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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
7章 THE TOWER OF PRINCESS
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62 シュレーディンガーの猫は、そもそも箱の中には居なかった

 アリスさんが展開した騎士叙任用の魔法陣の中心に、俺とアリスさんは移動する。


 そして俺は、アリスさんの前に跪く。


「私、アリスは、この男デジレを騎士とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、彼の忠誠を信じ、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる騎士の契約のもとに誓う」とアリスさんが宣誓をすると、魔法陣から白い光が発生し、アリスさんを包み込む。アリスさんが着ている服まで真っ白に染まる。


「汝、デジレは、このプリンセスアリスを主君とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、忠誠を誓い、主君を想い、主君のみに添うことを、神聖なる騎士の契約のもとに、誓いますか?」とアリスさんは問いかける。


 俺が、それに応答としたとき、俺の耳に微かな声が届いた。


「―― 来て、―――― なの―― 」

 俺は、地面からハッと顔を上げた。この声!


「何か、聞こえませんでしたか?」と俺はアリスさんに尋ねる。


「ここへ来て――――」


 また聞こえた。この声は…… 俺を呼んでくれた人の声だ。俺の記憶にある、俺に楽しげに話しかけていたエインセールの声…… とは似ているけれど、でも違うような気がする。

 俺は立ち上がり左右を見渡す。

 

「デジレさん。神聖な儀式の途中ですよ」とアリスさんが咎めるように言った。


「アリスさん、ちょっと待ってください。俺を呼んでいる声が聞こえるんです」


「ここへ来て――――」


「ほら! また聞こえた!」と俺は少し興奮しながら言った。


「…… 確かに…… わたしにも聞こえました……」と言って、アリスさんは魔法陣を消した。


「測定された量子運動に何者かが干渉した!? でも、そんなことは不可能なはず……。まさか、ラプラスの微笑み……。シュレーディンガーの猫は、そもそも箱の中には居なかった。α(アルファ)崩壊と猫の生存の因果律を結ぶ紐が解けた。それはつまり、ボロメオの輪がもともと連結していなかったことを示唆する……」とアリスさんは親指の爪をかじりながら考え事をしているようだった。


「俺を呼んでいる人は、エインセールじゃない? いや、アリスさんの言っていたことが正しいなら、エインセールは実は生きているってことですか?」と俺はアリスさんに尋ねる。


「いえ、そんなはずはありません。エインセールさんは確実に死にました…… が、もしエインセールさんが死んでいないのであるとすれば、エインセールさんはもともと存在していないということなんです」


「なっ。でも、アリスさんもエインセールをこの目で見ただろ? 存在していないなんてことはあり得ない! エインセールにはちゃんと足もあったし、幽霊なんかでもない」


「分かっています。エインセールさんが存在していないなんてことはあり得ません。ですが、そのあり得ないことが起っているのです。シュレーディンガーの猫は、ラジウムのα(アルファ)崩壊によって毒ガス装置が作動し、間違いなく死ぬ。そして間違いなくα(アルファ)崩壊は起こりました。それにも拘わらず、猫が生きているということは、その猫は、そもそも箱の中には居なかったということです。そうなりますよね?」とアリスさんは言う。


「いや、猫とか難しいことは分からないけど、重要なのは、俺を呼ぶ声が聞こえたってことだ。そして、エインセールは生きているかも知れないってことだろ?」


「端的に言えばそうなります。そうですね…… ふっ。因果律が崩壊した現状では、原因を考察することに意味ないですね。ピリシカフルーフへ、急ぎましょう」とアリスさんは、言った。


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