王国凋落編 その③
※※※
「ゴート、君はやはり素晴らしい逸材だ。これからも国のためによろしく頼むぞ」
「はっ、大臣からの期待を裏切らぬよう、邁進して参ります」
特級錬金術師にのみ与えられる王宮内の魔術工房にて、ゴートへの賞賛を済ませた大臣は機嫌よく部屋を去って行く。
コルナはそれを横目に、現在自分が任されている仕事へ取り組んでいた。
(あれからしばらく経ったけど、特に問題はなく魔石の量産は進んでいる……だけど、何か嫌な予感がする。クルシュがこの方法を実践しなかった理由があるんじゃないの?)
「――おい、見たかコルナ?」
コルナが考え事をしていると、大臣を見送ったゴートが入り口から彼女のデスクに向かって声を張り上げた。
「まさか大臣の方から会いに来るとはな」
「あー……うん、凄いよね。国のお偉いさんが直々に来るなんて」
「やはり僕は正しかった。僕の名がこの国の歴史に残るのは間違いないな」
「あ、あはは……そうかもね」
ゴートの自信溢れる言葉に対し、コルナは苦笑いをしてやり過ごす。
コルナはこの一ヶ月ゴートの仕事振りを間近で見ていたが、何一つクルシュに勝っている点は見つけられなかった。
強いて言えば、貴族や王族との付き合い方が上手い――という点だろうか。
しかし、それにしても。
(ゴートも一級錬金術師レベルの実力はあるはずなんだけど、なんかやけに手際が悪いような……設備の整った王宮で働いてたはずなのになんでだろう、サボってたのかな……?)
とその時。
魔術工房のドアが素早く2回ノックされた。
「入れ」
ゴートが入室の許可を出すと、開いたドアから一人の部下が入って来た。
「ゴート様に通達です。魔導院の長であるナクファ様が会議の場を求めております」
「魔導院……ああ、未だに人間は自力で魔法を会得するべきだと考えている、懐古主義に取り憑かれた奴らの集まりか。要件は?」
「はい、現在量産されている魔石の性能に関する伝達事項と聞いております」
「フッ、魔石の組成も知らん人間に何が分かる」
「お断りいたしますか?」
「まあ待て。聞くところによるとこの王宮で最も美しい魔術師なんて呼ばれているそうじゃないか。だから一度会ってやるとする。もしかすると、俺とお近づきになりたいがための口実かもしれないな」
(そんなわけ……まあいいか。現状うまくいってるのは事実だし、今のゴートの地位なら落とせない人間はいないと言ってもいいかも。……相手が魔導院の女王様じゃなければね)
そんなことを思いつつ、コルナは聞き耳を立てて仕事を続行する。
「会談を開くことは了承しよう。ただ俺も忙しい。日時はこちらが指定すると魔導院に伝えておけ」
「了解しました。ゴート様の都合のいい詳細な日時が決まりましたらご連絡ください。私からお伝えしますので」
そう言って魔術師が退出した後、ゴートは自身の予定を確認し――再びコルナへと声を掛ける。
「コルナ、魔導院との会議にはお前も連れていく。来週以降の予定を空けておけ」
「……へ?」
まさかそんな言葉が飛んでくるとは思っていなかったので、コルナはつい拍子抜けした声を上げてしまう。
魔導院は魔術の研究における国の最高機関。
王国における発言力は、魔石が普及した現在もなお健在だった。
そんな権力ある組織のトップとの会談に同席を?
「な、なんで私が? 他にもっと優秀な人を連れて行った方がいいんじゃない?」
「必要ない。魔導院の連中とでは実のある話し合いにはならないだろう。真っ先にスケジュールの確認が取れるお前だけでいい」
「あー……なるほどね」
たった二人だけで出席するのかぁ、とコルナは内心ため息をついた。
もうちょっと相手に敬意を払ったら? なんて、喉まで出かかった言葉を飲み込んで。
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