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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
7章 THE TOWER OF PRINCESS
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65 My Ainsel

 保守派と改革派の睨み合いが続いている。まだ、お互いが攻撃しあうという雰囲気までには至っていないが、何かのきっかけで、本当に戦闘が始まってしまいそうな雰囲気だ。


「アンネローゼ……。世界の平和の為だ。どうか、協力してくれないか? 一緒に平和な世界を守っていこう!」とシンデレラさんは言う。シンデレラさんのエメラルドの瞳は、真剣さと切実さが伴っている。


「くだらない。シンデレラ。貴方こそ、世界の平和のために協力をしなさい。私たちと一緒に、聖女に頼らない平和な世界を作りましょう?」とアンネローゼさんは言い返す。アンネローゼさんの漆黒の瞳には、固い決意と意思が宿っている。


 保守派も改革派も、望んでいるのは平和だ。なぜ、対立する?


「ちょっと待ってください。保守派の皆さんも、改革派の皆さんも。みんな平和を望んでるんですよね? それなのに争うって変ですよ」と俺は言った。同じ、平和という目標に向かっている。現に、遠回りや誤解があったけれど、危機をみんなで打ち返すことができた。赤の女王から世界は救われた。どうして、180度違った方向へと向かっていってしまうのか。


「では、単刀直入に言いましょう。聖女を亡きものにする。その条件を飲みなさい。そうすれば、争う必要なんてないわ」とアンネローゼさんが言う。


「馬鹿を言うな。そんなことは断じて受け入れることなんて出来ないぞ!」


「だ、そうよ、デジレ。交渉は決裂……。そして、1つだけ言っておくわ。私は、何としてでも聖女を亡きものにする。その目的達成のためになら、あなたたちを殺すことも辞さないわ。それに、保守派の姫が抜けたところで世界の平和は揺るがないわ。クエスト協会と騎士たちで、その平和は保っていけるもの」


「それならば私も言わせてもらおう。いばら姫は大切な友であり、同時に忠誠を誓った主でもある。姫としてではなく、騎士として、主を害する者を討たせてもらおう」とシンデレラさんは、剣を抜く。


「だからちょっと待ってくれ。リーゼロッテさん! ルーティアさん! アリスさん! ラプンツェルさん! 本当にそれでいいんですか? それに、雪の女王! 興味無さそうにしてるけど、お前は本当にそれでいいのか?」と、平行線のシンデレラさんとアンネローゼさんではなく、他の姫に話を振った。


「興味が無いわけではありません。妾はもともと無表情なだけです……。妾は、友。ルクレティアを守ります。それを害する者は全て敵です」と雪の女王は言う。

 


「それならば、私の敵というこね」とアンネローゼさんは言う。


「そういうことであろうな」と雪の女王が静かに答えた。


「デジレさん。アタシは私の手の届く人をみんな守りたい。アンネローゼもきっと同じ気持ち。きっとみんなが幸せになれるんだよ。だから、アンネローゼを信じる。本当は、シンデレラさん、ルーティアさん、アリスさんの事も守りたい! でも、それが叶わないなら、せめて、アンネローゼだけに悲しい、辛い思いをさせたくない。私は、最期までアンネローゼに協力するよ。アンネローゼだけに重い荷物を背負わせたりはしない。アタシも一緒に背負いたいんだよ」とリーゼロッテさんが、一言一言噛みしめながら言った。リーゼロッテさんなりの苦渋の決断なのだろう。


「アタシは、姉さんにどこまでも付いていくぜ! それが地獄だろうとな!」とラプンツェルさんが言い切る。屈託の無い笑みだ。本当にこの人は、この状況が分かってるのか? と俺は思いたくなった。


「私……。シンデレラの為なら、泡になってもいいの。それが私の覚悟」とルーティアさんが言う。


「…… 私は、アンネローゼさんの作る平和の永続性を信じられません。よって、私の結論が変わることはありません。聖女を害するならば、それは平和を害するのと同じことです」とアリスさんは言った。


 緊迫した空気の中。カツン、カツンという足音が響いた。


「どうやら、ルクレティアが目覚めたみたいだな」と雪の女王は言った。


「ルクレティアには指一本触れさせんぞ」と、改革派の一瞬の隙をつき、上へと続く階段を背中にして、シンデレラさんが剣と盾を構える。そして、アリスさんも、ルーティアさんもそれに続く。

