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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
7章 THE TOWER OF PRINCESS
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60 涙はどれだけ泣いたら枯れるのだろう

「アリス、おはよう! アリス、おはよう!」とネリーが騒ぎ始めた。


 どうやらアリスが目覚めたようだ。アリスの両手両足は彼女が気絶している間に縛らせてもらった。そして、アリスが持っていたメイスは、生垣の中へと隠した。万が一、アリスが拘束を外しても、素手では俺には勝てない。逃げようとしても逃がすつもりもない。


 俺は剣を片手にアリスに近づき、「お前に聞きたいことがある」と厳しい口調で問いかけた。アリスの目にはいっぱいの涙。

 そしてアリスは泣き始めた。「お母さん、お父さん」と。


 泣いているアリスは、不敵な、そして邪悪な笑みを浮かべた少女のものでは無かった。ただの14歳の女の子のように思える。


「アリス、やっと泣けた。アリス、やっと泣けた」とネリーは嬉しそうに飛び跳ねていて良くわからないが、正直、俺の毒気も抜かれてしまった。嘘泣きではないように思う。アリスは、しゃくり上げて泣いている。


 アリスは泣き疲れて眠ることもなく、もう5、6時間は泣き続けている。俺は、その様子を少し離れた木陰でずっと見守っていた。


 14歳の女の子が泣いているのであれば、それは介抱をするなり、頭を撫でてやるなりするべきなのだろうが、俺はそんな気になれない。エインセールの仇だ。それを俺は忘れていない。だけど、泣きじゃくっている女の子を問い詰めるのも気が引けた。それに、アリスに問い詰めようとすると、ネリーが「アリスを苛めちゃだめ、アリスを苛めちゃだめ!」とあの小さい体を張ってアリスを守ろうとするのだ。

 これじゃあ、どっちが悪い奴なのか分からないじゃないか……。何も事情を知らない人が見たら、女の子を苛めているのは俺で、それを守ろうとしているのがネリー。そんな感じに見えてしまうだろう。

 

 涙が枯れるって、どれだけ泣いたら枯れるんだろうな。そんなことを俺は、アリスとネリーの様子を見ながらぼんやりと考えていた。


 夕暮れとなった。アリスもだいぶ落ち着いてきたようだ。俺は、再びアリスに近づく。剣は握ったままであったけれど、もうここでアリスを殺そうなんては考えは無くなっていた。とりあえず、シンデレラさんに生きたまま引き渡すと決めていた。アンネローゼさんに引き渡すことも考えたが、もともとアリスは保守派の姫だったし、それを纏めていた保守派のリーダーであるシンデレラさんに渡したほうがいいと思ったからだ。


「お前を、神聖都市ルヴェールまで連れて行く」と俺はアリスに告げた。


「分かりました。その際には、お願いがあります。皆様にお伝えしたいことがあるので、出来れば姫達全員が集まる様にしてください」とアリスはしっかりとした口調でいう。14歳の言葉使いではない。それに、もうちょっとふざけた感じの言葉使いだったような……。


 そんな違和感を俺は覚えながらも、

「また、全員集めたところでまとめて殺すって作戦じゃないよな?」と俺は殺気を込めて言い返す。


「私が行ってきたこと……。エインセールさん、そしてデジレさんにも大変なことをしてしまいました。それ以外にも、ピラカミオンの皆様にしたこと……。また、数えきれない命を奪ってきました。デジレさん、本当に申し訳ありませんでした」と、アリスは両手両足を縛られながらも、土下座のようなことをして頭を地面にこすり付けている。


「し、信じられるか!」


「分かっています。すべてが終われば、デジレさんが私を殺してくださっても構いません」とアリスは状態を落として、まっすぐに俺の方を見た。大人びた、決意がある顔だった。


「今、殺してもいいんだぞ」と俺は、剣先をアリスの喉元へと持っていく。もちろん、殺すつもりなどは無いけれど、アリスが語っているのは偽りなのか、真実なのか、真心で語っているのか。それは確認する必要がある。


「では、私のこれから話すことを必ず姫達に伝えてください。そうデジレさんが約束してくださるなら、ここで私を殺しても構いません。それが私の贖罪です」と、怯むことも無くアリスは言う。純粋で透き通るような瞳をしている。


