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THE TOWER OF PRINCESS タワーオブプリンセス  作者: 池田瑛
6章 It takes all the running you can do, to keep in the same place.
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59 ボクね、ボクはネリーなんだよ! ネリーはボクなんだよ!

 アリスとの戦いは数時間にも及んだ。お互いが決定打を打てない。もちろん、俺はアリス対策をしてきたし、アリスに魔法を放つチャンスなど与えない。俺が有利な接近戦にひたすら持ち込む。我慢比べ。

 アリスもメイス捌きと体術で俺の攻撃を最小限にし、大したダメージなど無い。


 何度目の鍔迫り合いだろうか……。そんな時、「ボクね、ボクはネリーなんだよ! ネリーはボクなんだよ!」と鍔迫り合いをしている俺とアリスの脇の生け垣から、ネリーが飛び出してきた。


 俺は、アリスに注意を向けながらも、ネリーにも注意を向け、ネリーからの攻撃にも対応できるようにする。


 しかし……ネリーは、「ボクね、ボクはネリーなんだよ! ネリーはボクなんだよ!」と言いながら、俺とアリスの周囲をぐるぐると回るばかり。気が散る……。


 アリスと俺の腕力は拮抗していた。アリスは、右膝を俺の股間へと蹴り上げて、俺の急所を狙ってきた。俺はそれを腰を引いて躱すと同時に重心を下に移動させる。そして、俺の全体重を、地面を蹴った勢いも加えて、アリスにぶつける。アリスは、蹴り上げたばかりの右足で、地面に左足しかついていない。アリスの体の重心も胸の位置にある。今なら下押せる。


 俺の腕の腕力、足の力、重心を移して盾を押し出す。それによってアリスの体勢は崩れた……が、アリスは俺の押す力に身を委ねるような、風に揺られる柳のように、そのまま後方へと押し飛ばされる。押し飛ばされた力を利用してそのままバク転をアリスはして、そしてまた俺に向けてメイスを構えている。盾の衝撃は、かなり相殺されてしまったようだ。その証拠にアリスは唇を吊り上げて笑っている。俺は、あのアリスの笑顔を、無邪気な微笑みだと思っていたのだろうか。もう、邪悪な笑みとしか俺は感じない。


「ボクね、ボクはネリーなんだよ! ネリーはボクなんだよ! アリスはね、アリスなんだよ! いつも笑っているけど、心では泣いているんだよ! アリスは優しいなんだよ! ネリーね、全部思い出したんだ!」


 アリスがバク転して後方に引いたことによる、俺とアリスの距離。その間にネリーが割って入って来た。そして、ネリーは俺に白い尻尾を向け、アリスの方を見ていた。


「ネリー。邪魔だよ? 私の邪魔をしないで。急いでるんで…………? ネリー? 時計はどうしたの?」とアリスは怪訝な表情でネリーを見つめている。


「ボクね、ボクはネリーなんだよ! ネリーはボクなんだよ! 全部思い出したんだ! ネリーはネリー! アリスはアリスなんだよ!」と言って、ネリーは短い両手を大の字に開いた。俺とアリスの衝突を防ごうとするかのように……。ネリーの右手には、時計ではなく、緑色の液体の入った瓶が握られていた。


 なんなんだ? さっきからこの白いウサギは……。右手に持っている液体は、ネリーを追っかけている際に入った小屋の棚にあったのに似ているような気がする。


「邪魔をするってんなら、後でお仕置きだよ? 時計の針が進むのを、もっと早くしてあげるからね! キャハハハハ」とアリスはネリーを見ながら笑い出す。


「ネリーはネリー! アリスはアリスなんだよ!」

 ネリーは、アリスが言った脅しに反応することなく、俺とアリスの間に割って入ったままだ。


 アリスは、笑顔のままゆっくりとネリーに近づき、そして、そのまま回し蹴りをしてネリーを生け垣へと吹き飛ばした。「邪魔者は消えたから、続きを始めようか?」とそしてアリスは不敵に笑う。


 望むところだ!! と俺は、剣と盾を構えて、アリスとの距離を詰める。アリスは魔法が使える。距離を離されると俺が不利だ。

 俺は、接近戦にまた持ち込む。


 長期戦になるかも知れないが、アリスのメイスを剣で受け止めながら、盾をアリスにぶつけて少しづつダメージを蓄積させていくしか確実に勝つ方法はなさそうだ。


 再び、アリスと俺の鍔迫り合いが続く。盾の隙間を縫うようにアリスは俺の腹脇などに蹴りを入れてくるが、重心が高いままの右足の筋力だけの蹴り。痛いには痛いが、警戒をして力を入れて筋肉の鎧を纏っておけば、大したダメージにはならない。むしろ、アリスが攻撃してくることによって産まれる隙の方が貴重だ。


 俺の右脇腹にアリスの蹴りが入ったが俺はそれに耐える。


 その時だった……。


「ネリーはネリー! アリスはアリスなんだよ!」と言って、ネリーが俺とアリスの方へとガラス瓶の栓を抜きながら走ってくる。ネリーからの攻撃か? と俺の警戒が一瞬、アリスからネリーへと移った。そして、その隙を逃すアリスではなかったようだ……。

 俺の左膝辺りに熱い痛みを感じだ。アリスの蹴りだった。アリスの履いている黒い靴の硬い爪先が、俺の左膝の関節部分に直撃した。骨の軋む音が聞こえた。


 しまった…… 意識の飛びそうになるような痛みの中で俺は舌打ちを打つ。左足に力が入らなくなり、俺が倒れ込む形になると同時に、


 バシャッ

 

 アリスの顔が緑色に染まる。そして、ヨモギの腐ったような異臭が広がる。


 左足の痛みに耐えながらも、匂いで鼻がもげてしまいそうだった。


 臭い……。俺は率直にそう思った。


 しかし、アリスの反応は違った。


「アッアッアゥ……。 頭が…… 痛い……」

 アリスは、メイスを地面に落とし、そして両手で頭を抱えながら、深酒をした酔っ払いのようにふらふらとしている。


「ネリーはネリー! アリスはアリスなんだよ!」とネリーは叫ぶ。


「あぅ、あ、頭が痛い。頭が割れちゃう!!」とアリスは叫びながら地面に倒れた。そして、陸に揚げられた魚のように痙攣をしている。


 臭いだけの緑色の液体の効果? と思いながらも、アリスにトドメを刺すべく、俺は足を引きずりながらアリスの方へと向かう。


 しかし、「ネリーはネリー! アリスはアリスなんだよ!」と言って、ネリーは俺の行く手を阻む。ネリーは、目に涙を溜めている。


 俺とネリーの目があった。ネリーの目は真っ赤だった。悲痛なウサギの瞳だった。


「わかったよ」と俺は、剣を庭園の芝生に地面に突き刺す。そして、

「意識が戻っても抵抗に出来ないように、縛らせては貰うぞ。傷つけたり命を奪ったりは…… とりあえず…… しない」と俺は言った。


「大丈夫。アリスはアリスなんだよ! 誰にでも優しい。いつも笑顔な女の子なんだよ!」とネリーは嬉しそうに、ウサギ持ち前の脚力で飛び跳ねながら、そう答えたのだった。

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