されたんだ」
キナが驚いたように目を丸くする。
「どういうことですか?」
「全部【上流階級ギルド】が仕掛けたことだったんだよ。この船は、【上流階級ギルド】から逃れようとする人間以外の種族を捕らえるための罠だったんだ」
「え?」
「北方の行政当局は【上流階級ギルド】の人間が実権を握ってるんだろ? そんな奴らが異種族の楽園の伝統――人間の立ち入り禁止なんてものを守ると思うか? おそらくそれは、誤って普通の人間がこの船に乗るのを防ぐための口実だよ」