 さっきまで上の階に登らせまいとする改革派の立ち位置から、上から降りてくるルクレティア様を守る保守派と、ポジショニングが逆転をした。


 カツン、カツンというハイヒールの足音は徐々に大きくなる。そしてその音は、上から響いてくる……。


「皆さん。ご心配をおかけしました」

 金色こんじきの長い髪。そして頭に薔薇の花。そして印象的なのは、その金色こんじきの髪に巻き付いている茨。聖女様が着ているドレスにも茨は絡まっている。ピリシカフルーフの塔と同じように、茨が巻き付いている。まるで、茨がルクレティア様を縛りつけているように見える……。


「ルクレティア。無事で何よりだ」とシンデレラさんがルクレティアさんの両手を取り、それをしっかり握りしめている。


「お姉さま。今さらお目覚めになっても栓無きことです。この世界は、聖女に守ってもらう必要などございません。また、お眠りになってください」とアンネローゼさんは冷たく言い放つ。


「貴様っ!」と、シンデレラさんはアンネローゼさんを睨みつける。


「アンネ。あなたにも苦労をかけたわね。私の為に一生懸命になってくれて」と、ルクレティア様はアンネローゼさんに対して微笑んでいる。蕾だった花が一瞬にして満開となるような笑みだ。


「私は聖女を葬り去るために尽力をしていただけです。さぁ、お姉さま。聖女であることを止めてください。その体に巻きつく呪われた茨。お姉さまをこの忌まわしい茨の塔へと縛りつけているその茨を解き放ってください! 何も心配されることはありません。聖女が封印したとさる古の魔物も、聖女がいなくなったとしても封印が解けることはありません! この世界で何か問題が起きても、クエスト協会がその解決に当たります! もうお姉さまがこの世界の人柱ひとばしらとなって、お一人でこんな塔で生活する必要なんてもう無いんです!」とアンネローゼさんは叫ぶ。アンネローゼさんの感情的な声を俺は初めて聞いた。泣き叫ぶような声だ。


わたくしは、たくさんの人に守られています。だから、私もたくさんの人を守りたいの。みんなが助かるならこの痛み(いばら)、私が引き受けましょう」


「お姉さまの分からず屋! お姉さまは、本当は、外で自由に遊びたい。この塔から出て、いろんな場所に行きたい。友達が欲しい。ずっとそう思っていらっしゃったのを私は知っています。お姉さまだけが我慢する必要なんてもうないのです。お姉さまだけが1人ぼっちでこの塔に縛られる必要なんてないんです! さぁ、お姉さま。聖女であることを止めてください!」

 それは、アンネローゼさんの懇願であるように俺には思えた。

 

「友達なら大丈夫。ベランダに来る妖精さんや小鳥達が私のお友達。色々な事を教えてもらうの。それに、友達なら出来たもの」とルクレティア様は、雪の女王に微笑む。そして雪の女王もそれを笑顔で返した。俺は、雪の女王の笑顔を初めて見た。


「それでも、友達が出来たとしても! この塔からお姉さまは出ることができないのですよ? 世界を見て回りたい。ルチコル村の林檎畑を見てみたい! 空の草原エングヒンメルから流れ落ちていく瀑布を見てみたい! そう願っていたのは、お姉さま自身のはずです! 自分を犠牲にするのをもうやめてください! お優しい姉上が、世界を背負う必要なんて無いんです。私が世界を担いますから!」


「それも、もういいの。世界を旅しました。ルチコル村。素敵な村だった。林檎も本当に蜜がたっぷりで美味しかった。グレーテルのお菓子の家のカスタードクリームも美味しかった。本当に世界は綺麗だった。美しかった」とルクレティア様は言う。


「なっ! そんなことはあり得ません! 寝言は寝てからにしてください!」とアンネローゼさんは言う。


「いえ…… 私は確かに旅をしました。そこにいる……」とルクレティア様は俺の方を見る。他の姫達も驚いたように俺の方を見る。


「やはり、そういうことですか……」とアリスさんが呟く。


 ルクレティアさんが俺のところに駆け寄ってきた。


「デジレさん。私はルクレティア。聖女様、とみんなは呼ぶけれど……」とルクレティア様が俺に話かけてきた。

 ルクレティア様はどうして俺の名前を知っているんだ? 初対面のはずだ……。


「貴方には、エインセールと呼んでほしい……」


「え?」と俺は戸惑う。エインセール?


