路地裏で その②
走り出したフィラを追って俺とキナも駆けだす。
しばらく走ると人通りの少ない路地裏に辿り着いた。
「この先にさっきの引ったくり犯がいるのか?」
「ああ。もう近いぞ、静かにしろ」
俺たちは三人並んで、壁の陰から路地の奥を覗き込んだ。
男が俺から奪ったものを漁っている様子が見えた。
「……で、誰が行くんだ?」
「相手はれっきとした犯罪者だ。生半可な覚悟では返り討ちに遭うかもしれんぞ」
「そうですか……。皆さんを危ない目に遭わせるわけにはいきません。ここは私が」
キナが手を挙げた。
「いや、ただのエルフでは危険だ。ここは妾が行こう」
続いてフィラも手を挙げる。
「おいおい、そこまで言うなら俺が行くよ」
「「どうぞどうぞどうぞ」」
「なんでだよ結局俺が行くのかよ!」
理由は分からないが涙が出て来た……とりあえず合掌。
刹那、ひったくり犯が顔を上げた。
バッチリ目が合った。
顔を布で覆ったその男は、俺たちに気付くと踵を返し、路地の更に奥へ走ろうとした。
「行かせるか!」
懐から魔石を取り出し、火球を発射する。
男が足を止めた瞬間、俺は背後から男に飛びかかった。
「ううっ!?」
俺によって地面に押さえつけられた男がうめき声をあげる。
「もう逃げられないぞ観念しろ、そして俺から盗んだものを返せ!」
「うううう……っ!」
「何が言いたいんだ? 辞世の句なら聞いてやるぞ」
「うう……肥溜めみたいなにおいだ……」
俺は男の首を絞めた。
「く、クルシュさん! 八つ当たりはいけません!」
「チッ、良かったなキナが優しくて!」
両手の力を緩めると、男は苦しそうに息をつきながら言った。
「わ――悪かったよ。あんたから奪ったものは返す」
「当たり前だ!」
「ひとつだけ教えてくれ。俺は逃げ足には自信があるんだ。絶対に逃げ切ったと思っていた。どうして俺の居場所が分かったんだ?」
「匂いを辿ったそうだ。ウチのロリは優秀なんだよ」
「……そこのお嬢ちゃんは獣人なのか……?」
男がフィラの方へ視線を向けた。
ちなみにフィラは尻尾も耳も帽子や衣服で隠しているから、見た目では獣人とは分からない。
「そうだ。見知らぬ男にお嬢ちゃん呼ばわりされる覚えはないがな」
「そ―――そうだったか。いや、すまん。獣人に会ったのは随分久しぶりでな。実は俺もそうなんだ」
そう言うと、男は口元の布を外した。
現れたのは齧歯類のような大きな前歯だった。