「聞くだけ聞いてやる」と俺は剣を納めた。


「では、端的に言います。この世界を覆い隠そうとしている強大な闇の正体。それは、赤の女王です。彼女が、この世界を覆い隠そうとしているのです。その闇から世界を守るために聖女ルクレティア様は眠りに入られたと雪の女王は言っていましたが、その通りです。赤の女王は私にルクレティア様を亡き者にしようとしていました。ですがその目論見は失敗し、自分の存在が明るみに出てしまった以上、聖女ルクレティア様の命を直接的に狙ってくるでしょう」とアリスは言った。


「それは……。ルクレティア様が眠られているのは、ピリシカフルーフ。そして、そこにはリーゼロッテさんしかいない。赤の女王はもうピリシカフルーフへ向かっているのか?」


「その情報は、私も知りませんでした……。ですので、赤の女王もそれは知りません。しばらくは大丈夫でしょう。ですが、赤の女王は、雪の女王をまずは狙うでしょう。もちろん、二千年前に封じられた古の獣、ベヘモット、レビヤタンの封印を解きに動くということも考えられますが、その線は薄いと思います」

 うっかり、ルクレティア様が眠られているのは、ピリシカフルーフだと漏らしてしまった……が、大丈夫だろう。


「その狙われる雪の女王はどこにいるんだ?」


「それはわかりません。ですが、大方の予想はつきますよね?」とアリスは言う。雪の女王の魔力はアリスによって封じ込められたままだ。地理的な場所を考えれば、雪の女王の身柄は、ルヴェールか、ウォロペーレアだろう。どうやら、一を知って十を知るような頭脳は失われていないらしい。


「まずは、一旦、姫全員で集まる必要があるな。現状では、姫が世界中に散らばっている状況だ」と俺がいうと、「私も、戦力分散を図っていましたから」とアリスは申し訳なさそうに言った。


「雪の女王の手錠は、はずして貰うぞ?」

 すでに、雪の女王は敵じゃないことが判明している。聖女であるルクレティア様と一緒に世界を守ろうとした人だ。手錠をはずし、魔法を使えるようになれば心強い仲間となるだろう。


「もちろんです。ですが…… 私自身も、直接手錠に触れなければ解除できません」


「それは結構厳しいな……」と俺は思う。


「申し訳ありません。そもそも、解除するつもりがまったく無かったので」とアリスは言う。


「解除するつもりがないなら、最初から解除できない手錠を作ればいいのに。やっぱりノンノピルツの連中は変わっているな」と俺は言う。もちろん、皮肉を込めて。


「赤の女王の出すクイズには、一見、解答が存在しないようにみえる。もしくは矛盾しているように見えます。ですが、必ず答えがあるのです。それに影響されているのです。赤の女王がやることには、必ず対処法が存在します。それが分かりにくいように巧妙に隠されていますが……。ネリー! あの緑の薬をノンノピルツ中に撒いて。あと、ティーパーティーの3人には飲ませてあげて。お願いね! ノンノピルツの人達も、きっと赤の女王の支配から逃れたがっているわ!」とアリスは言った。


「ネリー頑張る! ネリー頑張る!」とネリーも飛び跳ねる。


「ノンノピルツの人達も支配されていたのか?」


「ええ。みんな、支配されて、そしてどこか心が歪んでしまっています。かつての私のように」とアリスさんは悔しそうに唇をかんだ。


 そうだったのか…… あのライツ、リューゲ、ドリットも頭のおかしいやつ等だとは思っていたが、それがイザベラの影響だったとは……。親父はその支配から幸運にも抜け出すことができたのだろう。


「アリス。君はエインセールの仇だ。だが、それは一旦置いておく。イザベラを倒し、世界を守るのに協力してくれるなら、仇討ちは一旦保留にする」


「ありがとうございます。私はここで殺されても文句の言える立場でも無いですが、私を殺すことを保留にしていただけるのは大変嬉しいです。赤の女王を倒すことに関しては私も全力を持って協力します。私なりの理由もありますし」とアリスは言った。

 俺は、その理由とは彼女の父母の事なのだろうと思った。だが、それは口にしない。


 俺は、アリスを縛っていた縄を切った。


「メイスは、あそこの生け垣の間に隠してある」と俺はアリスに教えた。


 メイスを探し出したアリスに俺は「まずは、クエスト協会に行って、先ほどの情報を皆で共有しよう。そして、みんなでピリシカフルーフに集まろう!」と言う。そして、走り出す。

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