「デジレさんを呼んでいたのはわたくしなんです。そして、Ainsel(エインセール)は、Ainsel(自分自身)なんです。ずっとデジレさんと旅をしてきたのは私なんです」と言って、ルクレティア様は自らの長い髪を両手で持ち上げ、二つ結びのヘアースタイルにした。それは、エインセールの髪型だった……。金色の輝く髪。似ている……。大きなエインセール。人間になったエインセール。


「本当にMy Ainsel(エインセール)なのか? 」


「ええ。私はYour(エイン) Ainsel(セール)です。私も、お昼寝と、おしゃべりが好きよ。ふふっ。はしたないと、叱られてしまうけど。だけど…… 元の姿に戻ってしまうと、これでは、デジレさんの肩に乗っておしゃべりすることが難しいですね」とルクレティア様は言って笑う。

 笑った時に右手で右頬を触る癖……。間違いなくエインセールだと俺は確信した。


「無事でよかった。それに、俺を呼んでくれていた人が、エインセールで俺は嬉しい」と、俺はルクレティア様、いや、エインセールを抱きしめた。


「ありがとう。デジレさん」とエインセールも答える。


 どれほどの時間、互いの無事を安心し、抱き合っていただろう……。


「ごほん。お姉様。それにデジレさん。私の話が途中だったのですが?」


「あっ。ごめんなさい。アンネ。私ったら……」と恥ずかしそうにルクレティア様は俺の胸から顔をあげた。


「俺も、す、すみません」と謝る。再会の喜びに夢中で気付かなかったが、姫や雪の女王に注目されていたようだ。は、恥ずかしい……。


 大きなため息をアンネローゼさんは吐いた。そして、言葉を続ける。

「では、話を続けさせていただきます! お姉さまは目を覚まされましたが、姉上1人に世界を背負わせたりしません。それに…… 見たところ、お姉様にも恋人ができた様ですし。お姉様のことだがら、恋にうつつをを抜かして、聖女の務めを果たせないでしょう。今まで我慢された分、旅に出るなり、恋人とデートするなり、楽しんでくださいませ」

 先ほどまでのアンネローゼさんの勢いは無い。どうやら、毒気が抜かれてしまったようだ。


 アンネローゼさんは、エインセールと俺が握り合っている手を見つめた。そして、「それにしても…… 恋人とはよろしいことですね……。 いえ! 私は、お姉さまの代わりにこの世界を背負うと決めたのです。恋にうつつを抜かしている暇なんてありません! これからはクエスト協会の運営などとても忙しくなるでしょう……。恋人を作っている時間など…… ありません! 私は姉上の代わりに毒林檎を自ら食べると誓ったのですから」とアンネローゼさんは、自分に言い聞かせるように言った。


「アンネローゼ。一人で背負い込むことなどないぞ。お前だけが毒林檎を食べる必要などはない。もし私で良かったら力になろう」と、シンデレラさんが、アンネローゼさんに握手を求める。

 アンネローゼさんがどういう想いで、改革派を率いていたのか分かったのだろう。いや、改革派なんてものを組織するそのずっと前から、アンネローゼさんは自分の大切な人の幸せを願い努力してきたのだろう。


「ふん! 貴女が食べる毒林檎などございませんわ。あなたは、林檎などではなく、灰でも被っていらしたら? そちらの方がお似合いよ」とアンネローゼさんは、シンデレラさんとの握手を拒んだ。


「な! 灰を被るのも、毒林檎を食べるのも、同じことであろう。喩えということが貴女には分からないのか!」


「灰と毒林檎が同じですって? くだらない。変てこなカボチャの馬車に乗っているのを見た時から思っていたのだけど、あなたの目は節穴ではなくて? それに、未だにあのカボチャの馬車をルヴェール城の中に飾っているのですってね。本当に感性を疑わざるを得ないわ」


「なんだと! お、お前こそ、なんだあの変てこな7人の御者はっ! 馬を操りながら寝ている御者は要るわ、ぼんやりした御者はいるわ、お前の御者選びこそ、全然なっていないぞ。お前の御者に、ジークフリードの爪の垢でも飲ませてやりたいわ」


「私の御者は優秀よ! あなたの御者も優秀かも知れないけれど、肝心のあるじが無能なのだから、あなたの御者も可愛そうね!」


「なんだと!」


 シンデレラさんとアンネローゼさんは、口喧嘩を始める。終わる気配がない……。


「ふっ。あの2人は本当は仲が良いのよ。本当に似たもの同士……。誰かの為に一生懸命になれるところが特にね」とエインセールが言うと、口論をしている2人以外の全員が笑った。


 ルクレティア様の手に引かれて、塔の窓辺から外を眺める。昇ってきた朝陽の光が、塔の窓から俺達のいる部屋に差し込んできた。窓から見える景色は、朝露に輝く花々のように、美しかった。美しい世界だった。

ご愛読ありがとうございました。

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