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路地裏で その①




 結局俺は押し入れで寝た……。


 理由は分からないが、青いタヌキがポケットから妙な道具を出してくれるという夢を見た。


 凶兆でなければ良いが……。


「考え事ですか、クルシュさん?」


 キナの声で我に返る。


 俺はターキの街の表通りを歩いていた。


 両手には買ったばかりのアウトドア用品を抱えている。


 3人分の寝袋や火を起こす道具、その他細々としたものだ。


「いや、大丈夫だ。昨日見た夢を思い出していただけだよ」

「夢ですか? そんなに面白い夢だったんですか?」

「別に面白くはなかったんだけど……気が向いたら話すよ。で、次はどこの店に行くんだ?」

「そうですね、道具は揃いましたからあとは食料品店でしょうか。フィラちゃん、お金はあとどれくらいありますか?」

「金貨が数枚だな。まあ、保存食をいくらか買う分は問題ないだろう。となれば急ごう。妖力で金貨の存在を維持するのが徐々に億劫になってきたところだ」


 そのとき、何者かが俺にぶつかってきた。


 小柄だ―――しかしすれ違った瞬間に見えた顔は中年の、それも男の顔に見えた。


 男はそのまま小走りで通り過ぎ、人込みに紛れて行った。


「なんだあいつ。マナーの悪い奴もいるんだな」

「……ちょっと待てクルシュ。お前、荷物が減ってないか?」

「え?」


 フィラに言われて確認してみると、さっき買ったはずの寝袋が手元から無くなっていた。


 さっきの奴に盗まれたらしい。


「ひったくりですか!? 早く追いかけなきゃ!」

「この特級錬金術師を相手にしようとは命知らずなやつめ! 魔石で成敗してやろうじゃないか!」


 魔石で―――ん?


 どうやって成敗するんだ?


 魔石を使って相手の位置を探知―――は無理だ。相手が魔石に反応する何かを持っていない限りは。


 遠距離から魔術魔石で攻撃―――も無理だ。どこに行ったのか分からない。


 身体強化を使って追跡――も、同じ理由で無理。


 あれ?


 もしかして俺やっちゃいました……?


「まったく情けない男だなお前は。そのまま動くな」


 フィラが俺の腹部に顔を寄せる。


 な、何してんだこいつ!? 急に発情期か!?


 少ししてからフィラは俺から顔を離し、


「こっちだ、ついてこい」

「分かるのか?」

「獣人は鼻が利くからな。匂いを辿ればすぐに追いつく。しかし……」


 フィラが顔を顰めた。


「何だよ」

「お前、服は買い替えた方が良いぞ。肥溜めみたいな匂いがする」


 失礼な。


 俺の一張羅だぞ。


 しかし肥溜めか。少なからずショックだ。次の街で買い替えよう―――フィラが金を出してくれるならな!



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